高橋巧vs中須賀克行、ホンダvsヤマハのワークス戦争は11点差!最終戦・鈴鹿が見逃せない。

全日本ロードレースJSB1000【写真:MOBILITYLAND】

オートバイレースの「全日本ロードレース選手権」、その最高峰クラスである「JSB1000」クラスが今年も熱い。全7イベントで争う2019年シーズンの締めくくりは今年も鈴鹿サーキットで開催される「MFJグランプリ」で決着する。ホンダとヤマハがファクトリーチーム(=ワークスチーム)を参戦させるJSB1000を制するのは?現代の「HY戦争」とも言える両陣営の戦いをプレビューする。

今シーズン、熱く展開されるホンダとヤマハの対決【写真:MOBILITYLAND】
今シーズン、熱く展開されるホンダとヤマハの対決【写真:MOBILITYLAND】

11点リードする高橋巧の逃げ切りか?

今季のJSB1000はホンダとヤマハのワークスチームのエースライダーがシーズンを通じて強さを見せる、まさにガチンコ対決の舞台となっている。シーズン4勝をマークし、獲得ポイント222点を得てランキング首位にいるのがホンダワークスの「Team HRC」に所属する高橋巧(29歳)。

ホンダワークスの高橋巧【写真:MOBILITYLAND】
ホンダワークスの高橋巧【写真:MOBILITYLAND】

高橋巧は2008年に当時の中排気量クラスであった全日本GP250で王者になった後、最高峰クラスにステップアップし、今年で11年目のシーズンを迎えている。若くしてホンダのエース格として大きな期待を背負ってきたライダーは2017年ついに最高峰クラスでのチャンピオンを獲得。その功績は2018年からのホンダワークス復活、エースライダーへの抜擢へと繋がっていった。

それ以前もメーカーのエース格ではあったものの、ワークスライダーになり、ワークスチームという最高の環境を得られたことで、高橋巧の目つきは一変した。勝つこと、他メーカーを撃破することを至上命題に掲げられた高橋はインタビューやトークショーでもワークスライダーらしい力強いコメントを発するようになり、人間としての魅力がさらに増した印象を受ける。

2017年に悲願のチャンピオンには輝いたものの、そのシーズンは全日本ロードレースのタイヤ規定の変更により、最大のライバルである中須賀克行(ヤマハ)が苦戦。中須賀の何度かのリタイア、ノーポイントにも助けられた部分もあった。しかし、昨年からはワークスチームでの参戦となり、マシンの開発、そして自身の速さに磨きがかかり、今季はついに決勝レースでも中須賀を凌駕する存在になった。

表彰台の頂点に立った高橋巧と宇川徹監督【写真:MOBILITYLAND】
表彰台の頂点に立った高橋巧と宇川徹監督【写真:MOBILITYLAND】

熟成され、さらにエンジンパワーが増したワークス仕様のホンダCBR1000RR SP2を武器に第2戦・鈴鹿では中須賀を圧倒。コースレコードタイムとなる2分3秒874をマークして、決勝第2レースでは16秒も引き離して連勝した。今季のホンダは夏の鈴鹿8耐に最も大きなプライオリティを置いて開発を進めて来ただけに、鈴鹿スペシャルとも言えるホンダCBRの最終戦・鈴鹿での戦闘力は盤石と言える。

ただ、今季の高橋巧は怪我にも苦しんだ。鈴鹿8耐後のプライベートテストでマシントラブルから転倒して腓骨を骨折。怪我を抱えながらの状態で夏のツインリンクもてぎ、岡山国際サーキットでのレースを戦わざるをえなかった。優勝は絶好調だった第3戦・スポーツランド菅生以来遠ざかっており、中須賀とのポイント差は最終戦を前に11点に縮まっている。

追う中須賀はプレッシャーをかける

第6戦・オートポリスの2連勝で最終戦に向けて現実的な逆転が可能な差に詰めて来たのが、ヤマハワークス「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」の中須賀克行(38歳)。今季は高橋巧(ホンダ)のシーズン中盤の快進撃もあり、常に接戦あるいは差をつけられながらのシーズンを過ごして来た。第2戦・鈴鹿の第1レースでは3周目にまさかの転倒、リタイアを経験。ここでの無得点が大きなビハインドとなっている。

中須賀克行【写真:MOBILITYLAND】
中須賀克行【写真:MOBILITYLAND】

ただ、その後のレースは全て表彰台を獲得してシーズンでは5勝をマークして勝利数で高橋巧(ホンダ)を上回る活躍を見せているのは流石、8回の最高峰クラスチャンピオンを獲得している絶対王者だ。最終戦・鈴鹿は11点差で逃げる高橋を追う状況となるが、果たして逆転は可能だろうか。

第2戦・鈴鹿での転倒は中須賀らしくない転倒だった。それだけ序盤からプッシュ(攻めた走り)をしないといけないほど、鈴鹿でのホンダの速さは驚異的だった。登場から5年が経過したヤマハYZF-R1は圧倒的な強さを見せたものの、今やクラシカルなモデルと化しており、新型仕様を次々に発表するホンダやカワサキとの差はどんどんゼロに近づいている。特に鈴鹿ではエンジンパワーという意味ではヤマハは苦しい立場に置かれている。

そんな苦しい展開も予想される最終戦・鈴鹿で絶対王者の中須賀がどこまでホンダの高橋巧を追い詰められるか、サーキットは例年にない緊迫感に包まれるチャンピオン争いになることは間違いない。ヤマハとしては鈴鹿8耐でカワサキワークスに勝利を奪われてしまっただけに、全日本JSB1000のチャンピオンは何としてでも取らなければならないタイトル。ヤマハの諦めない姿勢に期待したい。

逆境を跳ね除けツインリンクもてぎでも優勝した中須賀【写真:MOBILITYLAND】
逆境を跳ね除けツインリンクもてぎでも優勝した中須賀【写真:MOBILITYLAND】

王者候補の野左根、水野の役割は重要

2レースで最大56点(優勝25点+ボーナス3点)が得られる最終戦・鈴鹿では、高橋巧(ホンダ)、中須賀克行(ヤマハ)に加えて、ランキング3位の野左根航汰(ヤマハ)=199点、ランキング4位の水野涼(ホンダ/ハルクプロ)=177点にも逆転王者になる可能性は残されている。

しかし、メーカーの威信をかけたワークス対決の舞台である全日本JSB1000ではホンダとヤマハのエースライダーが最もチャンピオンに近いところに居る以上、その援護射撃に廻ることも若手ライダー2人の役割と言える。コンディション、タイヤマネージメントを考えて、場合によってはペースセッターとしてレースを引っ張ることになり、レースのキーマンとなるのが野左根と水野だ。

野左根航汰【写真:MOBILITYLAND】
野左根航汰【写真:MOBILITYLAND】

中須賀と同じ「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」に所属する野左根は場合によっては中須賀に先を譲る可能性もあるだろう。仮に最終戦・第1レースで中須賀克行が優勝した場合、野左根が2位で高橋巧を3位に抑え込むとポイント差は11点差から6点差になる。これはヤマハ勢としては第2レースの逆転チャンピオンへ向けた最大級のストーリー。

しかし、第2レースの結果も全く同じになった場合、高橋巧(ホンダ)は1点差でチャンピオン獲得となり、高橋は2戦連続で3位に入ればチャンピオン獲得という心理的には多少楽な条件だ。それでも最終戦、チャンピオン決定戦にのしかかるプレッシャーは相当なもの。かつてこれは中須賀克行も経験したことで、中須賀は攻めすぎて自らピンチを呼び込んでしまったことがあった。この辺の心理戦も1日の中で展開されるドラマとなる。

とはいえ、野左根航汰(ヤマハ)は今季、ウェットレースとなった岡山国際サーキットで優勝。中須賀に迫るポテンシャルを見せているだけに注目度が高い。そして、「MuSaShi RT HARC PRO」に所属する水野涼(ホンダ)はツインリンクもてぎ、岡山国際サーキットと連続の2位表彰台。鈴鹿でも印象的な速さを披露している水野は充分に表彰台を狙えるポテンシャルがある。それだけに先輩の高橋巧を援護射撃するとなれば、将来的なワークスチーム入りの可能性を広げるだろう。チャンピオンの可能性もある4人は絶対にリタイアだけは避けたい最終戦だ。

水野涼【写真:MOBILITYLAND】
水野涼【写真:MOBILITYLAND】

また、今季はこの4人以外で表彰台に登ったのは渡辺一樹(スズキ/ヨシムラ)が一度2位表彰台に上がっただけで、それ以外の全てのレースでホンダ、ヤマハのトップライダーが表彰台を独占している。スズキ、カワサキのライダーがトップ争いに絡んでくるとなれば、チャンピオン争いはかなり混沌とした状況になるだろう。

特に今回は決勝レース1(14周)決勝レース2(20周)の決勝は両レースとも11月3日(日)に開催され、予選が11月2日(土)の朝と夕方に行われることもポイント。気温、路温、路面のコンディション変化にうまく対応し、なおかつ転倒やトラブルなどを引き起こさない「良い流れ」を掴むチーム&ライダーは一体誰だろうか。近年にないドラマチックな週末になることは間違いない。