Yahoo!ニュース

世界の頂点へ!今、海外で日本人若手レーサーの活躍が目覚ましい 〜F1を目指す4輪レーサー達〜

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
FIA F3で表彰台を獲得した角田裕毅【写真:Red Bull】

日本人ドライバーがF1から姿を消して久しい。F1に乗った日本人ドライバーは2014年の小林可夢偉(当時ケータハム)が最後であり、日本人ドライバー不在のシーズンは実に5年目となっている。レッドブル・ホンダの活躍で10月の「F1日本グランプリ」のチケットは指定席が残り僅かになるほど、F1人気が復活の兆しを見せているものの、本当の意味での人気復活には日本人F1ドライバーの参戦が欠かせない。

しかし、日本人不在で5年も経つとそれが当たり前になってくるのか、近年はF1 を目指す若手ドライバーたちの活躍はあまり報じられなくなった。来年誰かがF1に昇格できるか?と問われると、F1昇格に必要なスーパーライセンスのポイント(=40点)を満たす選手は少なく、答えは「ノー」に近い。その現実を多くのモータースポーツファンは理解しているものの、遠く離れたヨーロッパを舞台にF1を目指して戦う若手レーサーたちが目覚ましい結果を残し始めているのもまた事実なのだ。

ヨーロッパを中心に開催されるF1への登竜門レース、FIA F2【写真:FIA F2】
ヨーロッパを中心に開催されるF1への登竜門レース、FIA F2【写真:FIA F2】

松下信治はF2でランキング6位

F1直下のシリーズとして全12戦・24レースで開催されている「FIA F2」には今季、松下信治(まつした・のぶはる)が英国の名門チーム「カーリン」からレギュラー参戦している。

松下信治【写真:FIA F2】
松下信治【写真:FIA F2】

松下は全日本F3選手権の王者を獲得し、渡欧。2015年〜17年にホンダの育成ドライバーとして「GP2」(現FIA F2)に参戦した。日本人として初めてモナコGP前座レースで優勝を果たすなどして活躍したが、2018年に帰国を命ぜられて日本のスーパーフォーミュラで活動。しかし、自らスポンサーを集めて資金を捻出し、ホンダがその熱意に応える形で、再び「FIA F2」に参戦した。

FIA F2で戦う松下信治【写真:FIA F2】
FIA F2で戦う松下信治【写真:FIA F2】

25歳になった松下にとってトータル4年目のF1直下レース挑戦。もう後が無いシーズンだ。前半戦こそ結果が残らず苦戦したものの、第6戦・レッドブルリンクではキャリア初の第1レース優勝を果たし、第10戦・モンツァの第1レースでも優勝。合計2勝を飾り、4回の表彰台でランキング6位につけている。

F1昇格に必要なスーパーライセンスポイントは40点。「FIA F2」チャンピオンになれば40点を獲得し、一発でF1昇格の資格を得ることができるが、10点を保有する松下はランキング4位(30点)の獲得でその資格を得られる。

2019年9月25日時点で、FIA F2でランキング4位のジャック・エイトキン(イギリス)とのシリーズポイント差は37ポイントと大きい。残すところあと2戦・4レースを全て優勝あるいは表彰台で終えるのが理想だが、ランキング4位を狙う道のりは簡単ではない条件だ。

自らの努力でF1へのラストチャンスに賭ける25歳の松下信治。運命の残り4レース。今週末のF1ロシアGPの前座としてソチで開催される「FIA F2」のレースに注目が集まる。

【松下信治】

・埼玉県出身/25歳

・参戦レース:FIA F2 (ランキング6位)

・F2/GP2 参戦4年目

公式ホームページ

佐藤万璃音が旧F3で王座獲得

松下がレギュラー参戦する「FIA F2」に9月のモンツァ戦から参戦しているのが佐藤万璃音(さとう・まりの/20歳)だ。彼は中学卒業後に単身渡欧し、自動車メーカーの育成枠に入らずにレースをしてきた異色の経歴の持ち主で、ヨーロッパでのフォーミュラカーレース挑戦はすでに5年の経験がある。

佐藤万璃音【写真:FIA F2】
佐藤万璃音【写真:FIA F2】

そんな佐藤は今季、旧型F3マシンを使用する「ユーロ・フォーミュラ・オープン」に参戦。このレースは全9戦・18レースで争うシリーズで、今後F1への近道となる「FIA F3」や「FIA F2」への参戦を狙う若手たちがトレーニングを主目的に参戦するレースである。佐藤は2017年、18年とヨーロッパF3に参戦し、旧F3となる「ユーロ・フォーミュラ・オープン」に継続参戦。F3で実質3年目のシーズンとなっていた。

経験で勝る佐藤は開幕戦・ポールリカールで優勝するとシーズン中盤は6連勝を含む合計8勝を達成。圧倒的なリードを築き、第8戦・バルセロナで最終戦を待たずしてチャンピオンを獲得した。日本人ドライバーがヨーロッパのジュニアカテゴリーで王者となるのは実に14年ぶり。その時は小林可夢偉がフォーミュラ・ルノー2.0で王座となったが、現在の「FIA F4」にあたるクラスであるため、F3クラスのレースでは金石年弘(ドイツF3)、福田良(フランスF3)、佐藤琢磨(イギリスF3)がそれぞれのシリーズで王座になった2001年以来の快挙だ。

ユーロフォーミュラオープンで8勝した佐藤万璃音【写真:EuroFormula Open】
ユーロフォーミュラオープンで8勝した佐藤万璃音【写真:EuroFormula Open】

自動車メーカーの育成ルートを歩まずに独自路線でF1へのステップアップを目指す佐藤。ヨーロッパで5年間もしっかりと経験を積んだ20歳は「FIA F2」に「カンポスレーシング」から残り2戦・4レースに参戦するが、来季以降の活動に注目が集まる。

【佐藤万璃音】

・神奈川県出身/20歳

・参戦レース:EuroFormula Open (2019年王者)/FIA F2(スポット参戦)

・自動車メーカーの育成枠ではない独自路線

公式ホームページ

レッドブル育成の角田も優勝!

佐藤が王者になった「ユーロ・フォーミュラ・オープン」には他にも日本人F1候補生たちが参戦している。昨年、日本の「FIA F4」で激しくシリーズチャンピオンを争った角田裕毅(つのだ・ゆうき/19歳)と名取鉄平(なとり・てっぺい/19歳)だ。

角田裕毅【写真:Red Bull】
角田裕毅【写真:Red Bull】

ヨーロッパのレース参戦が1年目の彼らは今年から発足した「FIA F3」への参戦がメインであり、経験を積むために旧F3の「ユーロ・フォーミュラ・オープン」にも併せて参戦している。彼らはホンダの育成ドライバーとしてヨーロッパ行きのチャンスを掴み、2つのレースに参戦するという手厚い環境で武者修行中だ。ホンダの中で評価が高いことはその環境を見ても明らかだ。

とはいえ、ヨーロッパ1年目の彼らにいきなり快進撃の結果を求めるのは酷かもしれない。多くのライバルたちはヨーロッパのサーキットですでに何年も走ってトレーニングを積んでいるからだ。しかし、それでも平凡なリザルトばかり続いては日本に帰国させられることもある厳しい環境であることは間違いない。

メインとなる「FIA F3」では角田、名取共に予想通り苦戦。新発足のワンメイクフォーミュラカーレースとはいえ、角田が所属する「イェンツァー・モータースポーツ」は旧GP3で昨年一度も表彰台に登っていないチーム。名取も「カーリン・バズ・レーシング」(=カーリン)から参戦するが、今季のチームベストは6位と結果が残っていない。「FIA F3」では前身のヨーロッパF3で6年連続のチャンピオンチームとなった「プレマパワー」が圧倒的な強さを引き続き見せており、今季も14レース中7勝を飾っている。

モンツァでついに優勝した角田裕毅【写真:FIA F3】
モンツァでついに優勝した角田裕毅【写真:FIA F3】

そんな中でF1チームも持つ「レッドブル」の育成ドライバーになった角田裕毅が第7戦・モンツァの第2レースで初優勝。ウェットからドライへと路面コンディションが変化する難しいレースで、チーム力の差を跳ね除ける力強いレースを見せた。国内でレースを戦ってきた時代から天才的なコントロール能力を見せてきた角田の実力がようやくヨーロッパの舞台で花開いたのである。角田はランキング8位。1年目からスーパーライセンスポイント獲得圏内まで上昇してきた。

【角田裕毅】

・神奈川県出身/19歳

・参戦レース:FIA F3(ランキング8位)/EuroFormula Open(ランキング5位)

・2018年 FIA-F4 JAPAN 王者

・レッドブル/ホンダ育成ドライバー

公式ホームページ

ユーロ・フォーミュラ・オープンで優勝した名取鉄平【写真:EuroFormula Open】
ユーロ・フォーミュラ・オープンで優勝した名取鉄平【写真:EuroFormula Open】

名取鉄平は「FIA F3」では最高位8位と苦戦しているが、「ユーロ・フォーミュラ・オープン」では第8戦・バルセロナで初優勝。共に19歳の角田、名取が結果を残し始めている。

【名取鉄平】

・山梨県出身/19歳

・参戦レース:FIA F3(ランキング22位)/ EuroFormula Open(ランキング10位)

・ホンダ育成ドライバー

公式ホームページ

かつて、3人の日本人ドライバーが3つのF3シリーズでチャンピオンを獲得した2001年。そして、中嶋一貴、小林可夢偉らのトヨタ育成ドライバーがF3やGP2で表彰台に乗った時代を知るモータースポーツファンにとって、ヨーロッパで活躍する若手ドライバーたちの結果は決して刺激的とは言えないかもしれない。しかし、日本人F1ドライバー誕生への道がグッと近づいていることは間違いない。自動車レースの最高峰、F1への扉を最初に開くのはどのドライバーだろうか?

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事