鈴鹿8耐の基礎講座(3)~灼熱の耐久レースを動かす要素とは?耐久レースはドラマの宝庫

鈴鹿8耐【写真:MOBILITYLAND】

今年も7月25日(木)~28日(日)に鈴鹿サーキット(三重県)で伝統の「鈴鹿8耐」(鈴鹿8時間耐久ロードレース)が開催される。近年再び注目が集まり、新規の観客が増加傾向にあるということで、42回大会の開催を前に鈴鹿サーキットのレースアナウンサーでもある筆者が「鈴鹿8耐」を観戦するにあたっての基礎知識を交えながら、今年の見どころを紹介していく。普段、オートバイのレースを見る機会がない自動車レースのファンも含め、初心者の方にぜひ読んでもらいたい。

鈴鹿8耐【写真:MOBILITYLAND】
鈴鹿8耐【写真:MOBILITYLAND】

その第3回は「灼熱の耐久レースを動かす要素とは?耐久レースはドラマの宝庫」というテーマに沿って書いていこう。

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何も起こらない鈴鹿8耐はない

1978年の初開催から今年で42回目の大会を迎える「鈴鹿8耐」。真夏の8時間耐久レースでは毎年多くのドラマが生まれる。優勝最有力チームがスタートから独走状態を築いて逃げ切る年があれば、有力チームがトップ走行中に転倒して勝負権を失った年も数多くある。

「鈴鹿8耐」は日本メーカー直属のワークスチーム(ファクトリーチーム)が多数参戦し、MotoGPやスーパーバイク世界選手権などのトップライダーを起用する特殊な耐久レースである。そのため、世界的に見ても他の耐久レースに比べても決勝のレースペースが飛び抜けて速く、「スプリント耐久」と形容されるほどだ。

昨年ポールポジションを獲得したジョナサン・レイ(カワサキ)【写真:MOBILITYLAND】
昨年ポールポジションを獲得したジョナサン・レイ(カワサキ)【写真:MOBILITYLAND】

過去のデータを紐解いて行くと、予選でポールポジションを獲得したチームが優勝した例は41回の大会中わずかに9回。確率で言うと約22%で、予選でライバルをいくら凌駕しようとも決勝でも表彰台の頂点を取れるとは限らないのだ。つまり、予想通りに進む「鈴鹿8耐」はそうそうないと言える。

とはいえ、予選5番手以内からの優勝確率は85.4%であり、ワークスチームや準ワークス以外のチームがジャイアントキリングを成し遂げた例はほとんどない。予選10番手までに入れなかったチームが優勝した例は僅かに2回しかないのだ。

まさにドラマの宝庫と言える「鈴鹿8耐」。そのレースを動かす要素を知っておくとより楽しめるので紹介しておこう。

今年はこの表彰台でどのチームが笑うのか?【写真:MOBILITYLAND】
今年はこの表彰台でどのチームが笑うのか?【写真:MOBILITYLAND】

最初の1時間でどの位置を走れるか

4輪レースを含むあらゆる耐久レースと同様に、レース序盤は5台から10台ほどの集団が結成されるトップ争いが展開される。レースで最も緊張感が漂う、見応えのあるパートだ。

燃料タンクの容量は最大で24L。これは「FIM世界耐久選手権」(EWC)のルールで決まっており、どの車種でも同じ容量のものを使用するため、基本的には大体1時間に1回くらいのペースで給油作業のためにピットに入る(ルーティーンとも呼ぶ)。そのため、ピットインは7回、スティントと呼ばれる走行パートは8パートというのがセオリーである。

最初のルーティーンのピットインまでを担当するのは通常ではチームの中で最も速いエースライダー。なぜならここでライバルに置いていかれることは許されないからだ。最初のスティントでライダーが転倒すると、そこから自力で挽回するのは至難の業で、優勝に向けた勝負権を持っているチームがまず絞られてくるのがこのパートだ。

序盤のトップ争い(2017年)【写真:MOBILITYLAND】
序盤のトップ争い(2017年)【写真:MOBILITYLAND】

周回遅れをかわすテクニックが決め手に

スタートから15周ほどで終了するスプリントレースと違い、耐久レースではバックマーカー(周回遅れのマシン)をスムーズに抜き去り、いかにラップタイムを落とすことなく走れるかは重要なテクニックだ。

コース上には速度差のあるマシンが多数走行している。「鈴鹿8耐」のFIM世界耐久選手権(EWC)にはEWCとSST(スーパーストック)の2クラスしか存在せず、どちらもベース車両は排気量約1000ccのバイクなので差はそれほど生まれないはずなのだが、ワークスマシンとプライベーターでは使っているマシンやタイヤに大きな違いがあり、ラップタイムには大きな差がある。予選の平均タイムを見てみるとトップは2分6秒台なのに対し、最後尾は2分18秒台と実に12秒の差ができている。

ということは、単純計算で11周ほどでトップはバックマーカー(周回遅れ)のマシンに追いつくことになり、レース序盤の最初のスティントからバックマーカーをかわしながらのレースを残り7時間30分に渡って展開することになるのだ。これが耐久レースの大変さ、難しさと言えるだろう。

いくらトップライダーとして速いライダーでも、耐久レースの経験がなければバックマーカーを抜くタイミングが合わず、接触などのミスも起こりやすい。総合優勝を争うトップグループで差が生まれてくるのはこの部分だ。それだけに経験のあるライダーは重宝されるのである。

ストレートが非常に速いホンダワークスのRed Bull Honda【写真:MOBILITYLAND】
ストレートが非常に速いホンダワークスのRed Bull Honda【写真:MOBILITYLAND】

バックマーカーを最もタイムロスが少なく抜けるのは鈴鹿に2本あるストレート区間だ。コーナーに入るまでにバックマーカーに追いつきたいので、ストレートスピードは重要な鍵となるが、耐久レースでは燃費も伸ばさなくてはいけないのでパワー重視というわけにもいかない悩ましさがある。ちなみに昨年から最高速が速いのが「Red Bull Honda」をはじめとするホンダCBR1000RRのワークス級マシンだ。最高速は315kmに到達すると言われ、これは大きな武器となっている。

セーフティカーは2台入る。運命の分かれ道

4輪レースでもおなじみのセーフティカーは2輪の耐久レースでも導入される。アクシデントが発生し、コース上が危険な状態になった時に介入し、コース全域が追い越し禁止になるのは同じだ。4輪と大きく違うのは「鈴鹿8耐」では2台のセーフティカーが導入されることだ。これはFIM EWCのルールでコース距離の長さで鈴鹿は2台と決められている。

鈴鹿サーキットのセーフティカー、ホンダNSX【写真:MOBILITYLAND】
鈴鹿サーキットのセーフティカー、ホンダNSX【写真:MOBILITYLAND】

セーフティカーが導入されると通常は開いてしまった差が縮まり、レース展開が振り出しに戻るはずだが、2台のセーフティカーが第1コーナー手前とヘアピンカーブ近辺から同時に導入されることで、隊列は2つのグループに分かれることになる。セーフティカーが入ったタイミングによってはトップグループの集団が2つのグループに分けられてしまうこともあり、差が縮まるどころか勝負を決める決定的な差になって広がってしまうこともあるのだ。

多重クラッシュなどのアクシデント発生時に導入されるセーフティカーだが、転倒が相次いだレースでもセーフティカーの導入が一度も無かった年もあり(近年では2016年)、こればかりは全く読めない要素だ。

ゲリラ豪雨は一つのチャンス

現地観戦するファンにとって全く望ましくないのが夏特有のゲリラ豪雨。7月末に開催される「鈴鹿8耐」では朝から晩までずっと雨が降り続くというレースは少なく、晴天でスタートしながら途中でゲリラ豪雨がやってくるという年が何年かに1度ある。ただ、夏の鈴鹿では雨で路面がウェットコンディションになったとしても、雨が止むと1時間もしないうちに路面はドライへと変わる。この難しい局面で転倒せずに耐えられるかも勝負の分かれ目だ。

2018年は雨にも翻弄されたレースになった【写真:MOBILITYLAND】
2018年は雨にも翻弄されたレースになった【写真:MOBILITYLAND】

ただ、ごく稀にある1日中曇り空で雨予報の場合、チャンスが出てくるのがプライベーターだ。FIM EWCのタイヤはマルチメイクであり、日本のブリヂストンダンロップ(住友ゴム/UKダンロップ)、ピレリの3メーカーがタイヤを供給している。その中でオールマイティに速いのはブリヂストンで、鈴鹿8耐は目下13連覇中の強さ。しかし、全日本ロードレースJSB1000クラスでのデータを参考にすると、雨や微妙な路面コンディション時に爆発的な速さを発揮するのがダンロップピレリである。

ピレリを履く名門チームの「KYB MORIWAKI RACING」【写真:MOBILITYLAND】
ピレリを履く名門チームの「KYB MORIWAKI RACING」【写真:MOBILITYLAND】

レース序盤から雨でずっと降り続けるという場合、ダンロップのトップチーム「TK SUZUKI BLUE MAX」(津田拓也/浦本修充)、ピレリのトップチーム「KYB MORIWAKI RACING」(高橋裕紀/小山知良/トロイ・ハーフォス)あたりはトップ争いの主役になるかもしれない。そして、雨の鈴鹿を得意とするライダーと言えば、ブリヂストンユーザーの「au・テルルSAG RT」(秋吉耕佑/長島哲太/羽田大河)の秋吉耕佑だ。ピットでレース関係者が口をあんぐり開けて立ち尽くしてしまうほど、雨の秋吉はアンビリーバブルな走りを披露する。雨を味方にしそうなチームをチェックしておくとより楽しめるだろう。

雨の鈴鹿を得意とする秋吉耕佑【写真:MOBILITYLAND】
雨の鈴鹿を得意とする秋吉耕佑【写真:MOBILITYLAND】

ちなみに昨年は降雨後のセーフティカー走行中にジョナサン・レイ(今季Kawasaki Racing Team)がスプーンカーブで転倒するという思いがけないアクシデントも発生。晴れのレースを期待したいが、雨の時はドラマが生まれる時だ。

ピット作業は応援すべきシーン

耐久レースの魅力はライダーのコース上での速さももちろん魅力だが、1時間に1回のペースで行われるピット作業も見逃せないシーンとなる。通常、タイヤ交換、給油、ライダー交代を行うのがセオリーだが、トップチームのタイヤ交換のスピードは驚嘆の領域だ。

F.C.C. TSR Honda Franceのピット作業【写真:MOBILITYLAND】
F.C.C. TSR Honda Franceのピット作業【写真:MOBILITYLAND】

タイヤが瞬時に外れ、交換するタイヤがスッとはまるタイヤ交換のシステムができており、ピットクルー達は機敏な動きで作業を行う。かつてはピット作業の練習時にライバルチームが動画を撮影して研究する姿がよく見られたが、現在はほぼ完成形に近づいており、ピット作業の早さで大きな差が生まれることはない。ただ、早さ以上に重要なのは確実性。いかにミスなく、タイムロスなく送り出すかが重要だ。

そして、注目すべきは海外からやってくるFIM EWCの年間参戦チームの修復の早さ。転倒でバラバラになったマシンをピットに戻し、信じられないスピードで元どおりに修復する。彼らのピットは転倒した時の修復に関して役割分担ができており、カウルなども細かく分割して作られている。8時間レースでの転倒は挽回がかなり難しいが、24時間レースでは転倒は当たり前なので、そこから挽回して表彰台も狙える。耐久レースのプロとしての真骨頂を鈴鹿8耐でも見せてくれるだろう。

世界耐久選手権で15回のチャンピオン経験がある「SUZUKI ENDURANCE RACING TEAM」(通称:サート)は海外チームの象徴的存在【写真:MOBILITYLAND】
世界耐久選手権で15回のチャンピオン経験がある「SUZUKI ENDURANCE RACING TEAM」(通称:サート)は海外チームの象徴的存在【写真:MOBILITYLAND】

また、修復を終えピットアウトするシーンは胸が熱くなる瞬間だ。応援していようがいまいが、グランドスタンドからは実況アナウンスより先に大きな拍手が起こることもある。「よく頑張った!コースに戻った!お疲れ様」の気持ちを込めて拍手すれば、きっと一緒にレースを戦っている気分になるだろう。

青い目の外国人ライダーは夜速い

「鈴鹿8耐」は11時30分にスタートし、19時30分にゴールするのが伝統だ。約40分間の夜間走行でクライマックスを迎えるわけだが、夜間走行となる最終スティントで起用されるケースが多いのが目が青い外国人ライダー達である。

鈴鹿8耐きってのイケメンライダー、ジョシュ・フック(F.C.C. TSR Honda France)【写真:MOBILITYLAND】
鈴鹿8耐きってのイケメンライダー、ジョシュ・フック(F.C.C. TSR Honda France)【写真:MOBILITYLAND】

一般的に瞳が青いライダー達は黒い瞳の日本人に比べて夜間走行時によく見えるとされ、昔から青い瞳のライダー達が夜間走行を担当するチームが多い。特に順位を争う局面では彼らは爆発的な速さを見せ、どんどんとタイム差を詰めていく光景がしばしば見られる。レース展開によっては最後まで順位を争う年もあり、2012年の鈴鹿8耐ではFIM EWCの年間参戦チーム「GMT94 YAMAHA」が3位表彰台を獲得した。

その時は日本のチームで新世紀エヴァンゲリオンのカラーリングで走る「トリックスター」との闘いとなり、最後は「トリックスター」のマシンにトラブルが発生し、3位争いは終結。1985年にトップ独走中にマシントラブルで力尽きた「TECH21ヤマハ」のように、夜間走行に入ってからのトラブルで涙を飲んだチームも多い。最後の最後まで「鈴鹿8耐」は見逃せない闘いなのだ。

鈴鹿8耐は夜間走行でクライマックスを迎える【写真:MOBILITYLAND】
鈴鹿8耐は夜間走行でクライマックスを迎える【写真:MOBILITYLAND】

真夏の8時間。「鈴鹿8耐」初観戦の人がレースを全編にわたって逐一見つめる必要は全くない。レース中にかき氷を食べに行ったり、イベントや音楽ライブを楽しんだり、プールに行ったりして全然良いのだ。でも、こういう勝負の分かれ目となるポイントを知っておくと、より観戦している時間も楽しめるだろう。