日本テレビ系列で全戦放送が決定!進化するFIM EWC(世界耐久選手権)の魅力とは?

2017年のFIM EWC「ル・マン24時間レース」

オートバイ耐久レースの世界選手権シリーズ「FIM世界耐久選手権(以下、FIM EWC)」がついに日本国内でも全戦放送されることになった。2018年9月から始まるFIM EWC 2018-19シーズンの放送権を獲得したのは「日本テレビ放送網」で、同社はロードレース世界選手権「MotoGP」を長年に渡って放送するなどオートバイレース中継の実績が豊富なテレビ局だ。FIM EWC最終戦「鈴鹿8耐」に関しても同局が中継ホストを担当することになり、地上波、BS放送、CS放送、デジタル配信の「Hulu」など様々なプラットフォームを使って放送が行われるそうだ。

日本最大手のテレビ会社、日本テレビ放送網(日本テレビ)とユーロスポーツイベンツが契約に合意、FIM世界耐久選手権のライブ放送が日本で楽しめるようになる。

出典:FIM EWC

注目度が増すFIM EWC

夏の一大イベント「鈴鹿8耐」がFIM EWCのシリーズ戦に含まれていることは以前から熱心なオートバイレースファンにはよく知られていた。しかしながら、鈴鹿8耐以外のレースに関しては国内での放送や映像配信がほとんど行われていなかったこともあり、かつては鈴鹿8耐を観戦するファンにとってもFIM EWCは、いわば謎に包まれた選手権だった。

その流れが変わり始めたのは昨年から。鈴鹿8耐が40回目・記念大会(2017年)からFIM EWCの最終戦に設定されるようになったことで、世界チャンピオン決定の瞬間を見れることになったことから、国内のファンも関心を持つようになってきている。

さらに鈴鹿8耐で3度の優勝を持つ国内有力チームの「F.C.C. TSR Honda France」(以下、TSR)が2016年から同選手権に年間参戦を開始し、3シーズン目の参戦となった今季(2017-18シーズン)は年間シリーズチャンピオンを獲得したことで一気に注目度が増した形だ。

F.C.C. TSR Honda FranceのホンダCBR1000RR
F.C.C. TSR Honda FranceのホンダCBR1000RR

TSRは今年、日本国籍チームとして初めて「ル・マン24時間レース(2輪)」での優勝を達成。さらには国内初の快挙となる年間シリーズチャンピオンの獲得という偉業を達成。TSRの参戦開始当初はその挑戦に懐疑的なファンも多かったが、チャンピオンを決めた今年の鈴鹿8耐では賞賛の声が溢れることになったのだ。

国内のファンも気になり始めたFIM EWCの来季(2018-19シーズン)からは「TSR」に加え、2016年の「ボルドール24時間」(フランス)で3位表彰台を獲得した有力チーム「トリックスターレーシング」がフランスの現地チームとのコラボレーションで年間参戦を再開する。また、この2チームの他にも国内レーシングチームの参戦が噂されているなど様々な動きがある。

謎に包まれていた選手権シリーズは今後、「MotoGP」を中継する日本テレビの放送を通じて視聴者の目に届くようになり、今後さらに知名度を増す可能性が高い。

2018-19シーズンには鶴田竜二監督が率いるトリックスターが復帰する。
2018-19シーズンには鶴田竜二監督が率いるトリックスターが復帰する。

FIM EWCはフランスが中心地

では、FIM EWCはどんなレースなのか改めて解説しておこう。FIM EWCこと「FIM世界耐久選手権」は「ロードレース世界選手権(MotoGP)」「スーパーバイク世界選手権」と並ぶ世界選手権オートバイレースのビッグタイトルだ。

間も無く始まる2018-19シーズンのFIM EWCは今季と同様、2018年9月の「ボルドール24時間」を開幕戦に、年をまたいで2019年4月に「ル・マン24時間」(フランス)、5月に「スロバキアリンク8時間」(スロバキア)、6月に「オッシャースレーベン8時間」(ドイツ)と転戦し、7月に日本の「鈴鹿8耐」で最終戦を迎えるスケジュールが組まれている。

2017年のル・マン24時間レースの集合写真
2017年のル・マン24時間レースの集合写真

この選手権で最も重要なレースはフランスで開催される「ボルドール24時間」、「ル・マン24時間」の2つの24時間レースだ。中でも2018年9月に開催される「ボルドール24時間」は最も歴史が長い。なんと1922年から(第二次世界大戦時など休止を挟みながら)続いている。ちなみに「ボルドール」はサーキット名ではなく「金杯」というフランス語。開催サーキットは時代によって変遷しており、2015年から現在は南フランスの「ポールリカールサーキット」で開催されている。

一方、「ル・マン24時間」は今年トヨタが優勝した4輪自動車レースが有名だが、1978年に常設コースのブガッティサーキットが設立された年から41回に渡って開催され続けている。「ボルドール」のタイトルで行われる24時間レースの方が歴史は古いが、ル・マンは耐久レースの代名詞的存在の街であり、こちらもステータスが高い。かつては4輪レースのスタート方式であった「ル・マン式スタート」を2輪の耐久レースでは採用し続けていることからも、FIM EWCにとって「ル・マン24時間」は欠かせないイベントになっているのだ。

一斉にライダーがバイクに駆け寄り、エンジンを始動するル・マン式スタート
一斉にライダーがバイクに駆け寄り、エンジンを始動するル・マン式スタート

フランスでは耐久レースの人気が非常に高い。レースの中身そのもの以上に、ファミリーや友人たちで観戦するお祭り的イベントとして認知されていて、多くのファンがフランス全土から集まってくる。期間中、二輪車で移動するファンにはフランス国内の高速道路が無料で利用できるサービスがあり、ファンの大半はオートバイでサーキットにやってくるのだ。オートバイ生産大国の日本以上に文化として根付いている環境は本当に羨ましい。

そんな環境からか、フランス出身のレーシングライダーは「グランプリ(MotoGP)」以上に耐久レースに強い憧れを抱くそうだ。子供の頃から親に連れられて耐久レースを観戦し、選手としてのキャリア形成にグランプリではなく耐久レースを選ぶライダーが多いのだ。これは実は4輪の「ル・マン24時間レース」でも同じことが言え、2輪、4輪問わず、耐久レースに参戦することはフランス人にとって高いステータスになっている。

ル・マンを観戦するファン
ル・マンを観戦するファン

実は日本もフランスと状況が似ている部分がある。日本国内では1980年代、90年代に数多くの日本人グランプリライダーが輩出されたことで、現在もグランプリ(MotoGP)がメジャーな存在であるが、近年は若手ライダーが「鈴鹿8耐」の出場を目標に掲げてトレーニングし、18歳~20歳という非常に若い年齢で鈴鹿8耐に参戦するケースが増加している。かつてのようにグランプリ参戦が簡単ではなくなっているという状況があるにせよ、彼らの多くは親と観戦した「鈴鹿8耐」の記憶が自信のキャリア選択に大きな影響を与えていると語る。

2017年にFIM EWCに参戦した野左根航汰
2017年にFIM EWCに参戦した野左根航汰

1980年から世界選手権としてシリーズ戦化されたFIM EWC。その歴史の中で日本人選手では北川圭一が2005年、2006年に年間チャンピオンの経験を持つ唯一の存在。近年はヤマハがFIM EWCに野左根航汰藤田拓哉らの若手選手を送り込んだ例も出てきているし、近い将来に北川に続く日本人王者が誕生することも期待したい。

こういった状況からフランス、日本の両国の状況と「耐久レース」というキーワードはリンクする部分が増えてきており、FIM EWCはファンにとって、より理解しやすい状況になっていると言えるだろう。

元MotoGPライダーの参戦が増加

また、近年のFIM EWCはレースの質が大きく変わりつつある。かつてはスプリントレースで経験を積んだ後、耐久レースのライダーに転向した「耐久のスペシャリスト」たちによる選手権という印象が強かった。しかしながら、ここ数年はグランプリで輝かしい成績を残してきたメジャー選手が数多く参戦する傾向にある。

FIM EWCのヨーロッパラウンドではカワサキのライダーとして走るランディ・ド・ピュニエ
FIM EWCのヨーロッパラウンドではカワサキのライダーとして走るランディ・ド・ピュニエ

その代表例がフランスのレースではカワサキのトップチーム「SRC Kawasaki」で走る元MotoGPライダーのフランス人、ランディ・ド・ピュニエだ。彼は夏の鈴鹿8耐では昨年からホンダのライダーとして走っているが、フランスではカワサキとプロ契約している選手である。かつて、MotoGPのシートを失った選手はスーパーバイク世界選手権でプロとしてキャリアを続行するというのがセオリーだったが、近年はド・ピュニエのようにグランプリの最高峰クラスで走った選手がFIM EWCに参戦するケースが増えてきている。

その理由はFIM EWCのチームから選手に対してサラリーが支払われるという状況があるだろう。チームはトップライダーとプロ契約を交わすことで、彼らの速さを武器に「ル・マン」や「ボルドール」などのメジャーな耐久レースでの勝利を目指している。今季はド・ピュニエだけでなく、ブロック・パークスマイク・ディ・メッリオニッコロ・カネパヨニー・エルナンデスなど元MotoGPライダーがレギュラー参戦したが、彼らがFIM EWCにやってきたことで、レースのスプリント化が顕著だ。もはや世界トップレベルライダーの獲得無しに耐久シリーズを制することは難しくなってきた。

元GP125世界王者のディメッリオ(中央)、MotoGPでも走ったカネパ(右)を起用して2017年FIM EWC世界王者になったGMT94 YAMAHA
元GP125世界王者のディメッリオ(中央)、MotoGPでも走ったカネパ(右)を起用して2017年FIM EWC世界王者になったGMT94 YAMAHA

さらに、最終戦となる「鈴鹿8耐」では日本メーカーの母国ということもあり、4大メーカーがワークスチームやそれ相応レベルのチームやマシンを用意し、MotoGP、スーパーバイク世界選手権のライダーを積極的に起用する傾向にある。近年はポル・エスパルガロジャック・ミラーらのMotoGPライダーが参戦したほか、今年の鈴鹿8耐ではジョナサン・レイマイケル・ファンデルマーク アレックス・ロウズらのスーパーバイク世界選手権のトップライダーがビッグバトルを展開した。鈴鹿8耐のライダーの豪華さは世界中のファンが羨むほどだ。

今後、国内のワークスチームのFIM EWCへの年間参戦はすぐには実現しないだろうが、既存のFIM EWCチームにメーカーがワークスマシンやトップライダーを送り込み、レベルアップすることは十分に考えられる。そういう意味でも近年のFIM EWCはコンテンツとして面白い存在になっていくのではないだろうか。

今年の鈴鹿8耐を盛り上げたカワサキのレオン・ハスラムとジョナサン・レイ
今年の鈴鹿8耐を盛り上げたカワサキのレオン・ハスラムとジョナサン・レイ

FIM EWCの国内でのテレビ放送は「耐久レース」の真髄を知る最高のチャンスを提供してくれることになるだろう。