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2018年、全日本JSB1000のチーム体制が出揃う。高まる注目度とさらなる競争の激化!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ツインリンクもてぎで開幕するJSB1000【写真:MOBILITYLAND】

「全日本ロードレース選手権・JSB1000クラス」(以下、JSB1000クラス)の盛り上がりぶりが凄い!数年前から徐々にメーカー系トップチームの台数が増加傾向にあったオートバイ・ロードレースの国内最高峰クラスだが、「鈴鹿8耐・40回記念大会」というアニバーサリイヤーとなった昨年で一つのピークを見たかにも思えた。いや、そうではない。今年2018年は特に目立ったトピックスが無いにも関わらず、ホンダワークスの復活をはじめ各メーカーを代表するチームが体制をさらに強化。それぞれの充実した体制で新たなシーズンに挑むことになったのだ。

ホンダワークス復活でヤマハ包囲網が

2017年のJSB1000クラスで王者に輝いた高橋巧(MuSaShi RT HARC PRO.Honda/ホンダ)は2018年、同クラスと「鈴鹿8耐」に10年ぶりに復活するホンダワークス「Team HRC」に移籍することになった。ワークスマシンの証である「W」の文字が付いた特別仕様のホンダCBR1000RRWを使用する。

左からTeam HRCの宇川徹監督、山本モータースポーツ部長、ライダーの高橋巧【写真:本田技研工業】
左からTeam HRCの宇川徹監督、山本モータースポーツ部長、ライダーの高橋巧【写真:本田技研工業】

そして、監督には8耐で史上最多5度の優勝記録を持つ宇川徹(うかわ・とおる)が就任すると発表された。宇川はライダー引退後、本田技術研究所の社員としてオートバイの開発に携わっていたが、ここ数年はレースの現場にもホンダのスタッフとして顔を出すようになっていた。90年代から2000年代前半を代表するホンダのライダーであり、まさに10年ぶりのワークス復活を取り仕切るに相応しい存在と言えるだろう。ホンダワークス「Team HRC」は全日本最高峰クラスで20年ぶりのチャンピオン獲得と共に、ホンダ代表として8耐の大トロフィー奪還を狙う。

左からYAMAHA FACTORY RACING TEAMのライダー、野左根航汰、中須賀克行、監督の吉川和多留 【写真:ヤマハ発動機】
左からYAMAHA FACTORY RACING TEAMのライダー、野左根航汰、中須賀克行、監督の吉川和多留 【写真:ヤマハ発動機】

一方、ライバルとなるヤマハ陣営は今年も中須賀克行野左根航汰の2人をワークスチームの「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」から参戦させ、ヤマハYZF-R1でJSB1000のタイトル奪還を目指す。昨年2勝を飾った野左根航汰は昨年FIM世界耐久選手権にも参戦したが、今季はJSB1000のレースに集中。24時間耐久レース、MotoGPクラスへのスポット参戦など多くの経験を積み重ねた野左根がヤマハのライダーとして成長を見せられるかが今シーズンの大きなファクターと言えるだろう。「鈴鹿8耐」の体制はまだ決まっていないが、野左根がヤマハワークスの戦力として認められる存在になれば、ヤマハの四連覇も夢ではない。

また、ヤマハはジュニアチームである「YAMALUBE RACING TEAM」に全日本ST600クラスの王者に輝いた前田恵助(まえだ・けいすけ)の起用を発表。前任の藤田拓哉はFIM世界耐久選手権に参戦することになった。

2強ワークスに肉薄できるか、スズキとカワサキ

コスト削減とメーカー間の過激な開発競争の抑制を目的に、改造範囲を制限する形で2004年から本格スタートした「JSB1000クラス」。国内のレース活動は基本的にはプライベートチームに委ねられることになり、ファンの関心は2000年代にかなり低下していった。一時、ホンダワークスが復活したものの、リーマンショック後に消滅。景気回復の兆しが見えた2015年からヤマハワークスが復活し、2018年ホンダワークスが復活。ついに全日本最高峰クラスに複数メーカーのワークスチームが参戦することになったのだ。コンペティションのレベルが別次元へと昇華しそうな2018年シーズンだが、ワークス体制を取らないスズキとカワサキはこの勝負にどう打って出るのか。

ヨシムラスズキのGSX-R1000
ヨシムラスズキのGSX-R1000

まず、スズキはトップチーム体制の「YOSHIMURA SUZUKI MOTUL RACING」がライダーラインナップを変更。エースの津田拓也に加え、昨年はスーパースポーツ世界選手権にプライベート参戦した渡辺一樹が移籍して名門ヨシムラ入りを果たした。2016年まではカワサキの「Team Green」でJSB1000を戦っていた渡辺一樹は8耐を戦う上でも大きな戦力となることは間違いない。毎年、8耐のテスト直前までライダーラインナップが色々と噂され、津田と組むラインナップが年ごとに変わっているヨシムラだが、国内のトップライダー2人のJSB1000体制とすることで「鈴鹿8耐」でのワークス撃破への道筋がクリアになったと言えそうだ。

一方、スズキのもう一つのトップチーム体制となる「Team KAGAYAMA」は浦本修充がスペイン選手権を戦うことになったため、加賀山就臣の1台体制となる。MotoGPクラスへの昇格が決まったマレーシア人のハフィズ・シャーリーンを8耐で起用するなど、話題のライダーを呼び込む同チームの8耐体制も楽しみだ。

そして、カワサキのトップチーム「Kawasaki Team Green」はまだ正式な発表がないものの、2月8日に発表された暫定エントリーリストによると今季も渡辺一馬松崎克哉の2台体制になるとみられる。昨年、移籍初年度ながら、8耐では2位表彰台獲得に貢献し、JSB1000ではチャンピオン争いに加わった渡辺一馬のさらなる飛躍が期待されるシーズンとなる。

打倒ワークス!伏兵たちも群雄割拠すぎる

今季のJSB1000はワークス対決、4大メーカーのトップチーム対決だけでも選手層の厚さが魅力であるが、プライベートチームから参戦するライダーたちの選手層も例年になく濃厚なメンバーになっている。

まず注目はホンダのプライベーター「MORIWAKI MOTUL RACING」だ。2016年からJSB1000に復帰し、昨年は「鈴鹿8耐」にも参戦。高橋裕紀清成龍一のコンビは変らずで、2台体制でJSB1000に参戦する。オフ中にマレーシアのセパンサーキットで開催されたテストに清成とモリワキのマシンは参加しており、勝負のシーズンに向けて着々と準備を進めている。タイヤは今季も少数派のピレリを使用。多数派のブリヂストンのポテンシャルが非常に高いので、ピレリとの共闘体制でどこまで躍進できるかも楽しみなポイントだ。

また、ホンダ勢ではチャンピオンチーム「MuSaShi RT HARC PRO.Honda」にJ-GP2クラス王者の水野涼がステップアップ。長年、高橋巧を起用してホンダ系トップチームに君臨してきた同チームがルーキーの起用で今季をどう戦うか注目が集まる。ルーキーイヤーでのジャイアントキリングが他のクラス以上に難しいJSB1000で水野にとっては学びの1年になるが、早い段階でマシンに順応して表彰台を争うことができればJSB1000に新たな魅力が加わることになる。

ホンダ陣営はさらに選手層が厚い。「Team SuP Dream Honda」からは山口辰也が、「Team 桜井ホンダ」からは濱原颯道が、「au&テルル MotoUP Racing」からは秋吉耕佑、そして「Honda鈴鹿レーシングチーム」からは日浦大治朗がフル参戦する。

ヤマハのプライベーターとしては「HiTMAN RC甲子園ヤマハ」からベテランの中冨伸一、「GBSレーシング」からは菅生の耐久ラウンドで9位となったほか全戦でポイントを獲得した近藤湧也が継続参戦。カワサキの有力チームとしては「チーム阪神ライディングスクール」から開幕時点で若干18歳の清末尚樹がエントリー。そして、スズキでは「エスパルスドリームレーシング」から8耐経験も豊富な生方秀之がフル参戦する。

2018年 全日本JSB1000 年間エントリーリスト(暫定)

全13レースに拡大。トップ10の争いは気が抜けない

今季は鈴鹿サーキットとスポーツランド菅生で開催されていた耐久ラウンドが消滅し、2レース制の週末が増加する。まず、4月7日〜8日のツインリンクもてぎ、4月21日〜22日の鈴鹿サーキット、6月16日〜17日のスポーツランド菅生、9月1日〜2日のオートポリス、そして最終戦11月3日〜4日の鈴鹿サーキットの計5ラウンドで1ラウンド2レース制が採用され、年間の合計レース数は13レースへと拡大(昨年は9レース)。2レース制になった場合の周回数の設定は主催者に委ねられることになる。

2レース制の週末が多くなり、レース数も増加することでJSB1000のパドックの緊張感もより高まると考えられる。優勝を争うワークスチーム、トップチームは2回の決勝レースを見据え、テスト走行でより多くのメニューをこなすことになり、開発競争はこれまで以上にヒートアップするだろう。特にJSB1000の夏までの前半戦は8耐に向けた準備の意味合いも大きかったが、今年は8耐までに7レースを消化することになり、ここでライバルに差をつけられるわけにはいかない。よりコンペティティブでスリリングなスプリントレースが見られることはJSB1000の魅力アップに繋がっていくに違いない。

カワサキのエース、渡辺一馬
カワサキのエース、渡辺一馬

また優勝争いだけでなく、プライベーターを含むトップ10をかけた争いも熾烈になりそうだ。上記のようにかなり群雄割拠なライダーラインナップになっている今季、トップ5に入ることもトップ10に食い込むこともかなり厳しい戦いが予想される。ワークス、トップチームのライダーたちがギリギリの攻防を展開するのを尻目にコンスタントにポイントを重ねることで、最後にチャンピオン候補に残る可能性もあるが、第2集団あるいは中段あたりの争いも熾烈になることは確実で、ファンにとってみればレース中は見所が満載になるだろう。そういう意味でも今季は随所で展開されるバトルをサーキットで楽しむ現地観戦をお勧めしたい。

【全日本ロードレース選手権・JSB1000クラス日程】

4/7-8 ツインリンクもてぎ(栃木県)※

4/21-22 鈴鹿サーキット(三重県)※

5/12-13 オートポリス(大分県)

6/16-17 スポーツランド菅生(宮城県)※

8/18-19 ツインリンクもてぎ(栃木県)

9/1-2 オートポリス(大分県)※

9/29-30 岡山国際サーキット(岡山県)

11/3-4 鈴鹿サーキット(三重県)※

※は2レース制開催

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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