Yahoo!ニュース

フェルナンド・アロンソは「インディ500」で勝てるか?100年の統計からアロンソの初挑戦を占う。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
インディ500にマクラーレン伝統のカラーリングで参戦するフェルナンド・アロンソ(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

2017年のモータースポーツで最も衝撃的なニュースはやはり「フェルナンド・アロンソのインディ500挑戦」だろう。誰もが予想だにしなかった現役F1ドライバーでワールドチャンピオン経験者の「インディ500」初挑戦。しかも、F1にとって最も重要なレース「モナコGP」を欠場してまで挑む、まさに何から何までが超ウルトラCが起こっての参戦だ。今週末、世界中のモータースポーツファンの視線はアロンソに集まると言っても過言ではない。「アロンソは勝てるのか?」と。

インディ500に初挑戦するアロンソとチームクルー【写真:本田技研工業】
インディ500に初挑戦するアロンソとチームクルー【写真:本田技研工業】

期待に応えて5番グリッドを獲得!

F1「モナコGP」、WEC「ル・マン24時間レース」と並んで「世界三大モータースポーツ」に数えられる「インディアナポリス500マイルレース」(インディ500)。毎年、5月末、アメリカの休日「戦没者追悼記念日(メモリアルデー)」を含む連休に開催される伝統の1戦だ。2017年は5月28日(日)に開催され、日本では日付が月曜日に変わった深夜〜早朝にかけてレースが行われる。

現役のF1ドライバーが「インディ500」に挑戦すること自体が近年は異例中の異例のことだ。最近は「インディ500」とF1の最も重要なレース「モナコGP」の日程が5月末の日曜日で重なることが多く、F1ドライバーが「インディ500」に参戦すること自体が現実的に不可能だった。そのため、F1ドライバーの参戦があるとしたら、近年は引退したF1ドライバーかF1からインディカーレースの年間参戦にシートを求めた元F1ドライバーというケースがほとんど。現役F1ドライバーの「インディ500」参戦があったのは1980年代前半までの昔話だった。

フェルナンド・アロンソ 【写真:Mclaren】
フェルナンド・アロンソ 【写真:Mclaren】

今季、不振にあえぐF1「マクラーレン・ホンダ」。最近は少しずつパフォーマンスが向上してきているものの、フェルナンド・アロンソもストフェル・バンドーンも1点の選手権ポイントも取れていないランキング最下位の状態。そんな中で4月に急遽発表されたアロンソの「インディ500」参戦は世界中を驚かせた。

スペインGPの後、アメリカに渡ったアロンソは「インディ500」のプラクティスに参加。初日19番手から徐々にペースを上げ、5月20日(土)の予選では上位9台の予選への進出を獲得。最終予選「Fast Nine Shootout」ではチームメイトの佐藤琢磨(アンドレッティオートスポーツ/ホンダ)に続く、5番グリッドを獲得した。平均時速372kmというF1とは全く異なるスピードレンジのタイムアタックで2列目のグリッドを獲得したアロンソの順応性は素晴らしい。

マクラーレンのインディ500参戦

初挑戦ながら5番グリッド獲得という驚きの結果をもたらしたフェルナンド・アロンソ。参戦するチームは元F1ドライバーでもあるマイケル・アンドレッティ率いる名門チーム「アンドレッティ・オートスポーツ」。チーム体制はホンダエンジンユーザーの中ではトッププライオリティで、「インディ500」では2014年(ライアン・ハンターレイ)、2016年(アレクサンダー・ロッシ)を含む計4度の優勝実績がある。

そして、アロンソのインディ500参戦を強力に後押ししたのは「マクラーレン」だ。ロン・デニスが失脚し、アメリカ人ビジネスマンのザック・ブラウンがエグゼクティブ・ディレクターとして実権を握った。今季はF1「マクラーレン」が伝統のオレンジをベースにしたカラーリングになるなど、ロン・デニス時代からの脱却と、「マクラーレン」の原点回帰を図っている。モータースポーツマネージメントに長けたブラウンならではの仰天企画が「マクラーレンのインディ500復帰」だった。

マクラーレンとインディを制したジョニー・ラザフォード【写真:McLaren】
マクラーレンとインディを制したジョニー・ラザフォード【写真:McLaren】

実はかつて「マクラーレン」は伝統の「インディ500」に参戦していた時代がある。創始者の元F1ドライバー、ブルース・マクラーレンはF1以外にも北米の「CAN-AM」シリーズに戦いの場を求め、レーシングカーコンストラクター(車体製造社)として数多くの名車で勝利を飾る。ブルース亡き後も「マクラーレン」はコンストラクターそしてチームとして活動を続け、「インディ500」には1970年に初参戦。72年には名車「マクラーレンM16」を駆るマーク・ダナヒュー(ペンスキー)が「インディ500」で優勝した。「マクラーレン」のマシンは74年、76年のジョニー・ラザフォード(マクラーレン)の優勝含む3度の「インディ500」優勝を成し遂げた歴史を持つのだ。

1970年代の「インディ500」を代表するマシンだった「マクラーレン」。伝統の「マクラーレン」オレンジのカラーリングでフェルナンド・アロンソが「インディ500」に参戦するというストーリーはロン・デニス時代には絶対に考えられない、アメリカ人ザック・ブラウンらしい発想。アロンソの契約延長のニンジンという説もあるが、どちらかというとマーケティング的意味合い、その効果の方がウェイト高めと言えるだろう。

アロンソは歴史に名を刻む男になれるか?

全てが4月に急遽発表された「マクラーレン+アロンソ→インディ500」の仰天企画。「マクラーレンのカムバック」は絵に描いた餅になりそうな唐突感が否めなかったが、フェルナンド・アロンソが5番グリッドを獲得したことで、劇的なストーリー展開が現実味を帯びてきている。なぜならマシンもドライバーも充分に勝てるポテンシャルを兼ね備えていることが証明されたからだ。

昨年100回目の大会を迎えたモータースポーツイベント「インディ500」。その100回の歴史のデータを見ていこう。アロンソがスタートする5番グリッドは過去7回、優勝したドライバーが居る。確率でいけば7%と低いが、実はデータ上は4番目に優勝の回数が多いスタート位置となっている。最多優勝はポールポジションの20回で、優勝回数2番目と3番目はフロントローの各11回だ。

ただ近年は予選でスピードを披露できれば「インディ500」で優勝できるとは限らない。「インディ500」では予選は決勝の1週間前に行われ、レース本番になると気象を含めマシンのポテンシャルを左右する条件が変わるからだ。ちなみに車体がダラーラの「DW12」、エンジンがマルチメイクになった2012年以降、グリッド3列目までの上位9台の位置からスタートして優勝した例は一度もなく、近年の優勝ドライバーは4列目以降からスタートしているという統計がある。

IMSを走行するフェルナンド・アロンソ【写真:本田技研工業】
IMSを走行するフェルナンド・アロンソ【写真:本田技研工業】

「インディ500」のレースウィークエンドで事前に走行できるのは「Carb Day=カーブデー(語源はかつてのキャブレター調整)」と名付けられた26日(金)の僅か1時間だけ。日曜日の決勝レース時間とは気象条件が変わる可能性もあり、決勝時のクルマの状態はレース開始ブッツケ本番。ここは経験値が必要な部分でもある。

ただ、昨年の「インディ500」覇者のアレクサンダー・ロッシもそうであったようにルーキーがいきなり優勝するケースもある。ルーキー優勝は過去100回中に9回もある(第1回は全員がルーキーのため実質8回)。2000年にはF1デビュー前のファン・パブロ・モントーヤが優勝を飾っているし、1966年に現役F1ドライバーとして参戦したグラハム・ヒルもルーキーでの優勝だった。何も知らないことが逆に強みになることもある。それほどに「インディ500」は勝者を予想しにくい難しいレースなのだ。

アロンソが仮に優勝すれば、1966年のグラハム・ヒル以来の現役F1ドライバーでF1ワールドチャンピオン経験者かつルーキーによる優勝の2例目。10人目のルーキーウイナーの快挙となる。「冗談から始まった」とアロンソも発言した仰天のインディ500挑戦。ここまでの流れの良さを見ていると、それが現実となっても何ら不思議ではない。「第101回インディアナポリス500マイルレース」は日曜日・深夜に起きてテレビにかじりつく価値が十分にあるだろう。歴史的1戦が始まる。

動画:マクラーレンのインディ500復帰を伝える映像(Indycar 公式YouTube)

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事