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道上龍も挑戦!WTCC第4戦は1周25kmのニュルブルクリンク北コースで僅か3周のバトル!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
2016年のWTCCドイツ・ニュルブルクリンク戦【写真:WTCC】

今週末は伝統のF1「モナコGP」、フェルナンド・アロンソや佐藤琢磨も参戦するインディカー「インディ500」、TOYOTA GAZOO Racingが参戦する「ニュルブルクリンク24時間レース」、さらに国内では岡山国際サーキットで「全日本スーパーフォーミュラ選手権」など国内外で数多くのビッグなモータースポーツイベントが開催される。

そんな中、ドイツで「ニュルブルクリンク24時間レース」の併催で開催されるのがWTCC(世界ツーリングカー選手権)の第4戦「Race of GERMANY」。今年は日本人ドライバー、道上龍(みちがみ・りょう)がフル参戦しているWTCCは年間の中でも最も難しいサーキット、ニュルでの超スプリントレースを迎える。その見所をご紹介しよう。

WTCC イタリア 【写真:WTCC】
WTCC イタリア 【写真:WTCC】

生中継で楽しめるニュルの戦い

少々の接触くらいなら許されてしまう「喧嘩レース」としてお馴染みのWTCC(世界ツーリングカー選手権)。4ドアツーリングカーによる世界選手権レースとして日本でも知名度は高い。しかしながら、近年はツインリンクもてぎ(栃木県)で日本ラウンドが開催されているものの、テレビの生中継が消滅してしまって以来、日本人ドライバーの年間参戦もなかったため、なかなかリアルタイムで追いづらいレースになっていた。

ところが、今季はホンダ・シビックWTCCに日本を代表するレーシングドライバー、道上龍がフル参戦をすることに。それに加え、今年からCS放送局の「J SPORTS」がWTCCを生中継することになり(Yahoo!ニュースオーサーの僕も実況アナウンサーとして数戦に携わる)、再びレースをリアルタイムで楽しめるようになった。

これまでモロッコ(マラケシュ市街地)、イタリア(モンツァ)、ハンガリー(ハンガロリンク)と3戦を終えて、第4戦はドイツ(ニュルブルクリンク)での戦いだ。2015年からWTCCはドイツでのレースが復活し、ニュルブルクリンク24時間レースと同じ、グランプリコースとノルドシュライフェ(北コース)を併用する1周25.378kmのロングコースで開催されている。1回のレースが50km前後とされてきた超スプリントレースのWTCCだが、周回数は1レースあたり3周となる。ちなみにニュル24時間は近年、155周以上を周回する。

ノルドシュライフェを駆け抜けるWTCCマシン(2016年)【写真:WTCC】
ノルドシュライフェを駆け抜けるWTCCマシン(2016年)【写真:WTCC】

「世界で最も危険なコース」としてもお馴染みのノルドシュライフェ。クラシカルなハイスピードコースの超スプリントレースでは、ビッグクラッシュが発生する。昨年はオープニングレース(レース1)でティアゴ・モンテイロ(ホンダ)が首位走行中に大クラッシュし、追走したイヴァン・ミューラー(シトロエン)が巻き込まれた。

タイヤにも厳しいコースであるため、レース終盤はタイヤのパンクチャーなどトラブルが起こりやすい。ツイスティかつハイスピードで起伏に飛んだノルドシュライフェはドライバーに高いドライビングスキルを要求する。そしてドライバーにとっては勇気が試される高速コーナリングも待っており、そのレースシーンは非常にスリリングである。

ワークス対決はホンダvsボルボ

今季のWTCCは3連覇した「シトロエン」、ロシアの「ラーダ」がワークス活動から撤退したため、「ホンダ」「ボルボ」のワークス対決となっている。「ホンダ」は2013年にマニュファクチャラーズタイトルを獲得しているが、ドライバーズチャンピオンの獲得はまだ成し遂げていないため、今年は大きなチャンスがあるシーズンだ。

しかしながら、S60 Polestarで戦う「ボルボ」はメキメキと実力を付けてきており、速さは「ホンダ」のシビックWTCCとほぼ互角。第2戦イタリアではボルボのエース、テッド・ビヨーク(スウェーデン)がポールポジションからの優勝を飾った。速度域の高いニュルブルクリンクでもボルボは優位性を発揮しそうな状況だ。

テッド・ビヨークが駆るボルボS60ポールスター 【写真:WTCC】
テッド・ビヨークが駆るボルボS60ポールスター 【写真:WTCC】

ワークスは「ホンダ」と「ボルボ」のみだが、「シトロエン」「ラーダ」「シボレー」のマシンはプライベーターの手によってレースを戦う。今季は最初の「オープニングレース」が予選結果の上位10名をリバースグリッドになり、予選結果に基づいたグリッドが組まれるのは第2レースとなる「メインレース」。後者の方がレース距離は長めで、獲得ポイントも多めに設定されているが、ニュルでの第4戦は2レースともに3周という同じレース距離で争われる。

道上龍はトップ10に入れるか?

今季「ホンダ」の3人目のドライバーとしてフル参戦している道上龍はすでに44歳の大ベテランだ。SUPER GTでもチャンピオン経験があり、同社を代表するレーシングドライバーとして国内ではお馴染み。しかしながら、近年は自身のレーシングチームを率いて、監督業に専念していたため、レーシングドライバーとしての参戦は久しぶりとなる。

道上龍【写真:WTCC】
道上龍【写真:WTCC】

日本と海外を往復しながらレースを戦う体力的にもキツイ状況で、海外のエンジニアやメカニックと共にマシンを作り上げる難しさがある。しかも、WTCCは練習走行が僅かな時間に限られている(今季から2日間開催に短縮された)ので、ルーキーにはなかなか厳しいレースだ。慣れてきた頃には1発集中の予選の時間を迎え、翌日は決勝レースとなる。また、WTCCのFF(フロントエンジン・前輪駆動)レーシングカーはこのカテゴリー独特の乗り方をドライバーに求め、これを会得せねばならず、過去の例では元F1ドライバーのティアゴ・モンテイロも速さを見せられるまではかなりの苦労を伴った。

難しい環境の中に身を置き、日本代表として戦う道上は今季、クラッシュに巻き込まれたり、マシントラブルがあったりなどして、まだ上位フィニッシュを成し遂げられていない。そろそろ結果に繋げたいところであるが、ニュルの北コースはホンダの市販車のテストなどで何度も走り込んでいるコースであるため走行経験は問題ないとのこと。

ホンダ・シビックWTCC 【写真:WTCC】
ホンダ・シビックWTCC 【写真:WTCC】

特に予選で10位以内に入れば、リバースグリッドで優位な位置からのスタートが可能となり、コーナー数は多いもののオーバーテイクは難しく、リスクが伴うノルドシュライフェの区間は予選で10位以内に入れれば表彰台を獲得できるチャンスが高まる。高速コース、モンツァでも課題となったストレートスピードの厳しさが気になるが、仮に上位グリッドを勝ち取れたなら、レースは僅か3周!ベテランらしい粘り強いレースを見せて欲しいところだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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