【ルマン24時間】日本勢はポールポジションを逃すも、決勝では優勝に向けてポジティブな感触!

#7 YART YAMAHAから優勝を狙う野左根航汰

4月13日(木)と14日(金)、フランスの「ルマン24時間レース」の決勝スターティンググリッドを決める予選が行われ、元MotoGPライダーのランディ・ド・ピュニエ(フランス)を擁する「#11 SRC KAWASAKI」(カワサキZX-10R)が3選手の平均タイム1分36秒289をマークしてポールポジションを獲得した。日本人ライダーの野左根航汰(のざね・こうた)が走る「#7 YART-YAMAHA」(ヤマハYZF-R1)は平均タイム僅か0.033秒差でポールを逃して2番手。

路面改修で激しい予選に

「FIM世界耐久選手権」では近年、レースウィークで使えるタイヤの本数を著しく制限し、年々タイヤに厳しいルール設定が行われている。しかしながら、「ルマン24時間レース」(2輪)を開催する常設コースのブガッティサーキットがシーズンオフ中に路面の全面改修を行ったため、タイヤの使用本数が無制限という例外ルールが今回は適用された。そのため、予選でも各チームは新品タイヤを次々に投入。決勝レースでもまた新たな新品が使えるため、いつになく激しい予選アタック合戦になった。

クリアラップ獲得のため我先にピットロード出口に並ぶライダーたち
クリアラップ獲得のため我先にピットロード出口に並ぶライダーたち

24時間レースを前にした予選とは思えない、ライダーたちのフルアタックの連続だった。新しい舗装になったことで路面のグリップ力が増し、各チームのペースは大幅に向上。ポールポジションを獲得した「#11 SRC KAWASAKI」のランディ・ド・ピュニエはピレリの新品タイヤで1分35秒730という最速タイムをマーク。一方、「#7 YART-YAMAHA」はエースのブロック・パークス(オーストラリア)が初のパートナーシップとなる日本のブリヂストンタイヤで1分35秒966を記録するなど、ピレリ、ブリヂストン、さらにイギリスのダンロップとタイヤ戦争の激化を象徴する公式予選だったといえる。

その反面、1周僅か4.2kmのコースに60台がひしめき合う予選ではクリアラップが取りづらく、グリップ力が増した路面でついつい無理をしてしまうのか転倒が続出。赤旗中断が頻繁に起こる予選となった。走りやすく全体的なペースを上げることになった新路面が、長い24時間の決勝レースでドラマを作り出すかもしれない。

路面が全面改修となったルマン、ブガッティサーキット
路面が全面改修となったルマン、ブガッティサーキット

野左根「勝てる可能性が充分にある!」

2番手スタートを獲得した「#7 YART-YAMAHA」の野左根航汰はポールを逃したものの、今大会の優勝に向けてポジティブな要素を掴んだようだ。アタック中に赤旗中断などの不運もありながら1分36秒700という自己ベストタイムを刻んだ。

「ヨーロッパのサーキット自体が初めてなんですが、単純なレイアウトのコースだけに逆にタイムアップが難しかったです。僕自身は予選用タイヤを使わず、決勝レース用のタイヤを使ってアタックしていました。それを考えるとペースは悪くないかなという感じです」と野左根。まだ、パドックでは全日本ロードレースを主戦場としてきた彼の存在を知る人は少ない。ただ、その高いポテンシャルは徐々に注目を浴びている。

野左根を擁するYART YAMAHAは今大会の優勝候補
野左根を擁するYART YAMAHAは今大会の優勝候補

「24時間というと想像もつかない世界ですが、ひたすら自分の気持ちが折れないように頑張りたいです。チームも同じですが、優勝しか狙ってない。事前テストからペースが良かったので、可能性はあるんじゃないかなという手応えを感じています」と語る野左根は自身初となる24時間レースという未知の世界に向けて気を引き締めていた。

ヤマハYZF-R1とブリヂストンの新開発となる17インチタイヤの相性が非常に良く、日本人ライダー野左根のチーム「#7 YART-YAMAHA」の勝利に期待がかかる。ちなみに日本人ライダーの「ルマン24時間レース」優勝は2004年の北川圭一のたった一度だけである。21歳の若手が13年ぶりの快挙を成し遂げられるか注目だ。

ホンダ勢最上位はTSR

日本代表チームの中で7番グリッドからスタートするのが「#5 F.C.C. TSR Honda」(ホンダCBR1000RR)。藤井正和・総監督は「元々予選10位以内で良いと思っていたから、7位だから上出来だね」と予選を評価。かつては「鈴鹿8耐」でポールポジショ争いの常連だったTSRだが、近年は予選では無理をせずに決勝レースにウェイトを置いた戦い方を貫いている。

F.C.C. TSR HondaのCBR1000RR
F.C.C. TSR HondaのCBR1000RR

FIM世界耐久選手権では2年目の共闘となるブリヂストンとも決勝レースのことをしっかりと考え、冬の間にタイヤテストを重ねてきた。「ブリヂストンは見つかった課題を改善してきてくれた。(怪我で欠場することになった)アラン・テシェがしょっちゅうメールを送ってくるんだ。彼が冬の間に(鈴鹿でテストして)作ってきたタイヤだからね。すごくいいよ、と言ってやると、すごく喜んでいるんだよね」と藤井は語る。耐久レースのロングランは暑い夏の「鈴鹿8耐」だけしか経験が無かったブリヂストンにとって、気温・路面温度ともに冬の寒さになる夜間の時間帯は大きな課題だった。真冬の鈴鹿で繰り返しテストを行いデータ収集を行ってきたTSRとブリヂストンの努力が結果に結びつくか注目だ。

藤井は「我々は決勝レースに向けたシミュレーションができている。1分38秒か39秒台のペースで周回できれば良い。去年おかしたミスを無くしてチェッカーを受ければ、必ず結果は出るよ」と自信をのぞかせた。耐久レースのイロハをよく知る外国人ライダー3人と共にTSRは2年連続の表彰台を狙う。

原点回帰で表彰台を狙うトリックスター

昨年9月のボルドール24時間で3位表彰台を獲得し、国内のファンからの期待が大きい「#10 EVA RT WEBIKE TRICKSTAR」(カワサキZX-10R)はルマンでさらなる上位を目指すために、ポールを獲得したフランスの有力チーム「#11 SRC KAWASAKI」と同じスイングアームを投入。タイヤ交換にかかる時間を少しでも削ろうとしていた。

しかしながら、13日(木)の予選になってライダーがマシンの不具合を訴えた。仕様変更がバイクのトラクションコントールなどのコンピューターセッテングに影響を与え、その対策に時間を取られてしまう。13日の予選終了後、監督の鶴田竜二は即座にスイングアームをボルドールで使った仕様に変更することを決断。仕様を戻したことで、ライダーは信頼を置いてアタックできるようになり、3人の平均タイムは1分38秒277で13番手のスタートになった。

#10 EVA RT WEBIKE TRICKSTARのカワサキZX-10R
#10 EVA RT WEBIKE TRICKSTARのカワサキZX-10R

「去年のボルドールは決勝レースの前にエンジンからオイルが滲んでいて、いつ止まってもおかしくはないと不安な要素があった中での3位でした。今回のルマンは仕様変更したことで、ある程度リスクはあると思っていた。でも、元に戻したことで想定通り進められていると思う」と鶴田は落ち着いた口調で語る。長い24時間のためにやるべきこと、監督として決断をすべきこと、この指揮系統とチームの互いの信頼がトリックスターの強みだ。

ライダーの出口修(でぐち・おさむ)はフランス人ライダー2人と戦うことになるが「コミュニケーションには問題ないと思っています。ただ、(欠場の)井筒さんがいた時は良かったけど、居ないと不安だねと言われないように(フランス人の)2人を引っ張っていきたい。新しいチームメイトのジュリアン・ミレーも順応性が高いライダーだから心配ないです」と沈着冷静。

チームのエース、出口修
チームのエース、出口修

世界耐久選手権に年間エントリーし、ワールドチャンピオンを狙うトリックスター。事前テストのデータ不足から新パーツの導入は実現できなかったが、獲得できるポイントが多い24時間レースは原点回帰で堅実な方向性を取った。「エヴァンゲリオン」と共に世界の高みを目指す日本のプライベーターは虎視眈々、上位フィニッシュを狙う。

大久保光はベテラン顔負けの堂々さ

フランスの地元チーム「#55 National Motos」(ホンダCBR1000RR Fireblade SP2)で初の24時間レースに挑む大久保光(おおくぼ・ひかり)は予選で不運な転倒に見舞われた。コースを外れたライダーが戻る際に大久保のマシンに接触し、巻き込まれてしまったのだ。しかし、大久保は「フランス語で何か言ってきたので、言い返してやりました」と気持ちの強さを見せる。

#55 National Motos の大久保光
#55 National Motos の大久保光

そんな中で1000ccのバイク経験が少ないながら、チームメイトとほぼ同じ1分38秒663をマークした大久保のチームの中での評価は高い。「新型のCBRはクラッチを使わなくても良いのですが、エンジンになるべく負担をかけないようにクラッチを使う仕様に変えました。エンジンは間に合わないパーツもあって、ほぼストック(市販車状態)です」と語る大久保の雰囲気は実に堂々とした立ち振る舞いだ。

「チームの目標はまず完走が第一。不安なことは眠くなるだろうなぁという事ぐらいです。24時間を経験しているライダーにもいろいろ聞きましたし、チームミーティングでも一生懸命やりすぎると24時間は精神的にもたなくなるよとさっきミーティングでも言われました。クールな気持ちで落ち着いて挑みます」と大久保。未知の24時間という世界に挑む前とは思えない冷静さは逆に頼もしい。フランスのチームから直々に戦力として起用された大久保は自分の役割をしっかりと認識しており、プロライダーとして17番グリッドから10位以内の完走を目指す。

チームに溶け込む大久保光(右)
チームに溶け込む大久保光(右)

日本のチーム、日本のライダーが挑む「ルマン24時間レース」。それぞれいろんな不安要素を払拭しながら決勝レースを迎える。24時間の戦いはフランス現地時間の4月15日(土)午後3時(日本時間・午後10時)にスタートが切られる。日本チームの優勝、日本人ライダーたちの活躍に大いに期待したい。戦いの準備は整った!