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F1グランプリの2016年シーズンを斜め読み。日本GPでは無料番組も放送が決定。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
F1(イタリアGP)(写真:ロイター/アフロ)

今年もいよいよ「F1世界選手権」が日本にやってくる。10月7日〜9日、鈴鹿サーキット(三重県)でF1日本グランプリが開催されるが、今年はテレビの無料放送が消滅したこともあって、レース関係者の間ですらF1が話題にあがることが少なくなった。

今年のF1はいったいどうなんだ?という人のためにマレーシアグランプリが残されているが、F1の2016年シーズンの流れをまとめてみたい。

今年もメルセデスが他を圧倒

「エンジン+エネルギー回生」のパワーユニット(以下、PU)を使用する規定になって3年目。今年も相変わらず、2年連続のチャンピオンチーム「メルセデス」が圧勝のシーズンとなっている。マレーシアGP(10月2日・決勝)を前に15戦中14勝で、同チームのルイス・ハミルトン(イギリス)が6勝、ニコ・ロズベルグ(ドイツ)が8勝の独走状態だ。

チャンピオンを争うロズベルグとハミルトン【写真:Daimler】
チャンピオンを争うロズベルグとハミルトン【写真:Daimler】

今季も王者ハミルトンvsロズベルグの「メルセデス」のチームメイト対決によるチャンピオン争いになっている。ここに来てロズベルグはベルギーGP、イタリアGP、シンガポールGPで3連勝を飾り、ランキング首位に。マレーシアGP前の時点ではハミルトンを8点リードし、初のワールドチャンピオン獲得に向けてノリに乗っている状態だ。シーズン序盤の強さを見てもロズベルグは既にチャンピオンに値する素晴らしい走りを見せている。ただ、王座獲得に向けた重圧を経験しているのはハミルトン。その経験を3度もしている現役王者とチームメイトが争う終盤戦、彼ら2人の心理戦が見所となるだろう。

チームポイントとなるコンストラクターズ選手権は「メルセデス」が538点、2位の「レッドブル」が316点でその差は222点。早ければ日本GPを前にマレーシアGPで「メルセデス」の3年連続王座が確定する。

ランキング首位のニコ・ロズベルグ【写真:Daimler】
ランキング首位のニコ・ロズベルグ【写真:Daimler】

今年はピレリが供給するタイヤの選択が増えた以外に際立ったマシンに関する規定変更が無かった。同じPUを使用する「フォースインディア」「ウィリアムズ」などのチームとワークス「メルセデス」の違いは今季も歴然。PU規定時代を力技で圧倒する姿は1980年代後半の「マクラーレン・ホンダ」を彷彿とさせる強さだ。外からは見えない最新のソフトウェア、解析能力、計算力で勝るPUそのものを開発するワークスチーム(メーカー直属のチーム)ならではの強みが際立っている。

圧倒的な強さはあれど、スペインGPで起こったハミルトンとロズベルグの接触・同士討ちなど、2人のライバル関係は一触即発のバチバチ状態。チームの計算を唯一狂わせる要素は2人のドライバーの心理状態といえる。

唯一の勝者は最年少フェルスタッペン

「メルセデス」以外で優勝を飾ったのは17歳でデビューした最年少F1ドライバーのマックス・フェルスタッペン(オランダ)のみ。「レッドブル」のフェルスタッペンはスペインGPに優勝し、最年少F1優勝記録(18歳と227日)を打ち立てた。

マックス・フェルスタッペン【写真:PIRELLI】
マックス・フェルスタッペン【写真:PIRELLI】

「メルセデス」同士討ちの恩恵を受けての勝利という側面もあるが、「フェラーリ」のキミ・ライコネン(フィンランド)とのトップ争いを制しての初優勝は値打ちがある。記録はもちろん記憶でもF1史上に残る勝利だったと言ってよいだろう。

フェルスタッペンはシーズン序盤、ジュニアチームの「トロロッソ」からの参戦だったが、「レッドブル」は接触を繰り返したダニール・クビアト(ロシア)を「トロロッソ」に降格させ、フェルタッペンをスペインGPから昇格。チャンピオンチーム「レッドブル」でのデビュー戦で自身初優勝を達成した。この素晴らしい勝利に対し、チーム代表のクリスチャン・ホーナーは「素晴らしい仕事だ。ようこそレッドブルへ」と賞賛の言葉を無線で伝えた。荒削りな暴れん坊っぷりも目立つが、既にベッテル以来の王座を狙えるドライバーとして「レッドブル」の中心に居る。

また、ポールポジションも「メルセデス」以外では「レッドブル」のダニエル・リカルド(オーストラリア)がモナコGPで獲得したのが唯一である。リカルドは優勝こそ無いものの、ドライバーズランキングでは3位につける安定ぶり。全戦で完走しているだけでなく、決勝レース中のファステストラップは既に3度獲得するなど速さにも磨きがかかっている。

「レッドブル」の強さは優れた車体性能。昨年は一時、PUを供給するルノーと決別しかかり、F1への情熱もかなり冷め気味と見られていたが、結局、ルノーのPUに時計メーカーの「タグホイヤー」のバッヂをつけ「レッドブル・タグホイヤー」として参戦。今季はパワーで圧倒する「メルセデス」に作戦面で勝負を挑むシーンが目立つ。退屈に思われがちな今季のF1を面白くしている立役者は「レッドブル」だ。

マクラーレン・ホンダはランキング6位

昨年デビューから苦戦したホンダのPUを積む「マクラーレン・ホンダ」。2年目の今年も世界王者のフェルナンド・アロンソ(スペイン)、ジェンソン・バトン(イギリス)を擁する。

今季、ホンダ陣営は人事移動でF1総責任者に長谷川祐介が就任。第3期F1のエンジン開発を担った、F1の現場をよく知るリーダーが率いることで、ホンダは着実に進化を遂げてきた。今季のベストリザルトはアロンソがモナコGPで記録した5位。「トロロッソ」とランキング6位争いを展開している。「マクラーレン」史上ワーストの記録となったランキング9位よりはマシな状況だが、ロータスを買収し準備の1年と割り切っている「ルノー」、財政難の「ザウバー」の低迷に助けられている側面もあるため、今季は「トロロッソ」に勝つことが現実的な目標だ。

フェルナンド・アロンソ【写真:PIRELLI】
フェルナンド・アロンソ【写真:PIRELLI】

昨年の日本GP(鈴鹿)ではアロンソが「GP2のエンジンかよ?」と無線で不満を爆発させただけに、地元レースでの惨敗は許されない。PUのアップデートを期待したいところだが、グリッド降格を余儀なくされ、鈴鹿ではグリッド最後尾からの追い上げは相当厳しいので、アップデートは無いと見られる。ただ、アロンソが昨年、先の言葉を口走った時に抜かれた「トロロッソ」を華麗にオーバーテイクするシーンが見られれば、日本GPも盛り上がるに違いない。

マッサが引退、バトンは来季控え選手に

今年のF1日本グランプリではここ10年のF1を面白くさせてくれた偉大なドライバーたちがラストレースになるかもしれない。

昨年のイタリアGPで3位のマッサ(一番右)【写真:PIREELI】
昨年のイタリアGPで3位のマッサ(一番右)【写真:PIREELI】

「ウィリアムズ」のフェリペ・マッサ(ブラジル)が今季限りでの引退を表明。昨年は表彰台も獲得したが、今季は序盤戦の5位がベストリザルトと低迷している。「フェラーリ」育ちのドライバーとしてミハエル・シューマッハ、キミ・ライコネンらのワールドチャンピオンと共に戦ったマッサ。思い出すのは当時「フェラーリ」に所属した2008年のブラジルGP、奇跡の逆転チャンピオンを信じて優勝するも、ハミルトン(当時マクラーレン)がゴール直前で5位に入賞したことで、僅か1ポイント差でチャンピオンを獲得できなかったシーンだ。

その後、2009年の不運な怪我から復帰した2010年の開幕戦で2位表彰台を獲得したり、2014年はPUの新規定下をリードした「メルセデス」を上回りポールポジションを獲得する速さを見せるなど、世界中のファンの感情を揺さぶり続けてきた偉大なブラジル人ドライバー、フェリペ・マッサが鈴鹿で見れるのは最後となる。

また、2009年のワールドチャンピオン、「マクラーレン」のジェンソン・バトンは来季、リザーブドライバーとして控えの立場に回ることになった。来季からは日本のスーパーフォーミュラでも優勝を飾ったばかりのストフェル・バンドーン(ベルギー)が「マクラーレン」の正ドライバーとなる。バトンは引退ではなく2018年以降の復帰も選択肢にはあるが、その時には38歳になっている。来季はレギュラーを外れるバトンに日本GPで「お疲れ様」の声をかけるのも良いだろう。日本人のニュアンスをよく知るバトンなら理解してくれるはずだ。

F1日本GPが無料放送でオンエア決定

今季からフジテレビはBSフジ(無料放送)でのF1中継を行っていない。しかしながら、日本GP(鈴鹿)だけは「2016F1日本グランプリハイライト」というタイトルで決勝レースの10月9日(日)深夜24時からBSフジで放送されることが発表された。ダイジェスト番組ではあるが、ライトなファンや今のF1をちょっと見てみたいという人には嬉しいニュースだ。

F1日本グランプリ(2015年)【写真:MOBILITYLAND】
F1日本グランプリ(2015年)【写真:MOBILITYLAND】

また、生中継でF1を楽しむ方法はCS放送の「フジテレビNEXT」(有料契約が必要)で日本GPの全セッションの生中継が行われるほか、決勝前のドライバーズパレードも中継される。

そして、スマートフォンなどで視聴可能なインターネット動画配信サービス「DAZN(ダゾーン)」でもこの夏から全セッション生中継の配信が始まっている。1ヶ月の無料体験もあるのでWifiなどのネット環境の整っている所で視聴してみるのも良いだろう。

また、昨今のF1はインターネットを通じた映像配信に力を入れており、これまでのレースのダイジェスト映像など数多くのコンテンツを公式サイト「Formula1.com」で視聴することができる。ただし、全て英語のコンテンツだ。

※成績などは全てマレーシアGP前(2016年9月29日時点)のもの。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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