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モンテカルロで君が代!F1モナコGPの前座「GP2」で日本人、松下信治が優勝の快挙!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
モナコGPの表彰台でトロフィーを受けた松下信治【写真:GP2 series】

「世界三大自動車レース」のひとつ、F1「モナコGP」が開催されているモナコ公国モンテカルロ市街地コースで、日本のモータースポーツ史上に残る快挙が生まれた。今季、F1直下のレース「GP2」シリーズに参戦する日本人ドライバー、松下信治(まつした・のぶはる/22歳)が同コースで5月28日(土)にF1の前座として開催されたGP2のレースで優勝。モンテカルロ市街地コースに国歌「君が代」が流れた。

GP2モナコを走る松下 【写真:GP2 series】
GP2モナコを走る松下 【写真:GP2 series】

日本人初の快挙、モナコでの優勝

前座レースの「GP2」とはいえ、松下のモナコでの優勝は驚くべき快挙だ。F1のシリーズ戦の中で最もプライオリティが高いレースとして知られる「モナコGP」。ガードレールに囲まれたツイスティな伝統の市街コースは攻略が難しく、F1においては「モナコで勝つことは他のサーキットよりも3倍の価値がある」と言われるほどのレース。モナコ優勝は全F1ドライバーの憧れであり、モナコで3度以上優勝したことがあるドライバーは「モナコ・マイスター(モナコの名人)」として称えられる。ちなみにアイルトン・セナは6回、ミハエル・シューマッハは5回優勝しており、伝説のチャンピオンとして尊敬されるレーシングドライバーはモナコで強いことが多い。

市街地レースが開催されていない日本で生まれ育った日本人ドライバーたちはモナコのようなタイトな市街地コースは不得意というのが定説で、F1「モナコGP」で日本人ドライバーの最上位は2011年に小林可夢偉が記録した5位が最高位だ。これまで多くの日本人ドライバーがF1のレギュラードライバーとして挑戦しながらも好成績につなげられた例が少なく、日本人の優勝は夢のまた夢とされてきたモナコ市街地コース。松下信治のGP2モナコ優勝は将来の「F1モナコGP」で優勝できる可能性のあるドライバーが現れたことを意味する。

スタートも決まった松下(写真前左)【写真:GP2 series】
スタートも決まった松下(写真前左)【写真:GP2 series】

「GP2」のレースがF1モナコGPの前座として開催されるのは恒例となっており、GP2ではルイス・ハミルトン(2006年)、パストール・マルドナード(2007年、2009年)、ブルーノ・セナ(2008年)、ロメイン・グロージャン(2009年)、セルジオ・ペレス(2010年)、ジェローム・ダンブロージオ(2010年)、シャルル・ピック(2011年)、ジョリオン・パーマー(2012年、2014年)、ストフェル・バンドーン(2015年)らが優勝。モナコでのGP2ウイナーの半数以上はF1ドライバーとしてデビューを果たしている。日本人ドライバー、松下信治の優勝は近い将来のF1デビューの可能性をグンと高めるものになるだろう。

松下は優勝後のインタビューで「優勝はいつも特別です。でもモナコではさらに特別なもの。優勝トロフィーとポイントをチームにもたらすことができてハッピーです。スタートではミスをしましたが、リードを築いてからはレースに集中しました」と語った。松下は前日のフリー走行でクラッシュを喫し、モンテカルロ市街地コースの洗礼を受けながらも予選8番手でレース2のポールポジションを獲得し、トップを独走した。松下は4レースを終えてランキングは6位。シーズンはまだ18レースを残しており、日本人初のチャンピオンの期待も高まる。

優勝しガッツポーズする松下【写真:GP2 series】
優勝しガッツポーズする松下【写真:GP2 series】

ホンダが送り込む日本人最強の若手

海外の女性ファンと交流する松下【写真:GP2 series】
海外の女性ファンと交流する松下【写真:GP2 series】

松下信治(まつした・のぶはる)は日本人F1ドライバー不在の今、最もF1に近い日本人選手として期待されている。松下は埼玉県出身・22歳のレーシングドライバーで、ホンダが若手ドライバーを育成するプログラムでF1直下のカテゴリー「GP2」にまで登りつめてきた。

レーシングカート時代から向かうところ敵なしの怪童ぶりで知られ、2011年にSRS-F(鈴鹿サーキット・レーシングスクール・フォーミュラ)を首席で卒業。2012年には育成フォーミュラカーレース「FCJ」でチャンピオンを獲得し、さらに2014年には「全日本F3選手権」でもチャンピオンに輝いた。昨年からヨーロッパに渡り、GP2に参戦。初年度から優勝を達成するなど、松下は参戦した各シリーズで好成績をあげている。

松下に対する高い評価は下位カテゴリーのレース時代から枚挙にいとまがない。特に性能が劣るマシンを手なづけて誰よりも速く走らせる才能に長けており、まだフォーミュラカーレースに参戦し始めたばかりの時代には劣勢状態だったマシンに乗りトップを走ったことは今も語り草になっている。そして、F3時代には劣勢と言われたホンダエンジンのマシンに乗ってチャンピオンを獲得。ホンダを12年ぶりのF3チャンピオンへと導いたのが松下だ。

松下のマシンにあるホンダ育成プログラムのロゴ【写真:GP2 series】
松下のマシンにあるホンダ育成プログラムのロゴ【写真:GP2 series】

現在、松下信治はホンダの育成プログラムで「GP2」に参戦。F1「マクラーレン・ホンダ」のジュニアチームと位置付けられる「ARTグランプリ」に所属し、今年はテストドライバーとしてマクラーレンのF1シミュレーターテストも担当している。2015年からF1への参戦を再開して現在はまだ苦しんでいるホンダだが、そのパワーユニットのポテンシャルは日々向上しており、近い将来、「マクラーレン」以外のチームに供給するチャンスも生まれてくるだろう。そのタイミングでホンダの育成枠で活躍する松下にはF1デビューのチャンスが開けてくる可能性が高い。

松下はカート時代からオートバックスのサポートを受け、プロジェクトリーダーとして成長を見守り続ける元F1ドライバーの鈴木亜久里も太鼓判を押す実力の持ち主。そんな素晴らしい才能をもつF1ドライバーの原石が、GP2モナコ優勝という形でその名をF1パドックに轟かせた。日本人F1ドライバーが復活する日が一気に近づいた。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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