Yahoo!ニュース

自動運転とはほぼ無縁。入場者数32万5501人の「東京オートサロン」で最大の主役は「人の心」である。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
東京オートサロンのTOYOTA GAZOO Racingブース

過去最大の入場者記録を更新

1月15日(金)〜17日(日)の会期で開催された世界最大級のカスタムカーショー「東京オートサロン2016」が閉幕した。3日間とも好天にも恵まれ、会場には全国からクルマ好きが集まった。主催者は2016年の合計入場者数を32万5501人と発表。前年の約31万人を1万5000人以上も上回る過去最大入場者数を記録した(前年比105.1%)。

会場内の様子 【写真:TAS事務局】
会場内の様子 【写真:TAS事務局】

【東京オートサロン2016 入場者数】

1月15日(金)7万8867人(前年比112%)

1月16日(土)12万1176人(前年比110%)

1月17日(日)12万5458人(前年比97.2%)

3日間合計32万5501人(前年比105.1%) 

※数字は主催者発表

自動運転時代の夜明けを前にして

今年は2年に1度開催される「東京モーターショー」が昨年秋に開催された直後ということもあり、各ブースで出品されるクルマのトレンド、そして来場者のトーンがどんなものかを意識しながら、会場内を見て回った。

結論から言うと「いつもと変わらぬオートサロンだった」という印象だ。今年から「東京モーターショー」も主催している日本自動車工業会が後援につき、「東京オートサロン」は自動車メーカーからのお墨付きをもらえることになったわけだ。それでも、モーターショーでトレンドとなった「自動運転技術」のPRが前面に押し出されることはなく、自由なクルマのカスタマイズ、走らせて楽しいクルマのPRが中心。まさに自動運転なんてどこ吹く風の空間だったといえる。

賑わうスバルブース
賑わうスバルブース

技術面では既に実現可能なレベルにある「自動運転」の技術。交通事故を減らす、地球環境に配慮するという意味でも、自動運転機能を備えたクルマが街中に溢れる時代はいずれやって来る。そんな交通のパラダイムシフトが進もうとしているタイミングなのに、「東京オートサロン」の入場者数が増え続け、会場内のトーンが明るくなっているのはなぜなのだろう。

かっこいいクルマ、面白いクルマ

「東京オートサロン」の雰囲気が昔のままか?と問われれば、それは少し違う。近年は巨大なオーバーフェンダーをつけ、運転中に後ろに着かれたら道を譲ってしまいたくなる派手でヤンチャなクルマたちは数を減らしている。大人しくなったと言われれば、確かにそうかもしれない。

ただ、夢のあるクルマ、かっこいいクルマに人は惹きつけられるのか、ドレスアップされた外国車や自動車メーカーのコンセプトカーに目を輝かせながら写真を撮る若者を多数見かけるようになったのも「東京オートサロン」の近年の傾向だ。

マツダRX-VISION
マツダRX-VISION

「東京オートサロン」のメインイベントである「東京国際カスタムカーコンテスト」の「コンセプトカー部門」では既に東京モーターショーで展示され話題をさらっていたマツダのロータリーエンジン搭載車「RX-VISION」が人気で最優秀賞を受賞。ロータリーエンジンの復活、かっこいいスポーツカーにクルマファンの期待が高いことがうかがえる。

また、近年は自動車専門学校・大学校が学習成果の発表の場として、学生たちが自由な発想で作り上げた奇想天外なクルマを多数発表し、毎年インターネット上を賑わせている。そんな中、エコカー部門では「埼玉自動車大学校」の学生たちが作った電気自動車が最優秀賞を受賞。クルマのデザインは彼らの父親の世代が憧れたであろう60年代〜70年代のS30フェアレディZをモチーフにしたものだった。これは決して先生のアイディアではなく、学生たちが議論して決めたデザインだそうだ。

世代を超えて自由なアイディアでクルマを創造する若者たちのマインドは、自動運転の時代が来たとしても決してスポイルされてはいけないものだと改めて感じた。

女性の人気を集めていた「花車」もトヨタ東京自動車大学校の学生の作品
女性の人気を集めていた「花車」もトヨタ東京自動車大学校の学生の作品

ドライバーをもっとカッコよく!彼らが知る世界

自動運転への逆行という意味では、代表的な自動車メーカー、タイヤメーカーなどはカスタマイズの面白さを伝えるだけに留まらず、ドライビングの楽しさを盛んにPRしていたことが強く印象に残った。

歴代ニュル24時間耐久レースの出場車が並べられたTOYOTAブース
歴代ニュル24時間耐久レースの出場車が並べられたTOYOTAブース

「トヨタ」ブースでは、豊田章男社長自らが記者会見でスピーチし、今年もドイツ・ニュルブルクリンク24時間耐久レースへの参戦を発表。この世界一過酷なレースへの挑戦は豊田社長が社長に就任する前から行っているプロジェクトで、今年で10回目の挑戦を迎える。そこで「TOYOTA GAZOO Racing」ブースにはこれまでの歴代のニュル24時間挑戦車が展示された。「道が人を鍛え、人がクルマを作る」をテーマに、社内で選抜された人材がスタッフとなり24時間レースに挑戦する。レース参戦を通じて、学び、将来の製品作りに活かしていこうというプロジェクトで、自動車メーカーが今後積極的に取り組む自動運転車両のPRとは真逆のものと言える。

ラリーのトークショーを開催したダンロップブース
ラリーのトークショーを開催したダンロップブース

そして、タイヤメーカーでは「ダンロップ」ブースで今では珍しいラリーのトークショーが実施されていた。究極のドライビングの世界であるラリーを自ら体験する楽しさを伝えていた。そして「ブリヂストン」ブースはレーシングドライバーの佐藤琢磨が監修した映像を使い、プロドライバーが知る究極の世界を伝える試みを実施していた。自動運転の時代が来た時、人々がきっと忘れてしまうであろう世界観を今改めて訴求しようとしている。そんな気さえする。

自動運転の実用化まで目前とはいえ、しばらくはアナログな人間の運転のクルマと自動運転車が混在する時代が続くだろう。そんな中で、よりクローズアップされてくるのが「人間自身のドライビング技術」だろう。そういう意味で今後大切な存在になってくるのが、究極の運転技術の世界を知るレーシングドライバーたちだ。彼らはクルマの限界を知る、究極の安全運転を実践している人たちである。もっともっと彼らの存在と世界をカッコよく、一般社会に浸透させられないものだろうか。

プロドライバーのトークショーはモータースポーツファンが数多く集まった
プロドライバーのトークショーはモータースポーツファンが数多く集まった

国内レースを戦うプロドライバー達はメーカーの参戦体制発表(2月が恒例)まで守秘義務があり、「東京オートサロン」ではオブラートに包んだような口調でトークショーに出演することが多い。でも、これだけたくさんの人が興味を持って来場するイベントなのだから、このイベントの前に体制発表を行って、彼らプロドライバーが堂々と自分たちの世界観やドライビング技術向上の大切さを多くの伝えられるようになって欲しい、とトークショーを見ていて感じた。彼らプロドライバーたちは単にタイムを削ってメーカーの成績に貢献するだけではなく、これからの時代に欠かせない大切なことを伝えられる人材なのだと思う。

クルマは人が作るもの。コンピューターに頼る時代の到来を前に、情熱をもってクルマに向き合う人たちの存在を改めて強く感じた2016年の「東京オートサロン」だった。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事