【鈴鹿8耐】アナログな8耐、最後の聖戦へ。ヨシムラが狙う5度目の勝利!

ヨシムラスズキシェルアドバンス

7月26日(日)に決勝レースが開催される「第38回鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)」。台風12号の影響も心配されるが、鈴鹿サーキットでは木曜日から始まる走行に向けた準備が着々と進められている。

鈴鹿8耐の長い歴史を語る上で欠かせないのが、第1回大会(1978年)のウイナー「ヨシムラ」というチームだ。初代ウイナーとなって以来、一貫してスズキのバイクを独自のノウハウでチューンナップし、ワークスチームに対抗するプライベーターとして一度も欠場することなく、絶え間ない挑戦を続けている。まさに「鈴鹿8耐の象徴」である。

5度目の優勝を目指して

過去4度の優勝を達成している「ヨシムラ」。2度目の優勝は第3回大会(1980年)。それ以降、並みいるメーカーワークスチームの参戦によって「ヨシムラ」は優勝から長い間遠ざかってしまう。

3度目の優勝は2007年(秋吉耕佑・加賀就臣のペア)。この年はホンダワークス(Team HRC)のフライングによるペナルティに助けられた要素はあったにせよ、秋吉・加賀山の2人が爪を剥き出しにした鷹のごとき攻めの走りで完全にレースの主導権を掌握。ワークスを完全に速さで抑え込んでの勝利だった。

そして4度目は2009年(酒井大作・青木宣篤・徳留和樹のトリオ)。ゲリラ豪雨が鈴鹿サーキットを襲い、鈴鹿8耐史上最も波乱のレース展開の中、「ヨシムラ」は耐久レースの雄らしい力強いチームワークで優勝を果たした。それ以来、毎年、優勝候補にはあげられているものの、すでに勝利から遠ざかって6年の月日が流れてしまった。

ヨシムラらしさで戦う38回目の挑戦

昨年はケビン・シュワンツ、辻本聡のレジェンドチーム参戦、元MotoGPライダーのランディ・ド・プニエの起用など60周年記念らしいチーム編成となった「ヨシムラ」だが、今年は昨年ほどの派手さはない。しかし、ある意味、リアルタイムで考えられる「ヨシムラ」らしいチーム編成とも言える。

津田拓也
津田拓也

エースライダーは「全日本ロードレースJSB1000」クラスを同チームからレギュラーで戦う津田拓也(つだ・たくや)。そして第2ライダーは「スーパーバイク世界選手権」にヨシムラチューンのスズキGSX-R1000で出場しているアレックス・ロウズ(8耐は初出場)。そして、「ヨシムラ」が鈴鹿8耐を通じて育てたオーストラリア人ライダー、ジョシュ・ウォーターズ(英国スーパーバイク選手権参戦)の3人だ。

他メーカーのワークスがMotoGPライダーなどを起用して、派手に攻め込んできたのに対して、「ヨシムラ」は仕事を共にし、信頼し合えるライダーで編成を組んだ。つまりは自分たちの支配下にある選手達であり、話をしようと思えば、いつでも顔を突き合わせて議論し、目標に向かって前進できる人間関係がこのラインアップの最大の強みともいえよう。

ただ、不安要素もある。ほとんどのテスト走行を担当したのが津田拓也で、アレックス・ロウズは2回目の合同テストに参加したのみで、この時は大部分の走行が雨となった。さらにジョシュ・ウォーターズに関しては今年のマシンを1度もテストしないまま、ぶっつけ本番でレースウィークを迎える。

とはいえ、レギュラー参戦するレースの日程の合間に来日する海外のライダーを起用する限り、鈴鹿8耐へ向けての準備ではこういう状況は多々生まれることで、そういったどうにもならない部分を埋めてくれるのが「チーム」と「ライダーたち」の信頼関係だろう。

アレックス・ロウズの走りに期待!
アレックス・ロウズの走りに期待!

今年のヨシムラのマシンは速く、津田拓也は全日本JSB1000の開幕戦・鈴鹿で独走の優勝を飾っている。津田はMotoGP開発ライダーとして日々速いバイクに乗る環境があり、スズキのMotoGPレース活動が再開したことでトレーニングメニューも大きく変わったことから、フィジカル面でも自信をつけることができたという。連続ラップのペースはワークスに迫る好ペースである。そして、アレックス・ロウズはドライでの走行チャンスが少なかったものの、初来日の鈴鹿でいきなり合格点の2分9秒台をマークする速さを披露。さらにジョシュ・ウォーターズは常に第3ライダー的ポジションで「ヨシムラ」陣営で戦い、昨年を含む2度の2位表彰台を獲得した経験の持ち主だ。実は「ヨシムラ」には密かにポジティブな要素が多い。

伝統的に変わらないこと、追いつけないこと

「ヨシムラ」のポジティブな要素はライダーだけではない。現在は加藤陽平(創業者、吉村秀雄の孫)が3代目の監督として率いるが、3度目、4度目の優勝は加藤の代になってからの優勝だ。

鈴鹿8耐のテストが始まると、ピットにはストップウォッチを握る加藤の姿があった。ホームストレートのピットウォール越しに微かに見えるライダーのヘルメットを目視で追いながらストップウォッチを押す。リアルタイムで表示されるタイミングモニターがある現在でも、この伝統的なやり方を続けている。実はこういうアナログな手法で監督自らが状況確認をしているチームは少ない。仮にタイミングモニターの表示がおかしくなったとしても混乱を避けられるし、想定したペースから遅れた場合には即座にピットが対応できるように指示が出せるはずだ。そして、アドバイザーとして、加藤陽平監督の強力なバックアップを行うのが辻本聡だ。急なコンディションの変化などで緊急ピットインとなった際、的確な判断力でレースメイクに貢献する。ここ数年「ヨシムラ」が苦難の中でも上位フィニッシュを果たす立役者と言える。

ヨシムラのピット作業(2014年)
ヨシムラのピット作業(2014年)

そして、「ヨシムラ」の強さはピットイン、タイヤ交換の速さだ。「ヨシムラ」のピット練習が始まると、他のチームの面々が集まってきて、そのピット練習を偵察する。これは毎年恒例の光景。近年はスマートフォンなどであらゆる角度から動画が撮れるので、ピット作業の速さの秘密を他チームが分析できるはず。しかしながら、なかなか「ヨシムラ」の速さを上回るチームは現れない。

「デジタル」という言葉がレースに存在しなかった時代からの38年に渡る「知力」の積み重ね。これこそが「ヨシムラ」の強みであり、鈴鹿8耐の象徴と呼ばれる理由だ。

「ヨシムラ」が走らせるバイク、スズキGSX-R1000もそろそろモデルチェンジの時期で、新型登場の噂も根強い。スズキがMotoGPに復帰したこともあるし、時代の流れからいけば、次期モデルは豊富な電子制御で武装されたベース車両になるだろう。今後、ヤマハYZF-R1のような新モデルを各メーカーが投入することになれば、鈴鹿8耐の様相もきっと様変わりしていくはずだ。

そんな新時代の到来を前に、「ヨシムラ」にとって今年の鈴鹿8耐は、60年以上の伝統で培った「知力」を結集して挑み、5度目の優勝を飾るビッグチャンスかもしれない。

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【#12 ヨシムラスズキ シェルアドバンス】

1978年の第1回大会の優勝チーム。吉村秀雄によって創業された「ヨシムラ」は鈴鹿サーキットで耐久レースが始まった1960年代から常に主役の座を担ってきた。1972年に世界初の集合マフラーを販売し、海外にも進出。「ヨシムラ」製品は世界中のバイク愛好者に高い知名度を持つ。鈴鹿8耐には全年出場、優勝4回。2014年は2位表彰台を獲得している。

2015年のラインナップ

◯津田拓也(つだ・たくや)

(最高位2位(2014年)/全日本ロードレース選手権に参戦)

◯アレックス・ロウズ

(初出場/スーパーバイク世界選手権に参戦)

◯ジョシュ・ウォーターズ

(最高位2位(2011年、14年)/英国スーパーバイク選手権に参戦)