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【鈴鹿8耐】驚速ヤマハワークスにライバルは居るか!?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
現役MotoGPライダー、ブラッドリー・スミスのテスト走行

7月26日(日)の決勝レースまであと10日を切った「第38回鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)」。今年はエントリー台数が80台を超える盛況ぶりで、久しぶりにファンの期待が大きく膨らんでいる。

天候に恵まれなかった7月7日(火)8日(水)の合同テストに続いて、現役グランプリライダーも参加したバイクメーカー、タイヤメーカーの貸切合同テストが7月14日(火)15日(水)の2日間、快晴のもと鈴鹿サーキットで開催された。

答えを言ってしまえば、、、

路面温度が60度前後まで上昇した夏日。全国で猛暑となり、熱中症患者が続出した日だったが、鈴鹿サーキットでは世界中のタフなライダー達が精力的にテスト走行をこなしていた。

鈴鹿8耐を戦うチームにとってみれば、この厳しい暑さは絶好のコンディションと言える。なぜなら、鈴鹿8耐のレースウィークが好天に恵まれた場合、路面温度が65度越えを生み出す強烈な暑さのもと戦わねばならず、有益なデータを取得して準備を進めておきたいからだ。

そんな中で速さを見せたのは、全日本ロードレースでも中須賀克行が好調の「#21 YAMAHA FACTORY RACING TEAM」(ヤマハワークス)だった。2日間の総合トップタイムは2分7秒995をマークした同チームのポル・エスパルガロ(スペイン)。7秒台に入れることができたのは現役MotoGPライダーの彼ただ一人だけだった。

答えを言ってしまおう。

勝利に最も近いのは、新型YZF-R1で参戦するヤマハワークスだ!

ポル・エスパルガロ
ポル・エスパルガロ

MotoGPライダーたちの格

日本のエース、中須賀はMotoGPで2位表彰台経験を持つMotoGP開発ライダー
日本のエース、中須賀はMotoGPで2位表彰台経験を持つMotoGP開発ライダー

ヤマハの新型YZF-R1の速さは既に全日本ロードレースでも証明済みだ。参戦初年度だけに、いろいろな問題を克服しながらのレースだというが、中須賀は既に第2戦から菅生のセミ耐久を含む3連勝を飾っている。ライバルを出し抜く速さを持ちながら、安定感は抜群だ。

そんなヤマハの強力なウェポンといえるのは、やはり2人のMotoGPライダー、ポル・エスパルガロとブラッドリー・スミス(イギリス)だろう。レギュラー参戦するドイツGP出場のため、雨の合同テストをスキップした2人だが、ドイツGPを終えた後、すぐに来日。7月14日(火)の朝に中部国際空港に到着し、2本目の走行からテストに合流。初の本格的なドライコンディションでのテストであるにも関わらず、ロングランのタスクを全く何の問題もなくこなしていった。

なんというタフネスぶりだろう。時差ぼけも少し残る中でも、辛い顔ひとつせずに連続ラップをこなす2人。午後の走行ではエスパルガロが2分7秒台をマークすると、同じバイクを引き継いだスミスが14周のロングランを敢行。スミスは2分8秒台の好タイムを3周連続でマークしてみせた。同じ条件下で近いペースで走っていたのは2年連続のウイナー「#634 MuSaShi RT HARC-PRO」(ホンダ)だが、スミスの連続ラップの方がタイムのバラツキが少なかった。

ブラッドリー・スミス
ブラッドリー・スミス

既にヤマハのリリースにある通り、エスパルガロとスミスはこの2週間前にプライベートテストでYZF-R1を初ライドしている。ただ、この時は夕方に雨も降るなどして決して条件が良くない中での走行だったとみられ、本番に近い暑さの中での走行は7月14日(火)が初めてだった。そう考えると、まさに期待通りのパフォーマンスを見せてくれたわけだ。

これで見えてきたのは、ワークスヤマハの現役MotoGPライダー2人の起用は正解だったこと。元ワールドチャンピオン、ケーシー・ストーナーに加え、2年連続ウイナーの高橋巧、マイケル・ファン・デル・マーク擁するチャンピオンチーム「#634 MuSaShi RT HARC-PRO」に猛暑の中のレースで真っ向から対抗できるチームは「#21 YAMAHA FACTORY RACING TEAM」しか居ない。

ベース車両が市販車状態から最新の電子制御の塊といえるヤマハYZF-R1のワークス仕様車を限界まで使いこなせるのは、やはり彼ら現役MotoGPライダーの格ということか。

今年の鈴鹿8耐は「豪華ラインナップ」と騒いでいる場合ではない。鈴鹿8耐が復興しはじめたどころか、鈴鹿8耐が1ランクも2ランクもレベルアップしたライダーを求める時代に突入したと言えるのではないだろうか。

彼らの仕事が全てパーフェクトに完結した時、ヤマハは19年ぶりにあの頂に立つことになるのだろう。

(キーワード)

【#21 YAMAHA FACTORY RACING TEAM】

今から30年前の1985年にヤマハはワークスチームとして鈴鹿8耐に初参戦。圧倒的な速さでリードするも、残り30分でマシンは息の根を止めた。それがホンダワークスの対抗馬、ヤマハの挑戦、そして伝説の始まりだった。ヤマハは2002年までファクトリー(ワークス)として参戦。今年は新型YZF-R1投入を機に鈴鹿8耐に13年ぶりにファクトリー体制で参戦する。優勝は過去4回。

2015年のラインナップ

◯中須賀克行(なかすが・かつゆき)

(最高位4位(2014年)/全日本ロードレース選手権に参戦)

◯ポル・エスパルガロ

(初出場/MotoGPに参戦)

◯ブラッドリー・スミス

(初出場/MotoGPに参戦)

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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