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ホンダF1復帰の報道で思う、国内メーカーには今度こそ諦めないで欲しい!簡単に辞めないで欲しい!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
栄光の時代を築いたマクラーレン・ホンダのF1マシン

2月10日(火)に東京・青山の本田技研工業・本社で開催された「マクラーレン・ホンダ」の記者発表がテレビ各局、新聞各紙で報じられた。やはり、ホンダがF1に復帰すること、しかもマクラーレン・ホンダのコンビが復活し、いよいよそのマシンが姿を表すというインパクトは絶大だったようで、インターネット上でも期待を膨らませた人や懐かしい名前を聞いただけで興奮する昔のファンなどのポジティブなコメントが目立った。

とはいえ、会見の前にスペイン・ヘレスサーキットで行われた新生「マクラーレン・ホンダ」の本格テスト走行はトラブル多発で周回数は僅か72周(4日間合計)に留まり、決して順風満帆なスタートを切ったわけではない。長年F1を見続けているファンにとっては、「大丈夫か?」と不安になる気持ちが充満する反面、マスメディアの報道は『「常勝復活」目指し高揚=マクラーレン・ホンダ-F1』(時事通信)など非常に前向きなものが多かった。そういった報道に後押しされ、「マクラーレン・ホンダ」は残る8日間のテスト走行に対する希望、開幕戦オーストラリアGPへの大きな期待などを日本に残していった印象だ。

ニッサンはルマンに、トヨタはラリーにも

「マクラーレン・ホンダ」としてF1に復帰するホンダだけではない。国内の自動車メーカーは昨年から再びモータースポーツに力を入れ始めている。ホンダのF1復帰はF1が一般の人によく知られるレースであるため報道も大きく取りあげられるが、他の自動車メーカーもF1以外の世界選手権で頂点を狙おうと意欲的だ。

ニッサンは今年、「ルマン24時間レース」を中心にしたWEC(世界耐久選手権)の最高峰クラス=LMP1-Hクラスに「GT-R LM NISMO」で参戦し、トヨタ、アウディ、ポルシェと対決する。そのマシンは他メーカーのレーシングカーとは一線を画するフロントエンジンのハイブリッドマシンだ。フランスのルノーとグローバルな規模で「ニッサン」「ニスモ」(ニッサンのモータースポーツ部門)のブランドPRを展開するニッサンにとって、彼らが長年挑戦してきたルマン24時間レースの優勝は積年の夢。日本の「ニスモ」が中心になって取り組んできたルマンへの挑戦を海外のプロジェクトチームが主体となって引き継ぎ、レーシングカーとしては特異な構造を持つ野心的なマシンで戦うことになる。ニッサンの挑戦は、今年の4輪レース界の大きな興味だ。

また、WECやルマンと言えば、国内メーカーとしてはトヨタが参戦している。昨年はルマン24時間レースの優勝を逃したが、ポールポジション獲得、多くのレースでトップ快走、さらには耐久王ポルシェ、アウディを退け、見事にドライバーズ選手権、マニュファクチャラーズ選手権(自動車メーカーの選手権)両方で世界チャンピオンを獲得した。WECなど耐久レースの世界選手権で国内自動車メーカーが王座に輝くのは初めての快挙だったが、国内ではあまり大きく取り上げられることはなかったのが残念だった。

世界選手権ではWTCC(世界ツーリングカー選手権)でホンダが2013年にマニュファクチャーズ選手権で世界王座に輝いているが、対抗馬となったシボレーワークスが撤退した年であったため、本格的な世界選手権レースでの2冠(ドライバーズ、マニュファクチャラーズ)となると1991年の「マクラーレン・ホンダ」以来の快挙をトヨタが成し遂げたにも関わらず。。。

そんなトヨタはWECにも継続参戦しながら、これまたトヨタの長年のモータースポーツ活動の軸であるラリーのWRC(世界ラリー選手権)に2016年からの参戦を表明している。

また、2輪メーカーではスズキが今シーズンから2輪レースの最高峰「MotoGP」クラスに2台体制で復帰することも国内メーカーの大きなトピックスだ。

国内のF1至上主義は今も変わらない

ホンダはF1に。かつてF1に参戦したトヨタは、耐久レースとラリーに。そしてニッサンは(インフィニティの名でF1にも関わりがあるが)フォーミュラカーではなく、ハコ車のレースにこだわり、耐久レースに再挑戦する。国内の3大メーカーだけでもそのアプローチは様々である。

しかし、国内で一般メディアが最優先で取り上げるのは「F1世界選手権」に関するトピックス。理由は単に「モータースポーツの最高峰だから」という概念があるからだろう。確かにそれは間違った考え方ではなく、そう位置付けられているのだから致し方ない。しかし、それではなぜ、トヨタやニッサンは最高峰のF1で戦おうとしないのか?

その理由は様々な事が考えられる。一つはコストだろう。F1はWECやラリーに比べても参戦コスト、開発コストが莫大で、大きなリスクを伴う。しかし、単にコストだけの問題ではない。トヨタとニッサンが参戦するWECのLMP1-Hクラスは非常に厳しいエネルギーマネージメント技術が求められるハイブリッドレーシングカーが対決する舞台だ。現在はF1も同じハイブリッド技術の対決の舞台になっているが、F1が1600cc/V型6気筒ターボエンジン+エネルギー回生システムという規定なのに対して、WECのLMP1-Hクラスはエンジンのタイプ、回生システムのタイプ、マシン製作の規定に関してかなり自由度が高く、4メーカーがそれぞれ異なるアプローチのマシンを持ち込んで同じレースを戦うのだ。また、F1が車体メーカー(コンストラクター)と動力源を供給するメーカー(パワーユニットサプライヤー)がジョイントして戦うのに対し、WECは車体+動力のトータルパッケージをメーカーとして参戦させることができる。すなわち、何をもって技術開発の舞台、PR活動の場とするかの違いもF1に参戦するか、WECに参戦するかで異なる。

国内メーカーに望むこと

また、プロモーションの意味合いでも、F1とWECでは違いがある。世界選手権の最高峰に位置づけられ、20カ国近くを転戦するF1の影響力がプロモーション面でもWECに勝るのは当然のことだ。しかし、WECには「ルマン24時間レース」という世界三大レースの一つがシリーズの頂点レースとして開催される。フランスのルマンで開催される伝統の耐久レースは、F1よりも遥かに長い歴史を持ち、特にヨーロッパでは関心が高い一大イベントだ。

国内自動車メーカーで優勝したことがあるのは1991年のマツダだけ。長きにわたり、幾度も挑戦したトヨタ、ニッサンは伝統あるヨーロッパの自動車メーカーを打ち倒すことが未だできていない。参戦を辞めて20年以上経った今でも尊敬の念が消え去ることはないマツダに対しても、トヨタ、ニッサンは本当の意味でまだ肩を並べられていないのだ。すなわち、このレースを制することは単に「夢」という一言では語れない、非常に大きな価値があると言っても過言ではなかろう。

残念ながら、熱狂的なモータースポーツファンを除いて、日本国内の一般社会にこういった考えは浸透していない。きっと、国内ではルマンで優勝するよりもF1に「参戦する」ことの方を高い価値で捉える人が多いだろう。そういう意味では国内ではF1参戦の方がプロモーション面でも吉といえる。しかし、国内だけを見ていれば良い時代は既に90年代に終わりを告げている。

F1だけがモータースポーツという世間の認識は、国内ではこれからもそう簡単には変わらないだろう。しかしながら、国内自動車メーカーの皆さんにはあらゆるモータースポーツ活動の中でそれを変えていってほしいと思う。2000年代後半のリーマンショック後、国内のモータースポーツ界は悲惨な状況に陥った。ホンダ、トヨタがF1から完全撤退し、MotoGPからはカワサキ、スズキが撤退。ラリーからは三菱もスバルも撤退した。一般メディアは世相を反映する事象として撤退のニュースを大きく報じ、国内自動車メーカーのラインナップからはスポーツカーが消え去り、車の時代は終わった、レースをする時代は終わったという「車やレースに対する嫌悪感」が充満していった。

そんな状況下から国内メーカーは以前とは規模、形態こそ異なれど、こうしてモータースポーツの世界選手権に再び戻ってきた。でも、戻ってきたからにはこれからはできる限り長く続けて欲しいと思う。辞めるという決断は数字や成績だけを見れば簡単だが、今のレースやクルマ作りは職人芸の世界ではなく、コンピューター上に積み重ねられるデータが何より大きな意味を持つ。辞めてしまってブランクが空けば、想像を絶する損失となり、そこから戻ってくるのはとてつもなく大変なことだ。

ヨーロッパのメーカーを見てみれば、フェラーリは60年以上にわたってF1を、メルセデス・ベンツは復帰してから20年以上にわたってF1を、ルノーは一時的にバッジを外したものの25年以上にわたってF1を、アウディはライバルがいなくなっても15年以上にわたってルマン24時間レースに参戦を続けている。全てリーマンショックという苦境を乗り越えて各社がやってきた活動だ。

今後も日本の自動車メーカーの社内にはモータースポーツ活動に対していろんな意見が渦巻くだろう。反対意見も当然あるはずだ。でも、継続は力なりという概念は間違っていないはず。だから、成績が悪かったからといって、簡単に諦めないで欲しい、辞めさせないで欲しい。今はただ、心からそれを望むばかりだ。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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