ル・マン24時間レースには日本のレース育ちのドライバーがワンサカ!関わりを増す日本とル・マン。

日本で活躍するデュバルも乗るアウディのマシン 【写真:FIA WEC】

6月14日(土)に決勝レースを迎える伝統の「ル・マン24時間耐久レース」。フランス・サルト県にあるル・マン市のリパブリック広場では、レース出場車両の公開車検が行われている。

リパブリック広場の公開車検。ポルシェチームの集合写真 【写真:FIA WEC】
リパブリック広場の公開車検。ポルシェチームの集合写真 【写真:FIA WEC】

91年目を迎える今年のル・マン24時間耐久レースにはプロトタイプカーとGTカー合わせて56台が出場。1チーム3人で戦う168人ものドライバーの中で、日本人ドライバーは僅かに4人だが、外国人ドライバーの名前にはかつて日本でレースを戦っていたドライバーも多い。

中嶋一貴が総合優勝を狙う

今年、日本人でル・マンに出場するドライバーは全部で4人。日本のSUPER GTで活躍する中嶋一貴(なかじま・かずき)、本山哲(もとやま・さとし)に加えて、元F1ドライバーの中野信治(なかの・しんじ)、そして女性ドライバーの井原慶子(いはら・けいこ)が参戦する。

LMP2クラスで走る井原慶子 【写真:FIA WEC】
LMP2クラスで走る井原慶子 【写真:FIA WEC】

ここ最近はル・マンに出場する日本人ドライバーの数がそれほど多くない。というのも、ル・マン24時間レースは「FIA世界耐久選手権(WEC)」のシリーズ戦の1戦に組み込まれているため、年間でシリーズ参戦するチームが多く、ル・マンだけスポット参戦するのは簡単ではない。日本のメーカーの関わり度合いも増えてきているだけに多くの日本人ドライバーがル・マンへの参戦を目指しているが、今年はトップドライバーが参戦するSUPER GTのオートポリス戦とル・マン24時間レースのテストデーが重なってしまったために、日本でのレース活動を優先し、出場を諦めたドライバーも居た。

中嶋一貴(左) 【写真:FIA WEC】
中嶋一貴(左) 【写真:FIA WEC】

4人参戦する日本人の中で、大きな期待を背負って走るのが中嶋一貴。総合優勝をかけて争う「LMP1-H」クラスに参戦する「トヨタレーシング」7号車を駆る。今年のトヨタはWECでは開幕戦から2連勝し、ル・マンのテストデーでも1-2の好タイムを記録しており好調そのもの。大幅にモディファイされた新車TS040で悲願の総合優勝を狙っている。

日本人ドライバーでル・マンの総合優勝を飾ったドライバーは、関谷正徳(マクラーレンF1 GTR/1995年)、荒聖治(アウディR8/2004年)の2人のみ。中嶋には10年ぶりの日本人ドライバーによる総合優勝、そして1991年のマツダ787B以来23年ぶりの日本車による勝利を期待したい。

トヨタのライバルに乗る、トヨタのドライバー

中嶋と同じ「LMP1-H」クラスを戦うドライバーには実は日本のレースで育ったドライバーが数多く居る。特に4年連続で優勝を飾っているアウディは3台9人のうち5人が日本のレースを戦ってきた(または戦っている)ドライバーを起用し、5年連続の勝利を狙う。

アンドレ・ロッテラー 【写真:WEC】
アンドレ・ロッテラー 【写真:WEC】

その中で、長年に渡って日本のレースに参戦し、今も現役で「スーパーフォーミュラ」を戦っているのがアンドレ・ロッテラーロイック・デュバル。2人とも既にル・マン24時間レース優勝の経験者であり、どちらもアウディのエースとして重要なポジションに居る。さらに、現在は日本ではレースをしていないが、数年前まで「SUPER GT」「フォーミュラニッポン」で活躍し、日本で両カテゴリーのチャンピオンに輝いたブノワ・トレルイエもアウディのエースドライバーの一人。ロッテラー、トレルイエ、デュバルらは日本のレース環境でプロドライバーとして自らを磨き、ル・マン24時間やWECのチャンピオンとして活躍する代表例だ。同じアウディでは3台目のマシンに、今年からSUPER GTのGT500クラスに参戦するオリバー・ジャービスが乗る。

アウディは5年連続優勝を狙う 【写真:FIA WEC】
アウディは5年連続優勝を狙う 【写真:FIA WEC】

皮肉な事に、ロッテラー、デュバル、ジャービスは日本ではトヨタのドライバーとしてレースを戦っているが、WECやル・マンではアウディに乗るため、トヨタの敵となる。戦うシリーズが違い、ドライバーの実力が認められて、それぞれのレースに起用されているから、業界的には自然なことなのかもしれないが、初心者のファンなどには何とも理解しづらい構図が生まれている。

現代のMr.ル・マン、クリステンセンも日本育ち

アウディのドライバーでは昨年、史上最多9度のル・マン優勝を成し遂げたトム・クリステンセンを忘れてはならない。ル・マンで既にレジェンドの領域に達しているクリステンセンは若い頃、日本のレースで活躍したドライバーで、日本経由でル・マン優勝ドライバーになったロッテラーらの大先輩にあたる。

昨年、9度目の優勝を飾ったクリステンセン 【写真:FIA WEC】
昨年、9度目の優勝を飾ったクリステンセン 【写真:FIA WEC】

クリステンセンが日本で活躍したのは1990年代の前半。92年に全日本F3選手権に参戦し、94年には全日本F3000(現・スーパーフォーミュラ)にステップアップ。ハコ車のドライバーとしては日産スカイラインGT-Rで全日本ツーリングカー選手権に参戦。さらに1994年からは全日本GT選手権(現・SUPER GT)のGT500クラスにトヨタ・スープラで参戦した。

つまりは今年10度目のル・マン優勝を狙う巨匠、トム・クリステンセンも若きフォーミュラドライバーとして来日し、様々なカテゴリーで日本のレースを戦い、そのスキルを確立して行ったドライバーなのだ。一定の実績を残していれば、ありとあらゆるタイプのマシンで、お金を貰ってレースすることができる日本は、外国人ドライバーたちにとってはこの上なく良い環境だったと言える。日本で彼らを走らせたメーカーは彼らと共に世界を戦えば、もっと早く栄光に辿り着けたのかもしれないが、そう考えると何とも勿体ない。

トヨタチームに日本で馴染みのドライバーは少ない。【写真:FIA WEC】
トヨタチームに日本で馴染みのドライバーは少ない。【写真:FIA WEC】

来年は日産が最高峰へ。日本人もぜひル・マンへ

F1モナコGP、インディ500と並んで世界三大レースとカテゴライズされる「ル・マン24時間レース」。三大レースの中で、日本のレース業界と最もつながりが深いと言えるのがル・マンだ。かつて80年代後半から90年代に、トヨタ、日産、マツダといった国内自動車メーカーが同レースに参戦していたが、今、国内人気ナンバーワンレースとして君臨するSUPER GTを支えるベテランのチームスタッフの中にはその時代に若手としてル・マンを戦った人も多い。現状では、国内のSUPER GTとル・マンへの挑戦を兼ねるのはスケジュール面でも予算面でも簡単なことではないが、接点やチャンスがあるならば、迷わずに挑戦するだろう。

GTAの坂東正明代表
GTAの坂東正明代表

SUPER GTを運営するGTA(GTアソシエイション)も、ル・マン24時間レースの運営母体「ACO(フランス西部自動車クラブ)」との交流を積極的に行ってきた。昨年はル・マンを目指すチームのアジア選手権「アジアン・ルマン・シリーズ」日本ラウンドにGT300車両を参戦させ、シリーズの活性化に協力しながら交渉を続けてきた。先日のGTA記者会見で坂東正明代表はGT500車両をル・マンに参戦させたい意向だったが、今年から導入された新GT500はDTMを運営する団体ITRとの規約に制限があることなどから、ル・マンへのGT500参戦は断念したことを明らかにした(過去にル・マンには米国NASCARの車両が出場したこともある)。ただ、「SUPER GTのドライバーやチームがACO(ル・マン)に行けるような状況は今後もやっていきたい」と語り、アジアン・ルマンやGTアジアとの交流も引き続き行って行く意向を示した。

そして、来年は日産が最高峰クラスにワークス参戦することが発表された。今年は招待枠「ガレージ56」で、日産が開発する電力駆動レーシングカー「ZEOD」が24時間の完走を目指して戦い、ここに本山哲とルーカス・オルドネスのSUPER GTドライバー2人が乗る。また、ル・マン本戦には出場しないが、SUPER GTのエース松田次生が今季のWECで日産エンジンを搭載するLMP-2のチーム「KCMG」から参戦しているほか、GT300クラスで活躍した千代勝正を海外の耐久レースシリーズに送り込むなど、ル・マン復帰を前に着々と準備が進められている印象で、日本人ドライバー起用の気運も高まってきている。

日本育ちの馴染みあるドライバーの活躍もさることながら、どんどんと関わりを増す日本とル・マン。そういう点でも今後の動きは興味深い。今年、トヨタが悲願の初優勝を成し遂げれば、そういった流れは一気に加速する気がしてならない。