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速すぎる!?スーパーフォーミュラ、新車SF14の動きはF1並み!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
スーパーフォーミュラSF14 【写真:MOBILITYLAND】

「とてつもなく速い!」3月3日、4日の2日間、三重県・鈴鹿サーキットで行われた「全日本選手権スーパーフォーミュラ」の合同テストで、2014年から導入するニューマシン「SF14」のとんでもない性能の高さが明らかになった。軽快というよりは「俊敏(しゅんびん)」という表現の方が似つかわしいクイックな回頭性、強烈なコーナリングスピードに驚きの声があがり、平日にも関わらず、コースサイドには噂を聞きつけたアマチュアカメラマンが数多く詰めかけた。

平日にも関わらず多くの観客がテスト走行を見物した。写真はヘアピンカーブのスタンド
平日にも関わらず多くの観客がテスト走行を見物した。写真はヘアピンカーブのスタンド

テスト2日目にして、夢の36秒台に!

トップタイムをマークしたロイック・デュバル
トップタイムをマークしたロイック・デュバル

「スーパーフォーミュラ」の新型マシンSF14はとにかく速い。昨年から開発車両を使用して行われていたテストでも、そのポテンシャルの高さは充分に予想されていたが、新車・新エンジンが各チームにデリバリーされて行われたテストのタイムは予想以上だった。2日間の総合トップタイムはロイック・デュバル(KYGNUS SUNOCO Team LeMans/トヨタ)の1分36秒475

鈴鹿サーキットの最速タイムで思い出すのは、1990年のF1日本グランプリでフジテレビのF1中継の実況を担当していた古館伊知郎氏が叫んだ「夢の36秒台」という言葉。アイルトン・セナが90年のF1予選で37秒台の壁を破り、1分36秒996をマークしたシーンは当時F1を見ていた多くのファンの心に刻まれている。また、昨年までのスーパーフォーミュラ用マシンSF13でも、テストで非公式タイムながら1分36秒574が出ているが、これは5年間に渡って研究・開発が進められた結果のタイム。新型マシンSF14は初のテスト走行にていきなり非公式レコードタイムを上回る速さを見せたのだ。

今とはコースレイアウトも距離も若干異なる鈴鹿のF1タイムを比較したり、24年前のF1のスピードと比較するのはナンセンスかもしれないが、ひとつ言えるのは今のスーパーフォーミュラのドライバー達は90年当時のアイルトン・セナが感じていたスピードの領域でレースをすることになる。

とてつもなく速いコーナリング

スーパーフォーミュラSF14の走り 【写真:MOBILITYLAND】
スーパーフォーミュラSF14の走り 【写真:MOBILITYLAND】

「まるでF1の動き」 スーパーフォーミュラのテストをコースサイドで見る人の口々から、そんな感嘆の声が聞こえてきた。SF14はイタリアの「ダラーラ」社が製作したシャシー(車体)を使用する。「ダラーラ」はジャン・パオロ・ダラーラが設立した車体製造メーカーで、かつてはF1にも車体を供給していたトップメーカー。現在は米国の「インディカー」、ヨーロッパの「GP2」、「フォーミュラルノー3.5」などのスーパーフォーミュラと位置づけが同じレース、さらに「F3」も同社の車体が使われている。量産フォーミュラカーの分野では世界シェアナンバーワンの企業と言える。操縦性、信頼性が優れた同社製のシャシーはドライバーにも大好評で、F3などでダラーラのシャシーを経験しているドライバーたちはその素直なクルマの動きに即座に順応し、好タイムを叩き出した。

そのスピードの源になっているのが、新開発の日本製エンジン。SUPER GTのGT500クラスと共通の2.0L・直列4気筒・直噴ターボエンジンは550馬力を発生し、これをトヨタとホンダが供給する。さらに足下を支えるタイヤはブリヂストン。また、ブレーキは今年からブレンボのカーボンブレーキを使用し、強烈なフルブレーキングを実現している。とにかく全てが最新のものになり、2日間のテストでSF14はF1マシンにかなり近い運動性能を持つ事が証明された。

昨年のF1と比較すると。。。

では、1分36秒台をいとも簡単にマークしてしまったSF14がどれほどF1に近いタイムになっているのかを比較してみよう。昨年のF1日本グランプリとは気温や路面温度などの気象条件も異なるので、単純にタイムを比較するだけになるが、F1のポールポジションタイムはマーク・ウェバー(レッドブル・ルノー)がQ3で記録した1分30秒915。今回のスーパーフォーミュラのテストで記録された36秒台からは約5.5秒のギャップがある。

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しかし、F1予選のQ1で最もタイムが遅かったジュール・ビアンキ(マルーシャ・フェラーリ)のタイムは1分34秒958で、僅か1.5秒の差でしかない。コースサイドで見ていると、スーパーフォーミュラの新型SF14は高速で飛び込んだ後にブレーキングし、さらにスピードを乗せながらシフトアップしていく「セクター2」と呼ばれる区間でクルマが非常に安定している印象で、この区間はビアンキの区間タイムよりも速いかもしれない。F1は独自の3区間方式の区間タイム計測を採用(国内レースは4区間)しているので、正確な比較データがないが、区間によっては昨年のF1下位チームの予選アタックよりも速い可能性がある。

また、F1には予選通過の基準タイムである107%ルールというものが存在する。Q1でトップタイムを記録したロメイン・グロージャン(ロータス・ルノー)の1分31秒824を100%とし、そこから換算して7%以内=1分38秒251のタイムを記録したドライバーが決勝へ進出する。実際には予選落ちは無いので、タイムが記録されなくとも決勝には出走が許可されるのだが、107%以内のタイム=F1としてレース出場が認められるタイムであるということだ。2日間のタイム総合結果の中、表の赤いライン=石浦宏明までの9人ものドライバーがF1のタイムを記録したことになる。

まだまだタイムは速くなるが。。。

ホンダ勢の中で2番手タイムをマークした新人の野尻智紀
ホンダ勢の中で2番手タイムをマークした新人の野尻智紀

今回のテストではトヨタエンジンを搭載するチームが好調で、ホンダエンジン勢は約2秒の差ができるという予想以上のギャップが生まれてしまった。今後はホンダのエンジン開発に期待をかけたいが、開発テスト段階から生まれていた差を縮めるのは簡単な事ではない。

好調のトヨタエンジンを積むドライバー達は表情も明るく、実にコメントも軽やか。今回記録されたベストタイムよりも、コンマ1秒〜2秒縮められたと語っているので、夢の36秒台どころか35秒台も充分に視野に入ってきており、開発が進んだ後、今後のタイムがどれだけ伸びていくのか楽しみだ。F1も新規定のパワーユニット導入で混乱のシーズンが予想され、現時点では上位から下位までのタイムギャップが大きいため、「スーパーフォーミュラ」がF1マシンのタイムを越えてくる可能性もある。とんでもないマシンが日本の「スーパーフォーミュラ」に現れた。

F1並みの速さが楽しめる、というのはファンにとっては嬉しい話だが、鈴鹿サーキットや富士スピードウェイなどF1規格のサーキットでは問題無くとも、エスケープゾーンが少なく、高速コーナリング区間もあるサーキットではこのスピードの上昇っぷりはちょっと心配ではある。。。

「小排気量ターボエンジン」という新たな技術開発競争も生まれ、とにかく速いマシンになり、3人ものF1レギュラードライバー、2人のルマン勝者、ワールドチャンピオン、5人ものチャンピオン経験者が集うなど、今年は見所が充実。ぜひ内容も面白いシーズンになって欲しいものだし、何よりもこれだけポテンシャルの高いマシンならば、年間7戦しかないのはもったいない気がする。

【SUPER FORMULA】

全日本選手権スーパーフォーミュラ。今年からダラーラのSF14シャシーを導入し、新開発の2L直4ターボエンジンをトヨタ、ホンダが供給する。4月の開幕戦、鈴鹿サーキット「SUZUKA 2&4 RACE」からスタートし、富士、オートポリス、ツインリンクもてぎで年間7戦が開催。最終戦の鈴鹿のレース(11月)には「JAF鈴鹿グランプリ」のタイトルが28年ぶりに復活する。ここ数年低迷していた人気も、新車導入に対する関心が高く、今年は国内トップフォーミュラ人気復権の1年になりそう。SUPER FORMULA 公式サイト

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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