Yahoo!ニュース

耐久王「ポルシェ」の復帰で、WEC&ルマンはハイブリッドカー頂上決戦に!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ポルシェの歴代プロトタイプカー 【写真:Porsche AG】

2014年はモータースポーツ界にとって、どんな1年が待っているのだろうか。自動車メーカー、バイクメーカー共に本格的なモータースポーツ活動再開に積極的な動きを見せ始めている2014年は業界が「V字回復」する1年になるか。今年のモータースポーツ界を沸かせてくれそうな話題をピックアップする「Go! for 2014」Vol.5はスポーツカーレースの最高峰、ルマン24時間レースを中心とした「FIA世界耐久選手権(WEC)」をピックアップする。

WEC世界耐久選手権(2013年) 【写真:FIA WEC】
WEC世界耐久選手権(2013年) 【写真:FIA WEC】

2014年はWECが面白くなる!

フォーミュラカーの「F1」、ツーリングカーの「WTCC」と並んで、レーシングスポーツカー&グランドツーリングカーの世界選手権となる自動車レースが「FIA 世界耐久選手権(WEC)」。通称はダブリュー・イー・シーと略されるが、日本では「ウェック(WEC)」という呼び方が昔からモータースポーツファンに親しまれている(以後、WECと表記する)。

現在のWECは世界三大レースのひとつ「ルマン24時間レース」を主催するACO(フランス西部自動車クラブ)の耐久シリーズが2012年から世界選手権レースに昇格したもので、今年で発足3年目のシーズンとなるが、ここに来て盛り上がりを見せ始めている。

プロトタイプカー、GTカー合わせて4クラスが混走するWECの最高峰クラスLMP1クラスには今年からポルシェが参戦し、アウディ、トヨタと対決する。さらにGTカーのLM-GTE Proクラスにはポルシェ、フェラーリ、アストンマーチンがワークス参戦しており、メーカーの関与も年々強くなってきている印象だ。

ポルシェ復帰は今年の大きなトピック

耐久王ポルシェ 【写真:Porsche AG】
耐久王ポルシェ 【写真:Porsche AG】

今年の大きな話題は「ポルシェ」のスポーツカー耐久レースへの本格的なカムバックだろう。高級スポーツカーメーカーとして有名な「ポルシェ」だが、レースの世界では「耐久王」の異名を持つ。これはルマン24時間耐久レースで16勝を挙げるなど、とにかくスポーツカー耐久レースでは無敵の存在と言っても良い程の実績を残している事から来ている。

日本人に「ポルシェ」という名前が知られるようになる遥か昔から、同社の市販車は「レースで培ったDNA」が注ぎ込まれた製品だった。ポルシェの定説といえば、「とにかく壊れない」こと。優れたレーシングカー作りのノウハウを持つポルシェは耐久レースの世界でその耐久性を証明してきた。これぞポルシェの大きなブランド価値と言えるので、同社にとってルマン24時間レースなどの耐久レースへの挑戦は最も高いプライオリティに位置する活動といえる。

今年、「ポルシェ」は16年ぶりに総合優勝を狙える最高峰クラスへの参戦を実行するが、2012年からスタートしたWECにとっては、いよいよ「真打ちの登場」といった所だ。

テスト走行を重ねるポルシェ919ハイブリッド 【写真:Porsche AG】
テスト走行を重ねるポルシェ919ハイブリッド 【写真:Porsche AG】

迎え撃つアウディとトヨタ

耐久レースの王様「ポルシェ」の参戦に鼻息が荒くなっているのが、既に2年間、WECとルマンで総合優勝と世界チャンピオンを争っている「アウディ」と「トヨタ」。特に近年のルマンで無敵を誇る「アウディ」は同じドイツのメーカー「ポルシェ」の行く手を阻み、ルマン12勝の記録を伸ばすべく、新車の開発に躍起になっている。2014年のポルシェ参戦への先制準備として、2014年用のマシンを1年前に完成させるほどの力の入れようだ。「アウディ」にとってみれば「ポルシェ」と初めて直接対決する今年は重要なシーズンとなる。

レイザーライトを搭載するアウディR18 e-tron 【写真:Audi】
レイザーライトを搭載するアウディR18 e-tron 【写真:Audi】

また、日本の「トヨタ」は2012年のWEC立ち上げ時から参戦しているが、「アウディ」に比べると小規模な体制でレースを戦っており、ルマン24時間レース以外は1台しかエントリーさせないレースもあった。しかし、今年は2台体制で耐久王「ポルシェ」を迎え撃つ。

「トヨタ」といえば、ハイブリッドカーというイメージが世界的に知られているが、参戦当初からハイブリッドレーシングスポーツカーでの世界制覇、ルマン優勝を目指してきた。ところが、「アウディ」もディーゼルエンジンにモーターの動力を加えたハイブリッドカーで参戦。ハイブリッドの元祖であるトヨタとしては、2年連続で「アウディ」にルマン優勝を奪われているだけに、今年は正念場となる。新型マシン「トヨタTS040ハイブリッド」が登場する予定で、悲願のルマン制覇に向けた仕上がりが楽しみだ。

LMP1クラスに9台が参戦

2013年のトヨタTS030 【写真:FIA WEC】
2013年のトヨタTS030 【写真:FIA WEC】

これら3メーカーが対決するLMP1クラスは「ハイブリッドカー」の自動車メーカー対決となるが、自動車メーカーとしてワークス参戦するチームはハイブリッドシステムが搭載されることが義務づけられる(LMP1-Hクラスと呼ぶ)。一方で、プライベートチームはハイブリッドシステム非搭載で参戦できる(LMP1-Lクラスと呼ぶ)。トヨタ2台、アウディ2台、ポルシェ2台のLMP1-Hに加え、ロータス1台、レベリオン・トヨタが2台の合計9台のエントリーに増えた(昨年は5台〜6台)。

今年はルマン24時間レースにおいては、30%削減された燃料で優勝争いをしなくてはならないなど、3メーカーのハイブリッド対決には技術面でもチャレンジングな課題が与えられているので、開発面でのコンペティションも楽しみだ。自動車メーカー色が薄くなった印象のF1に比べると、何だか今後さらに盛り上がりそうな勢いのWEC。特にポルシェの本格参戦で、世界中のファンが胸躍らせている。今年は耐久レースが熱い!

FIA WEC 公式サイト(英語)

トヨタ自動車「WEC&ルマン24時間レース」情報サイト

【WEC 世界耐久選手権】

全8戦で世界を転戦するスポーツカー耐久選手権。6月には選手権の核となる「ルマン24時間レース」がフランスで開催。それ以外のレースは6時間耐久レースとなる。近年、ルマン24時間とWECには自動車メーカーが興味を示しており、最高峰LMP1クラスには「フェラーリ」「ニッサン」などの参戦も噂されている。2014年は「トヨタ」から中嶋一貴が参戦する他、「ポルシェ」からは昨年までF1で戦ったマーク・ウェバーの参戦も決まっている。日本での開催は10月に富士スピードウェイ(静岡県)となっている。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

辻野ヒロシの最近の記事