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モータースポーツの百貨店!「ホンダ」のモータースポーツ体制発表を読み解く。

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ホンダのモータースポーツ体制発表会でスピーチする伊東社長

2月7日(金)、東京青山のホンダウェルカムプラザでホンダ2014年のモータースポーツ体制を発表した。

ご存知、ホンダは2輪と4輪、しかも様々なジャンルのモータースポーツ活動を展開する企業。その発表はサーキットレース、モトクロス、トライアル、ダカールラリーと多岐に渡っている。

今回も恒例の多岐に渡る活動の記者発表会となったが、F1に関する新しい発表を期待して来場した一般メディアの記者たちは、あまりの内容の多さに驚いたのではないだろうか。とにかく活動ジャンルの幅が広い。国内から海外、サーキットからラリー、4輪から2輪、プロレースから参加型レースまで、ありとあらゆる発表になっている。この幅広い活動こそがモータースポーツ、レース活動を「ホンダの原動力」と位置づける同社ならではの姿勢であり、モータースポーツに対する世間の目が厳しくなった後も活動を続けてきたホンダの姿だ。F1をやる、辞めたで一喜一憂している世間とはちょっと現実が異なる世界がここにある。

伊東社長を囲む各レースの選手たち。出席したのはごく一部だ。
伊東社長を囲む各レースの選手たち。出席したのはごく一部だ。

モータースポーツはホンダの原点

伊東孝紳社長
伊東孝紳社長

今年も記者会見の冒頭で、伊東孝紳社長が「ホンダは創業以来、2輪、4輪において世界トップレベルのレースにチャレンジしてまいりました。自らの技術を世界の舞台で試し、磨き、証明する事。それは今よりずっと規模の小さかったホンダにとって大きなチャレンジでありました」とスピーチ。1954年(昭和29年)に創業者の本田宗一郎がイギリスのマン島TTレース(2輪)への出場を宣言して以来、モータースポーツ活動、レースでの勝利を成長の原動力としてきた同社にとって、モータースポーツは決して外す事ができない活動になっている。

また、伊東社長は今年のモータースポーツ活動の概要を説明。ホンダのレース活動の原点である2輪では、モトクロス世界選手権、トライアル世界選手権のチームをワークス化し、体制を強化することを発表。また4輪レース活動としては「WTCC(世界ツーリングカー選手権)」「伊沢拓也のGP2参戦」「インディカー」「スーパーフォーミュラ」での活動の他、「SUPER GT」の新規定GT500車両「NSX CONCEPT-GT」を会場内に展示して参戦をアピールした。また、F1については大きな発表は無かったものの、栃木県さくら市の新拠点でのパワーユニット開発が順調に進んでいる事を伝えた。

F1などの開発新拠点となる栃木県さくら市の施設のイメージ
F1などの開発新拠点となる栃木県さくら市の施設のイメージ

2輪は全ジャンルでワークス活動を強化

ホンダの発表の今回の目玉は、F1でも、SUPER GTの参戦でも無く、実は2輪におけるモータースポーツ活動の強化。これまでロードレース世界選手権(MotoGPクラス)で行ってきたワークス活動を、モトクロス世界選手権(MXGP)、トライアル世界選手権、ダカールラリー(既に終了)にまで広げることだ。モトクロスは既存のトップチームを「Team HRC」、トライアルではMotoGP同様の「Repsol Honda Team」としてワークスエントリーする。

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モトクロスとトライアルに関しては国内での知名度は低いが、イギリスのメディアからワークス活動を決めた事について質問がなされた。それに対し、ホンダの2輪レース活動を司るHRC(株式会社ホンダ・レーシング)の鈴木社長は「元々、各海外の現地法人ベースでの参戦をしていましたが、そこをよりスピーディーに、よりフレキシブルに、よりきめ細やかな開発ならびに運営をしていきたいのでワークス体制での参戦を決めた」と説明。全日本モトクロスでのワークス活動再開(2011年から)に続き、今度は世界でもということだ。また、トライアルでは「Repsol Honda Team」からホンダワークスライダーとして、藤波貴久が今年も参戦することになっている。ホンダはメーカーとして、ロード、モトクロス、トライアルの3つの世界選手権でワールドチャンピオン3冠を目標に2輪モータースポーツ活動を本格化させることになった。

ホンダMXGP「Team HRC」プロモーションビデオ↓

また、発表ではアジアのレーシングライダー育成の強化についても紹介。若者が多く、バイクの売れ行きも好調で、レース熱が高まる東南アジア。そのライダー達をホンダは「ロードレースアジア選手権」を通じて育成し、ロードレース世界選手権Moto2クラス(600cc)に参戦する「Idemitsu Honda Team Asia」へつながる道を用意している。アジア選手権で活躍したマレーシア人、アズラン・シャー・カマルザマンのMoto2フル参戦を決めるなど、これからの成長に大いに期待できるアジアへの取り組みも今のホンダならではと言える。

今回は残念なことに、国内のロードレースに参戦するライダーの出演は無かった。ホンダは国内のロードレースではワークス活動を長年休止しており、有力チームにワークスマシンを貸与し、レース活動を託すという形を取っている。かつては栄華を極めた日本のロードレースだが、年々、その規模が縮小していくのは寂しい話。しかし、まだ時期が早いだけに詳細な発表はなかったが、夏の「鈴鹿8時間耐久ロードレース」には今年も力を入れそうだ。

1959年マン島TTレースに参戦した「RC142」(東京モーターショーにて)
1959年マン島TTレースに参戦した「RC142」(東京モーターショーにて)

2輪だけでもこれだけ多岐に渡る活動を細かに説明することからも、ホンダというメーカーがいかに2輪モータースポーツに力を入れているかをうかがい知る事ができる。

ホンダのルーツは2輪であり、世界の超一流ブランド。歴史を振り返れば、4輪車もF1などの4輪レース活動も、2輪のベースがあってのもの。ある意味、ホンダらしさは2輪にあると言えるし、4輪好きやF1の情報を求める方は、ホンダがF1に復帰する来年までの間、ルーツとなるホンダ2輪の魅力に着目してみると、より来年以降が楽しめると思う。

WTCCはフル参戦2年目。シビックの体制を強化

2014年のホンダの4輪レース活動の頂点に立つのが、「WTCC(世界ツーリングカー選手権)」へのシビックWTCCでの参戦だ。今年で2年目のワークスフル参戦となるが、ガブリエル・タルキーニ、ティアゴ・モンテイロのワークスチーム2人のドライバーに加え、ノルベルト・ミケリス、メディ・ベナーニのマシンもシビックWTCCになり、合計4台での参戦となる。今年はシトロエンも元ワールドラリーチャンピオンのセバスチャン・ローブらをドライバーに起用し、WTCCに乗り込んでくるだけに、さらなる戦闘力アップが求められる。

SUPER GTは元F1&インディカードライバーも

NSX CONCEPT-GT
NSX CONCEPT-GT

新規定に移行する「SUPER GT」はGT500クラスに来年発売予定のNSXのコンセプトモデルを元にした「NSX CONCEPT-GT」を5台投入し、チャンピオン奪還を狙う。そのドライバーラインナップは大きく変更され、鈴木亜久里率いる「ARTA」に元F1ドライバーのヴィタントニオ・リウッツィが加入。「童夢」には昨年までポルシェのドライバーとしてWEC(世界耐久選手権)を戦ったジャン・カール・ベルネが加入。さらに「NAKAJIMA RACING」には元インディカードライバーのベルトラン・バゲットが加わるなど新しい外国人の起用が目立つ。昨年チャンピオンを獲得したGT300クラスは今年も2台のCR-Zを出場させる。一方で「スーパーフォーミュラ」は日本人ドライバーが中心のラインナップに、これまた元F1ドライバーのリウッツィが加わる事が興味深い。

そして、今年は「スーパーフォーミュラ」へのスポット参戦は今の所予定されていないが、米国「インディカー」シリーズに今年も佐藤琢磨がホンダエンジンで参戦する。ホンダは新開発の2.2L・V型6気筒・ツインターボエンジンを合計7チーム10台に供給。昨年、スコット・ディクソンがドライバーズタイトルを獲得した強豪「チップ・ガナッシ・レーシング」がシボレーへとエンジンをスイッチしたが、マイケル・アンドレッティ率いる「アンドレッティ・オートスポーツ」がホンダユーザーに。トップチームのエンジン変更などもあってか、「A.J.フォイトエンタープライズ」の佐藤琢磨は年始からテストで走り込み、新パッケージの開発も行っているとの事で佐藤の活躍にも期待したい。

草の根モータースポーツも新レースが

FIT 1.5チャレンジ用のレース仕様車
FIT 1.5チャレンジ用のレース仕様車

ホンダはかつてシビックレースなど、参加型のワンメイクレースを推奨してきた。今年は新たに、軽自動車「N-ONE」のワンメイクレースがスタートする他、鈴鹿サーキットで新型フィットを使用した「FIT 1.5チャレンジカップ」が始まることになった。トヨタが「86/BRZ」を推進し、結構ハイレベルな戦いの場を用意しているのに対し、ホンダは軽やコンパクトカーでのレース推進。昨年までも開催されてきたCR-Zのレンタル車両を使用した「Honda Sports & Ecoプログラム」をはじめ、初心者にも参加しやすい草の根モータースポーツの推進を行って行くとのこと。

このように来年からの頂点「F1」だけではなく、上から下まで、2輪と4輪、いろいろあるのが「ホンダ」のモータースポーツ活動。いろいろありすぎ、という声も聞こえてきそうだが、これだけ多くのレース活動、モータースポーツ活動を行っている企業は世界的にも他に類を見ないと言えるだろう。

そこが一口では語れない「ホンダ」の面白さなのだと感じる。とにかくF1復帰を含めて、これだけの活動ができるということは、ホンダが元気になってきた証拠。多くの「待ってました!」というファンの期待に応える活動を展開して頂きたい。

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関連リンク

記事で紹介したのはごく一部。リリース全文はホームページで見れる。

2014年Hondaモータースポーツ活動の概要

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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