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皇室ご一家が激励してきた「もう一つのオリンピック」とは? 深いつながりを解説

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
天皇皇后両陛下・上皇ご夫妻・秋篠宮ご夫妻(写真:ロイター/アフロ)

 来月4日~20日の日程で、北京冬季オリンピックが開催する。続いて3月4日~13日は、北京冬季パラリンピックが行われる。

 冬のスポーツの世界的祭典として大きな注目を集めているが、実は今年5月にも大きな国際スポーツの大会が予定されていることをご存知だろうか。

 5月1日からブラジルで予定されている、聴覚障がい者のための国際スポーツ競技大会、デフリンピックだ。デフ(deaf)とは、英語で「耳が不自由な」という意味である。

 去年、天皇陛下は東京オリンピック・パラリンピック両大会で名誉総裁を務められたが、天皇がパラリンピックの名誉総裁になるのは初めてだった。そして、このデフリンピックも皇室と深い繋がりを持っているのだ。

■皇室の方々が激励してきた、もう一つのオリンピック

 障がい者のための世界的なスポーツ競技大会として、なぜパラリンピックとは別にデフリンピックが行われているのか、不思議に思う人も多いことだろう。

 筆者がこれまで行ってきた皇室関連の取材で、聴覚障がい者の方から「デフリンピック」という名称が出ることが多く、「聴覚障がい者はパラリンピックに出場できない」と説明を受けていた。  

 意外なことに、パラリンピックには聴覚障がい者用の種目がないという。

 というのも、聴覚障がい者は耳が聞こえないだけで、体力や身体能力は健常者と変わりない。そのため、海外ではオリンピックに出場して、メダルを獲得した聴覚障がいの選手も存在する。

 例えば、ハンガリーのイルジコ・ロイト選手は生まれつき耳が聞こえなかったが、フェンシング代表選手としてオリンピック5大会に出場し、個人戦と団体戦合わせて金メダル2つを含む7個のメダルを獲得した。

 素晴らしい選手だが、ハンディがあるために、手話を知らない他の選手やコーチとのコミュニケーションは、筆談で行わなくてはならなかった。

 オリンピック競技でスタートの音や審判による号令などは、聴覚障がいの選手には聞こえない。そのため、フラッシュライトをスターターピストルと併用したり、選手の視界にコーチが入って指示を与えたりしていたという。

 一方、聴覚障がい者だけが出場するデフリンピックでは、すべての競技で視覚的な工夫が施され、国際手話の話者を動員してコミュニケーションを綿密に行うなど、選手が競技に集中できるよう配慮されてきた。

 その歴史は長く、第1回大会は1924年にパリで開催され、現在では夏季大会と冬季大会がそれぞれ4年に1度開かれている。2017年にトルコで開かれた夏季大会は、史上最多の97カ国・地域から約3100人が参加し、日本選手は過去最高の合計27個のメダルを獲得し、盛り上がりを見せているのだ。

■皇室とデフリンピックの繋がり

 上皇さまは長年にわたって、障がい者スポーツの普及に力を注いでこられた。1964年の東京パラリンピックで皇太子時代の上皇さまは名誉総裁を務め、会場を訪れて選手たちと積極的に交流された。当時は海外に比べて、障がい者スポーツをめぐる日本の環境は、大幅に立ち遅れている現実があった。

 上皇ご夫妻が力を注がれたこともあり、その後、日本では「全国身体障害者スポーツ大会」が毎年行われ、障がいのある人がスポーツに参加しやすい雰囲気や環境が築かれていった。障がい者スポーツにおいて、上皇さまが果たされた功績は大きい。

 また、1979年にアメリカの聴覚障がい者劇団「ナショナル・シアター・オブ・ザ・デフ」が初来日した時、上皇ご夫妻は公演を鑑賞された。俳優たちの演技をご覧になった美智子さまは「本当に感激しました」とおっしゃり、手話が日本に広まるきっかけを作った。

 そんな上皇ご夫妻はデフリンピックが開催されるたび、日本選手団と面会され、直接、激励の言葉をかけてこられたのである。

 障がい者へ心を寄せる姿勢は、令和の皇室に受け継がれ、一昨年2月、天皇皇后両陛下は、前年のデフリンピックに出場した選手らを激励された。続いての大会は2021年12月5日からブラジル・カシアスドスルで開催予定だったが、コロナの影響で今年5月に延期となっている。

 また、秋篠宮ご夫妻や佳子さまは、以前からデフリンピックに関心を寄せられてきた。紀子さまが学生時代から手話を学ばれていたことは有名だ。

 佳子さまも手話を習い、去年5月から全日本ろうあ連盟の非常勤嘱託職員として勤務されている。毎年鳥取県で開催される「全国高校生手話パフォーマンス甲子園」は、留学中の2017年を除いて毎年参加されているほど、聴覚障がい者への思い入れは強い。

■2025年デフリンピック 日本で初開催へ

 実は今、2025年のデフリンピックを日本で開催しようという機運が高まっている。一昨年、安倍晋三首相が衆院予算委員会で「国としてしっかりバックアップしたい」と述べ、招致に向けた動きが始まった。

 デフリンピックが始まって100周年にあたる記念の大会となり、日本で初開催となれば、聴覚障がいへの理解が広まる契機となるだろう。

 2022年は、2月にオリンピック、3月にパラリンピック、そして5月にはデフリンピックが待っている。今回も日本人選手たちの健闘ぶりを、皇室の方々は楽しみにされていることだろう。

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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