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「匂わせ」と報じられる眞子さまのお歌、実は恋と無関係 和歌の師明かす真意

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
眞子さま(写真:ロイター/アフロ)

■お歌にこめた、眞子さまの真意は…

 皇室の方々が日々どのような思いをお持ちでいらっしゃるのか、それを知る方法がいくつかある。お誕生日や結婚記念日などの節目に行われる記者会見、公式に発表される文書回答、そして自ら詠まれたお歌である。

 今年3月、歌会始がコロナ禍の影響で遅れて行われたが、週刊誌やネット記事を賑わせたのは、眞子さまのお歌だった。その内容の多くが、眞子さまがご結婚への思いをお歌に託されているのではないかという、穿った見方だったように思う。

 そこで、宮内庁御用掛として皇室の方々にお歌をご指南している歌人の篠弘さんに、本当のところを伺ってみた。現代歌壇の重鎮である篠さんは多くの歌書を出版し、去年、その集大成ともなる労作「戦争と歌人たちーここにも抵抗があったー」(本阿弥書店)を上梓した。戦時中も揺るぎない矜持を貫いた20名余りの歌人たちが詠んだお歌は、時を越えて戦争の悲惨さを伝え、これからの若い世代の人に読んでほしい願いがこもる。

■和歌の師が語る、眞子さまの印象

 平成30年、篠さんは宮内庁御用掛になって最初に秋篠宮邸へ伺った時、秋篠宮ご夫妻と眞子さまと会い、お歌が国民と対話しうることを強調したという。眞子さまと初対面した時の印象を、篠さんはこう振り返る。

「初めてお会いした眞子さまはすぐ傍に座られましたが、物静かで何事も控えめな印象でした。ご挨拶も“よろしくご指導をお願い致します”と、とても丁寧でした」

 その後、幾度かお歌のご指南をした篠さん。創作を通して感じた眞子さまのお姿は、どのようなものだったのだろう。

「特に母君である紀子妃殿下から熱心な作歌の影響を受けられたからでしょう、眞子さまは一生懸命にお歌に取り組んでいらっしゃいます。秋篠宮ご一家の皆さんそうですが、お正月恒例の歌会始と上皇ご夫妻や両陛下のお誕生日に際して行われるご誕辰の歌会に、いつもお歌を出されています。眞子さまは感性が豊かで、お歌のモチーフの見つけ方がいいですね」

■眞子さまが選んだお歌のモチーフは…

 モチーフの見つけ方が光る眞子さまのお歌として、篠さんは、歌会始に出された以下の2首を選んでくれた。

「広がりし 苔の緑の やはらかく 人々のこめし 思ひ伝はる」(平成28年)

「野間馬の 小さき姿 愛らしく 蜜柑運びし 歴史を思ふ」  (平成29年)

 お歌は目に映る情景をそのまま文字にするのではなく、そこから感じた奥深い心模様を表すものである。確かに「広がった苔の緑」「野間馬の小さき姿」というモチーフは、その光景が目に浮かぶようで情感を誘う。

■眞子さまが詠まれたのは、恋の歌?

 これまで眞子さまが詠まれたお歌の中で、篠さんが「さらにこの2首はかなりレベルアップされました」と話すのは、令和になってからの次のお歌である。

「望月に 月の兎が棲まふかと 思ふ心を 持ちつぎゆかな」(令和2年)

このお歌について、篠さんは——

「これは愛らしい歌でいいですね。月に棲むウサギという常識を踏まえたものだけれど、そういう幼心を大事にして生きていきたい、生きてきている自分という存在を、慎ましく詠んでいます。眞子さまのお歌の中で、これが一番いいのではないでしょうか」

 結句の「持ちつぎゆかな」はあまり聞きなれない表現だが、「な」は四段活用の未然形で「~したい」という意味の、古い助動詞。つまり、「持ち続けていきたい」という気持ちを表している。

 このお歌は、眞子さまのご婚約内定記者会見で、お相手の方が「宮さまは私のことを月のように静かに見守ってくださる存在」と話したことから、恋する思いをこめたのではないかと注目された。これについて篠さんに聞いてみると、ズバリ答えが返ってきた。

「これは、恋の歌じゃないですよ。幼い時に信じたもの、夢を持った自分のことを、成長しても大事にしていきたいという、慎ましく謙虚なお歌です」

■今年のお歌に眞子さまが託した思い

 今年の歌会始で眞子さまが出したお歌も、お相手の方とのご結婚を念頭に詠まれたのではないかと騒がれた。

「烏瓜 その実は冴ゆる朱の色に 染まりてゆけり 深まる秋に」(平成3年)

 しかし、これについても篠さんは——

「こちらも恋の歌ではありません。嘱目の歌です。目で見て発見した烏瓜を、初めて見た時の驚きを詠んでいらっしゃいます。眞子さまのフレッシュな感受性が生きています」(※嘱目:即興的に目に触れたものを詠むこと)

 続いて詳しく解説してくれた。

「烏瓜という、都市の中には不思議な形と色を持つ植物があります。そういうものにふっと目を留めて、都市も生きているのだという思いに駆られた、嘱目の歌です。烏瓜を初めて見るとビックリしますよ、あの色ね。大きなトマトのような、なかなか見られない実、それを見た驚きです。都会にも自然が生きている、生きている自然の美しさ、その命を愛おしむ気持ちが出ているお歌ですね」

 現在の眞子さまが置かれた状況を知れば、確かに思い人に寄せる恋のお歌のように感じる向きもある。もちろん、ご本人に聞かなければ本当の意図は分からないが、少なくとも眞子さまにお歌のご指南をしてきた篠さんは、恋愛よりも身近な発見や驚きを意識して詠んでいらっしゃると話す。

「眞子さまは熱心に勉強されて、ここ数年でレベルアップしてきました。良い感性を持っていらっしゃるので、これからも研鑽を重ね、良いお歌を出されるよう期待しております」

 眞子さまが「歌会始の儀」や「月次の歌会」、「ご誕辰」に、皇族の一員としてお歌を出される機会が今後も訪れるのかどうかは、今は誰も分からない……。

「両陛下はご相談しながら和歌を作られている? 和歌の師が明かす揺るぎない愛」

https://news.yahoo.co.jp/byline/tsugenoriko/20210726-00249016

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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