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実は皇居は自然の宝庫、上皇ご夫妻が新種発見も 皇室×植物のエピソードとは?

つげのり子放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)
上皇ご夫妻と天皇皇后両陛下(写真:ロイター/アフロ)

 天皇ご一家の新たなお住まいとなる皇居・旧吹上仙洞御所は、コロナ禍のために改修工事が遅れていたが、6月中に竣工の見込みと報じられている。

 ご一家が引越しをされたら、「御所」という名称に代わる。前の明仁天皇が上皇になられた瞬間から「御所」は、上皇のお住まいを意味する「仙洞御所」と呼ばれるようになったが、徳仁天皇ご一家が暮らすことで再び「御所」と呼ばれることになる。

 上皇ご夫妻は、現在、高松宮ご夫妻の住居であった「高輪皇族邸」に仮住まいをされている。天皇ご一家の引越しが済み次第、赤坂御所の改修工事が始まり、完成をもって再度引越しをされる予定だ。

■上皇ご夫妻が長年暮らしていた、皇居の自然

 仙洞御所にお住まいの頃、上皇ご夫妻は早朝の散歩を日課にされていたとか。なにしろ東京のど真ん中に位置する皇居は、都心にありながらほぼ自然のままに生い茂る、広大な森でもある。国立科学博物館の調査によれば、合計で5903種もの動植物が生息しているのだ。

 都会の喧騒など届かない、皇居の中で育まれる多くの命。上皇ご夫妻は、この巨大な自然の中に身をゆだね、季節の移ろいを味わっていらっしゃったことだろう。上皇ご夫妻が目にされ、そしてこれから天皇ご一家も日々触れるであろう草花。それらはどんな四季折々の色彩を放っているのか、初夏の皇室ゆかりの植物をご紹介したい。

■皇居東御苑に咲く皇室ゆかりの植物

 東御苑の二の丸雑木林・二の丸池東側で開花しているのが、淡い紅色の花をつけたネムノキだ。この木と花には、美智子さまの青春時代の思い出が宿っている。

 美智子さまが高校2年の時、「ねむの木の子守歌」という詩を作られ、後に曲がつけられて昭和41年に吉永小百合さんと梓みちよさんがレコード化し、一般にも広く知られる歌になった。この歌には、こんな歌詞がある。

「薄紅の花の咲く ねむの木蔭でふと聞いた 小さなささやき ねむの声 ねんね ねんねと 歌ってた」

 夜になると葉が垂れ下がり、まるで眠っているように見えるネムノキの姿は、幻想的な世界へといざなってくれるだろう。

 東御苑の一角にあるバラ園では、雅子さまのお印であるハマナス、眞子さまのお印であるモッコウバラが咲いている。ハマナスは夏に開花し、やがて鮮やかな赤い実をつけ、香水の原料にも使われるほど芳しい香りを放つ。

 雅子さまがこの花をお印にされたのは、陛下が皇太子時代に北海道を訪れた際、紅色の大きな花に強い印象を受けたことから、雅子さまにお薦めして決められたと伝えられている。

 そして東御苑内の二の丸池で、小さな純白の花を咲かせるのが、ヒツジグサ。水面にそっと佇むように咲く、可憐な花だ。花言葉は「清純な心」。

 このヒツジグサには、美智子さまと昭和天皇との心温まるエピソードがあった。

 1961年、那須御用邸に昭和天皇と香淳皇后が滞在していたとき、美智子さまも一緒に那須の自然の中を散策された。その時、美智子さまが目に留められたのは、御用邸の沼に咲く白い花だった。生物学者でもある昭和天皇は、その花の名前は「ヒツジグサ」だとおっしゃり、未(ヒツジ)の刻、つまり午後2時に開花するので、この名前が付けられたと教えてくださったという。

 昭和天皇の優しい気持ちを大切にして、美智子さまは「いつか女の子が生まれたらお印にしよう」と思われたとか。この8年後、末娘の清子さんが生まれ、昭和天皇と美智子さまの思い出を託したヒツジグサをお印にされた。

■皇居に生息する希少な植物

 皇居の植物は、正倉院の宝物の復元にも役立っていた。それが、古くから赤い色を染める染材として使われてきた日本産種の「日本茜」だ。外国産種の茜なら手に入るのだが、日本茜は根が細く、忠実に再現するには相当な量が必要であった。

 皇居東御苑には、今では希少種となった日本茜が自生していると分かり、その株を集め3年かけて皇居内で栽培した。それが正倉院に提供され、聖武天皇が愛用されていた肘掛「紫地鳳形錦御軾」に使われている錦の糸の染色が再現されたのだった。

 また、上皇ご夫妻が発見された、新種の植物もある。

 1本の茎から小さな2輪の花を咲かせることから、ニリンソウと呼ばれる多年草が皇居の中にも息づいている。ある時、お二人が散策されている折、通常の2倍ほどの大きさのニリンソウの花を見つけた。これが新種だと判明すると、上皇ご夫妻はとても驚いていらっしゃったという。

 この新種は「吹上御苑」で見つかったことから、「フキアゲニリンソウ」と命名された。吹上御苑には一般の人は入ることができないが、皇居の森に絶滅危惧種や新種などが生息している証しといえるだろう。

 両陛下と愛子さまが皇居内に引越しをされたら、皇居に咲き誇る草花とともに、心温まる物語を紡いていかれるはずだ。そんな天皇ご一家の新たな日々に思いを馳せながら、6月8日から一般公開が半年ぶりに再開した、皇居東御苑をのんびりと散策してみてはいかがだろうか。

放送作家、ノンフィクション作家(テーマ:皇室)

2001年の愛子内親王ご誕生以来、皇室番組に携わり、現在テレビ東京・BSテレ東で放送中の「皇室の窓」で構成を担当。皇室研究をライフワークとしている。日本放送作家協会、日本脚本家連盟、日本メディア学会会員。著書に『天皇家250年の血脈』(KADOKAWA)、『素顔の美智子さま』『素顔の雅子さま』『佳子さまの素顔』(河出書房新社)、『女帝のいた時代』(自由国民社)、構成に『天皇陛下のプロポーズ』(小学館、著者・織田和雄)がある。

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