コロナ対策に休校は無意味なのか?医療政策のエビデンスをもとに解説

(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、日本では3月2日から全国の小中高校が臨時休校している。

これによって子どもたちの学ぶ機会が奪われたり、共働きやひとり親の家庭では親が仕事に行けなくなるなど、困っている国民も多い。

休校が子どもだけでなく、親の生活にも大きな影響を与えることには議論の余地はない。やらなくて済むなら、休校などしない方がよいだろう。

一方で、感染拡大を防ぐために必要なのであれば、仕方ないという考え方もある。

休校は新型コロナウイルスの感染拡大の予防に有効なのか?

子どもは新型コロナウイルスに感染しても重症化しない傾向にあることが、今までのデータから示唆されている。

しかし、子どもは重症化しなくても、不顕性感染を起こし高齢者にそのウイルスを広めることで、感染拡大の原因になるというのが、今回休校するという決断に至った経緯である。

たしかに、インフルエンザのデータを見てみると、まず子どもが感染し、次に大人が感染し、少し遅れて高齢者が感染し死亡するという傾向が認められているので、この考え方には一理ありそうである。

ここで問題になるのは休校をするかどうかではない。

すごいスピードで感染が拡大しているときに休校することに反対する人はいないだろう。インフルエンザだって流行れば学級閉鎖になるのと同じことである。

問題は休校のタイミングである。日本のようにまだ流行が爆発していない段階で休校することに意味があるのだろうか?

感染者が出てから休校する台湾 vs. 感染者が出る前に休校する日本

台湾は、生徒が1人感染すると学級閉鎖、2人感染すると休校というルールにを導入した。一方で、日本は感染者がゼロのうちから一律に休校とすることを決めた。

感染者が出てから休校する「台湾方式*」(Reactive school closure)と、感染者が出る前に休校にする「日本方式」(Proactive school closure)、どちらがよいのだろうか?

これに関しては専門家の中でも意見が割れている。

医師でありネットワーク研究の第一人者である、ニコラス・クリスタキス氏(イェール大学教授)は、感染者が出る前に休校する「日本方式」の方がよいと主張している。

彼は、過去のインフルエンザの事例から分かっているエビデンスを根拠にしている。詳しくは彼のツイートを読んで頂きたいが、ここではその要点のみを紹介する。

休校するならば、早ければ早いほど(できれば感染者が発生する前に)実施した方が有効

1918年のインフルエンザの流行の時に全米43の都市がどのような公衆衛生的な対策(休校や集会の禁止など)を取ったか評価した研究が、2007年のアメリカ医師会雑誌(JAMA)に掲載された。

この研究の結果、休校のような対応策がより早く実施された都市ほど、またその期間が長かった都市ほど、肺炎およびインフルエンザによる死亡者数が少なかったという結果が得られている。

下記のグラフの横軸が対応策が導入されたタイミング、縦軸は死亡者数を表している。対応が早かった都市の方が死亡者数が少ないことが分かる。

対策(休校を含む)のタイミングと死亡者数の関係
対策(休校を含む)のタイミングと死亡者数の関係

もう少し詳しく見てみよう。セントルイス市(左)とピッツバーグ市(右)のそれぞれの都市で、黒い矢印が初感染者が出た時期、が赤い矢印が休校を含む対策が始まった時期を表している。セントルイス市の方がより早期に休校し、より長期間休校した結果、セントルイス市の方が死亡者のピークが低かったと報告されている。

セントルイス市とピッツバーグ市の比較
セントルイス市とピッツバーグ市の比較

休校するならば、早ければ早いほど(できれば感染者が発生する前に)実施した方が、感染拡大を防ぐという観点からは、有効性が高そうである。

それでは、感染者が出てから休校したら手遅れなのでろうか?そんなことはない。

2006年にネイチャーに掲載された論文によると、感染者が出た後に休校することで、インフルエンザの感染者数が26%減少し、感染のピークを16日間遅らせることができると報告されている。

日本のデータを用いた研究もある。2009年のH1N1が流行した時の大分市のデータを用いた研究の結果によると、学級閉鎖によって感染者数のピークを低く抑えることができるものの、総感染者数はあまり減らないと報告されている。

多くの専門家は、感染者数のピークを低く抑えることで、医療機関のキャパシティー・オーバーになることを予防する必要があると考えている。その観点からは、たとえ総感染者数を減らさなくても、ピークを低く抑えたり、遅らせることにはメリットがあると考えられる。

以上のようなエビデンスを根拠に、クリスタキス氏は、感染者が発生する前に休校する「日本方式」の方が、感染者が発生してから休校する「台湾方式」よりも、感染拡大を防ぐのに有効である、と主張している。

もちろんインフルエンザやH1N1で有効だったからと言って、必ずしも新型コロナウイルスでも有効であるとは限らない。さらに言うと、これは一人の研究者の意見でしかないので、盲信するべきではない。しかし、クリスタキス氏はネットワーク研究の第一人者であり(詳しくはこちらのTEDトークをご覧ください)、彼の意見は少なくとも参考にはなるだろう。

日本の新型コロナウイルス対策はそれなりにうまく行っている?

各国の新型コロナウイルスの感染者数の推移を見ていると、日本はそれなりに抑え込みに成功しているように見える。

下のグラフで、縦軸は感染者数を表しているが、日本は香港、シンガポールに次いで下から3番目にいる(注:日本は検査件数が少ないため過小評価になっている可能性があることが注釈として書かれている)。

各国の新型コロナウイルス感染者数の推移
各国の新型コロナウイルス感染者数の推移

もちろんPCRの検査件数が少ないからだという批判もあるだろうが、日本は新型コロナウイルスによる死亡者数も少なく、これは検査の有無で説明できない(重症患者にはPCR検査が施行されるため)。

感染拡大がそれなりに抑えられていると考えた方が妥当だと思われる。

休校の「副作用」に対して適切に対処することが重要

休校にはデメリットがないわけではない。

上述のように、子どもは貴重な学習の機会が失われ、親の生活にも様々な影響を与える。もちろん休校を早く切り上げて、開校することでこれらのデメリットは解消される。その一方で、早急に開校すれば新型コロナウイルス感染のリスクは上がってしまう可能性がある。

これら休校の「副作用」を解消する方法は開校だけではない。

アメリカの複数の大学では、これから春休みが終わる4月上旬までの期間を使って、急ピッチでオンライン学習の環境整備を進めている。筆者の所属するUCLAでもインターネットで授業が受けられる環境を整備して、学びの機会を損なうことなく、感染のリスクを下げる努力をしている。

今回の危機を乗り越えることができても、将来また同じような感染症が流行する可能性がある。これを機に、日本の学校も紙ベースの手続きをできるだけ減らして、デジタル化・オンライン化しておくべきだろう。オンライン授業するためのインフラ整備も進めておく必要がある。

子どもが運動不足になってしまうことでストレスが溜まってしまうという問題もある。休校しているのは感染を広げないための「予防策」であり、多くの子どもが新型コロナウイルスに感染しているわけではない。人込みは避けるべきだが、家にずっと籠っている必要はない。子どもが公園や校庭など換気の良い場所に行って元気よく遊ぶことは問題ないと思われる。

共働きやひとり親に対する公的なサポートの充実化も急務である。休みを取ることで所得が減ってしまう家庭に対する補償も必要だろう。

新型コロナウイルスは人類が未だ経験したことのない新しいウイルスである。

感染拡大を最小限に抑える努力を続ける一方で、ウイルスそのものだけでなく、感染対策によって起こってしまう諸問題に対しても、十分な対応をスピード感を持って行っていく必要があるだろう。

(注)筆者は感染症対策の専門家ではなく、医療政策が専門である。この記事は、筆者の専門分野の観点から、発表されている信頼に足るエビデンスを考察したものである。新型コロナウイルス対策のエビデンスに関しては、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議や国立感染症研究所が発表する情報を参考にしてほしい。

  • (2020年3月18日追記)現在は、台湾では感染者が出た後に休校にするというルールになっているものの、2月上旬に小中高大の学期開始を一律2週間延期していた。