メタボ健診の健康増進効果はほぼゼロ? 年200億円超もの税金を投入する価値はあるのか

(写真:アフロ)

食欲の秋が終わり、次は忘年会シーズンである。食べ過ぎ、飲み過ぎでお腹まわりが気になっている方も多いのではないだろうか。

 

ところで読者の皆さんはメタボ健診を受けているだろうか?

健診の結果を受けて、生活習慣を見直した人もいるだろう。直前ににわかに厳しい食事制限をしたり運動をしたりすることで、どうにかよい数字を達成したものの、その直後にリバウンドしてしまった経験のある人もいるかもしれない。

 

これだけ多くの人が一喜一憂しているメタボ健診だが、そもそもメタボ健診は本当に私たちの健康増進に役立っているのだろうか?

肥満や高血圧の早期発見にはメリットがあるという考え方に対し、異論がある人は少ないだろう。しかし、多くの人が仕事を休んでまで健診を受けに行き、メタボ健診の提供のためにも多額の保険料や税金が投入されているのだから、きちんとしたメリットがあってしかるべきだろう。

メリットが無いのであれば、メタボ健診を継続するべきかどうか検討するべきだし、一方でメリットが大きいのであればできるだけ多くの人が受けるべきだ。

では、メタボ健診に関するエビデンス(科学的根拠)からは何が分かっているのだろうか。

メタボ「健診」とは何か

そもそもメタボ健診とはどんなものだろうか。

日本語には2つの異なる「ケンシン」がある。メタボ健診などの「健診(健康診断)」は、肥満や高血圧など、幅広い生活習慣病のリスク因子の早期発見を目的としたものである。一方で、「検診」は、がん検診のように特定の病気を早期発見することを目的としたものである。

前者の「健診」の1つであるメタボ健診は、2008年から始まった全国規模の新たな保健事業で、正式名称は「特定健康診査・特定保健指導」と言う。

その最大の特徴は、メタボリックシンドローム(内臓脂肪が多く、糖尿病や高血圧などの生活習慣病になりやすい状態のこと)にターゲットを絞った健診・指導を実施することである。

2017年のデータでは、日本全国で約5400万人がメタボ健診の対象となっており、そのうち53%の約2900万人が実際に受診している。

メタボ健診では、腹囲とBMIを測定し、それに加えて血液検査による血糖やコレステロールの値、血圧、喫煙歴を用いて健康へのリスクを評価する。そして、そのリスクに応じて、

(1)情報提供

(2)動機付け支援(個別面接またはグループ支援を原則1回行い、6か月後に評価を行う)

(3)積極的支援(医師や保健師による3か月以上の継続的な指導を行い6か月後にその成果を評価する)

の3つのうちのいずれかの介入が行われる。結果として、受診者の生活習慣の改善や病院での治療を通じて、健康増進効果を生むことが期待されている。

健康増進効果は微妙

では、実際のところ、メタボ健診による健康増進効果はあるのか、そしてその結果として、医療費抑制効果はあるのか。このことに関して、エビデンスからは何が分かっているのだろうか?

結論から先に言うと、メタボ健診による健康増進効果はゼロ、もしくはあったとしてもかなり小さいものであると報告されている。

下の図1を見ていただきたい。

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メタボ健診に関しては、図のように健診を受けた人の方が、受けなかった人よりも翌年やせていた、もしくは医療費が低かったという報告が散見される。【*1】

しかしこれらのデータには重大な問題がある。

これらの報告では、メタボ健診を受けて、指導をしっかりと受けた人と、指導を受けずにいる人を単純に比べている。しかしながら、これら2つのグループの人たちにはメタボ健診を受けたかどうか以外にも、多くの点で違うので、そもそもこの2つのグループを比較しても良いのかどうかと言う問題がある。

例えば、メタボ健診を受けてその後の指導まで受ける人は、健康意識が高くてまじめな人が多いだろう。一方で、そもそもメタボ健診を受けなかったり、受けてもその後の指導を受けずにほったらかしている人は健康意識が低い人が多いと考えられる。

つまり、この2つのグループの健康状態の比較では、実際にはメタボ健診の効果ではなく、健康意識の違いの影響を見ているに過ぎない可能性がある。

よって、これらの報告は「エビデンス」と呼べるほど信頼性の高いものではなく、メタボ健診の健康への影響を評価するための判断材料としては不適切であると言える。

世界に目を向けると、日本のメタボ健診のような生活習慣病に対する健診が健康に与える影響に関して、もっと質の高い研究が行われている。

健診を受ける人と受けない人を無作為にくじ引き(正確にはくじ引きではないもののコンセプトとしては同じである)で決めて、その2つの集団を追跡、健康への影響を評価するランダム化比較試験(RCT)という「実験」が世界中で行われており、それらの結果から色々なことが分かっている。

RCTでは、介入を受けたかどうかだけが2つの集団間の唯一の違いとなるので、受けた介入の効果を正確に評価することができる。そのためRCTは最も優れた研究方法の1つであるとされている。

健診に関しておそらくもっとも有名な研究は、北欧デンマークのコペンハーゲンの郊外で実施されたRCTである。【*2】

このRCTでは、約6万人の30~60歳の住民を、健診を受けるグループ(約1万2千人)と受けないグループ(約4万8千人)に割り付けた。健診を受けるグループの人には、各種検査に加えて、リスク評価、複数回にわたる生活習慣に関するカウンセリングが提供された。これらの集団は十年間追跡され、健康状態を評価された。

驚くべきことに、この研究の結果、健診(+カウンセリング)を受けたグループと受けなかったグループの間で、心筋梗塞や脳梗塞のような動脈硬化による病気の発生率や死亡率の違いは認められなかった(図2)。

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健診(指導を伴うものと伴わないものを含む)の効果に関して、2019年には複数のRCTを統合して評価した研究(このように複数の研究結果を統合して、全体としてどのような傾向が認められるか評価する研究手法をメタアナリシスと呼ぶ)も行われている。

合計15個のRCT(被験者の総数は25万1891名)を統合した解析の結果、全死亡率、心筋梗塞や脳梗塞による死亡率、虚血性心疾患や脳卒中の発生率のいずれに関しても、健診を受けたグループと受けていないグループの間で差が認められなかった。 【*3】

日本人でも同様の結果

こういった話をすると、これらはメタボ健診に類似した海外の健診の事例にすぎず、指導を受けたら生活習慣を変える真面目な日本人の場合は違う結果になるのではないか、と考える人もいるかもしれない。

この疑問に答えるため、日本のメタボ健診が健康へ与える影響に関する研究の中で、筆者が最も信頼できると考える研究を紹介する。

学習院大学の鈴木亘氏らが2015年に行った研究がある。【*4】

メタボ健診に伴う指導を受けた人と受けなかった人を単純に比較することによって生じてしまう前述のような問題を、本研究では計量経済学の手法を用いて解決した。

その結果、特定保健指導の対象となっても腹囲は変化しない、もしくは減少したとしても年率換算で約0.3%程度に過ぎないという結果が得られた。BMIに関しては、統計的に有意な差が認められたものの、その効果の大きさは年率換算で約0.4~0.5%と小さいものであった。

またHbA1c(過去1~2か月の血糖値の平均値を表す)、中性脂肪、HDLコレステロール、血圧などの検査データの結果に関しては、指導の効果は認められなかった。

多額の税金・保険料が使われている

ごくわずかでもやせたのだったら、メタボ健診は効果があったのではないかという意見もあるかもしれない。しかしそれを評価するためには、メタボ健診にいくらお金がかかっているかを知っておく必要がある。

保険者が負担している総事業費は、2008~2011年度の4年間で約2269億円に達していると推計されている。【*5】

そして国費負担だけでも年間200億円以上の税金が投じられている。

血液検査のデータや血圧の改善が認められないにもかかわらず、BMIをわずか約0.5%減少させるために、これだけ巨額の保険料や税金を使い続けることが果たしてよい政策なのか、再検討する時期にきているのではないだろうか。

医療費抑制には有効か?

最後に、メタボ健診の医療費抑制効果についてはどうだろうか。

実はメタボ健診が医療費抑制に有効かという問題に関して、質の高いエビデンスは存在していない。

メタボ健診は生活習慣病やその予備軍を早期発見し、介入することで、長期的に病気を予防、結果として医療費を抑制することが期待されている。そもそも健康増進効果が認められないのであれば、医療費抑制効果も期待できないと考えるのが自然だろう。

以上のエビデンスから、メタボ健診には健康増進効果はないか、あっても限定的であることが明らかになっている。医療費抑制効果に関しては、エビデンスは存在しないものの、メカニズムから考えるとその可能性は低いと思われる。

メタボ健診は、国民の支払う保険料や税金を通じて、年間500億円以上が投じられている保険事業である。さらに厚労省は2020年度から予防医療への取り組みによって、交付金の額を変える方針を打ち出した。

予防医療の評価の中にはメタボ健診の実施率も入っている。果たしてこれは正しい政策なのだろうか?

これからも実施率を上げるための努力を続けるべきなのか、メタボ健診から撤退して、代わりにより健康増進の効果が明らかな制度(ワクチンやがん検診の充実などの他の医療政策、教育など)に財源を投じるべきなのか、国民的議論をするタイミングに来ているのではないだろうか。

(本記事は、集英社「小説すばる」誌の連載「あなたを病気にする『常識』」を再構成したものです)

*1 厚生労働省(2015)「保険者による健診・保健指導等に関する検討会」第14回資料

*2 Torben Jorgensen et al. Effect of screening and lifestyle counselling on incidence of ischaemic heart disease in general population: Inter99 randomised trial. BMJ 2014;348:g3617.

*3 Krogsboll LT et al. General health checks in adults for reducing morbidity and mortality from disease. Cochrane Database Syst Rev. 2019;1:CD009009.

*4 鈴木亘、岩本康志、 湯田道生他「特定健診・特定保健指導の効果測定: プログラム評価の計量経済学からのアプローチ」『医療経済研究』2015, 27.1: 2-39.

*5厚生労働省(2012)「前回委員より指摘のあった事項について」厚生労働省版逓減型政策仕分け第4回資料