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金メダルへ視界良好。楢﨑智亜がスポーツクライミング男子複合予選を2位で通過。原田海は予選敗退

津金壱郎フリーランスライター&編集者
東京五輪スポーツクライミングのボルダリング第3課題を登る楢崎智亜(写真:松尾/アフロスポーツ)

金メダルから逆算したような盤石の試合運び。決勝に余力を残した楢﨑

 スポーツクライミング男子コンバインド(複合)予選が、8月3日(火)に青海アーバンスポーツセンターの特設ウォールで行われた。

 長いオリンピック史で初めて実施される新競技には20選手が出場。スピード種目、ボルダリング種目、リード種目の順に3種目に挑み、各種目の順位を掛け算して算出する複合ポイントの上位8選手が中1日で行われる決勝進出を決めた。

 2019年の世界選手権でコンバインドとボルダリングの二冠に輝き、東京五輪でも金メダルの最右翼と見られている楢﨑智亜は、〈スピード2位〉×〈ボルダリング2位〉×〈リード14位〉と安定したパフォーマンスを見せて、予選2位で決勝に駒を進めた。

 印象的だったのはクレバーな試合運び。予選後のインタビューに、「(競技開始前は)かなり緊張していて。スピード前はきつかったですね」と語ったが、重圧を感じながらも金メダル獲得の大願成就から逆算して試合を組み立てていた。

 各選手2本登ったうちのベストタイムで予選順位が決まるスピードで、楢﨑は1本目で自己ベストに近い5秒94をマークして2位。この種目のスペシャリストのバッサ・マウェム(フランス)が1本目にマークした5秒45を超えるのは難しいと判断したのだろう。2本目のスタートをキャンセルして、体力を次の種目に向けて温存させた。

 続くボルダリングは2完登して迎えた第4課題を40秒あまりを残してアテンプトをやめたが、この決断も実に楢﨑らしいものだった。

 この課題の攻略のポイントはゴール手前の左手でのハンドジャムというテクニック。このムーブは2019年のW杯ボルダリング・マイリンゲン大会決勝戦の第4課題を彷彿とさせるもので、その大会では優勝したアダム・オンドラ(チェコ)だけがハンドジャムを使って完登。この時はハンドジャムの引き出しを持っていなかった楢﨑は2位に終わった。

 楢﨑の強さを支えるものに、研究熱心さがある。2019年にできなかったジャミングなどのクラシカルな岩場でのテクニックも、2020年ボルダリング・ジャパンカップのときには、「オリンピックの課題に出ないとは限らないので練習しています。次に出てきたらしっかり登れると思います」と自信をのぞかせていた。

 来るべき日に備えて準備したものほど、成果を出したくなるのが心情だろう。しかし、楢﨑は五輪という大舞台にあっても、この予選の目的を見失うことはなかった。

 左手はハンドジャムを効かすことに気づいていた楢﨑が、40秒あれば完登に持ち込める可能性はあった。それでも疲労を最小限に抑えながら決勝進出の視点からブレることはなかった。すべては金メダルのため……。

 リードは高度26+でフォールして、この種目14位に終わったものの、「ルートがなんかよくなかったので反省していかないと」と、2日後の決勝に向けて引き締めていた。

クライミング界最強のアダム・オンドラは予選5位通過。2003年生まれのコリン・ダフィーは台風の目になれるか。

 予選を1位で通過は、〈スピード3位〉×〈ボルダリング1位〉×〈リード11位〉のトータル33ポイントのミカエル・マウェム(フランス)。一緒に出場した兄のバッサ・マウェムはスピードで世界記録に0秒25及ばないものの、五輪記録となる5秒45で〈スピード1位〉×〈ボルダリング18位〉×〈リード20位〉で予選を7位通過。

 兄弟で五輪ファイナリストになったが、バッサはリードで左腕を痛めたため、決勝を欠場する可能性が高い。ミカエルが「兄の分まで」と気合を入れてくるはずだ。

 楢﨑が金メダルの最大のライバルにあげるアダム・オンドラは、〈スピード17位〉×〈ボルダリング3位〉×〈リード4位〉で予選5位。岩場をメインに活動するクライマーらしく豊富なテクニックを発揮し、ボルダリングでは第4課題を完登した。一方で会場が東京湾の近くにあることでの気温や湿度の高さに苦しむ様子もみられた。中1日で暑熱や湿度にどう適応してくるのか。

 また、バッサが決勝を欠場する場合、オンドラの決勝でのスピードは4位以上が確定する。これは決勝でのスピードがトーナメント形式で行われ、1回戦の組み合わせは予選のスピード結果をもとに、決勝進出者の「1位vs8位」、「2位vs7位」といった具合に組まれるからだ。追い風を受けるオンドラが、ボルダリングとリードで本領発揮となれば、楢﨑の金メダルに黄色信号が灯ることになる。

 リードの世界選手権優勝のタイトルを持つヤコブ・シューベルトは、最終種目のリードで完登目前の高度42+まで迫って1位。〈スピード12位〉×〈ボルダリング7位〉×〈リード1位〉の予選4位で決勝に駒を進めた。

 そのシューベルトとリードで同高度を稼いで2位になったのが、コリン・ダフィー(アメリカ)。〈スピード6位〉×〈ボルダリング5位〉×〈リード2位〉の60ポイントで予選を3位通過。今年の誕生日で18歳になるアメリカの新鋭が、勢いに乗って決勝で大暴れする可能性はある。

 このほかアルベルト・ヒネスロペス(スペイン)が〈スピード7位〉×〈ボルダリング14位〉×〈リード3位〉の予選6位。ナサニエル・コールマン(アメリカ)は〈スピード10位〉×〈ボルダリング11位〉×〈リード5位〉で予選8位で決勝に滑り込んだ。もうひとりの日本代表の原田海は予選敗退の18位で東京五輪を終えた。

 男子決勝は8月5日の17時30分に開始される。決勝でのスピードはトーナメント形式に変わり、ボルダリングの課題数は3本となる。果たしてオリンピック初代王者のタイトルを手にするのは誰になるのかーーー。

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予選順位

1位 ミカエル・マウェム(フランス)

   【S3位×B1位×L6位】

2位 楢﨑智亜(日本)

   【S2位×B2位×L7位】

3位 コリン・ダフィー(アメリカ)

   【S4位×B4位×L2位】

4位 ヤコブ・シューベルト(オーストリア) 

   【S7位×B5位×L1位】

5位 アダム・オンドラ(チェコ)

   【S8位×B3位×L4位】

6位 アルベルト・ヒネスロペス(スペイン)

   【S5位×B7位×L3位】

7位 バッサ・マウェム(フランス)

   【S1位×B8位×L8位】

8位 ナサニエル・コールマン(アメリカ)

   【S6位×B6位×L5位】

 【 】内は予選での各種目順位を、決勝進出者内での順位に置き換えたもの

ーーーーー以下予戦敗退ーーーーーーーーーー

9位 アレクサンダー・メゴス(ドイツ)

10位 チョン・ジョンウォン(韓国)

11位 リシャト・ハイブリン(カザフスタン)

12位 ヤン・ホイヤー(ドイツ)

13位 アレクセイ・ルブツォフ(ロシア五輪委員会)

14位 パン・ユーフェイ(中国)

15位 ミヒャエル・ピッコルルアツ(イタリア)

16位 クリストファー・コサー(南アフリカ)

17位 ショーン・マッコール(カナダ)

18位 原田海(日本)

19位 ルドビコ・フォッサリ(イタリア)

20位 トム・オハロラン(オーストラリア)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

フリーランスライター&編集者

出版社で雑誌、MOOKなどの編集者を経て、フリーランスのライター・編集者として活動。最近はスポーツクライミングの記事を雑誌やWeb媒体に寄稿している。氷と岩を嗜み、夏山登山とカレーライスが苦手。

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