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米国で生まれた新興ファウンドリ企業SkyWater、日本でも立ち上げるべき

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
図1 SkyWaterの200mmファブ 出典: 同社ホームページより

 米国で生まれたファウンドリ企業が政府の信頼を得て、ビジネスを拡張し始めている。ミネソタ州ブルーミントンに拠点を置くSkyWater Technologyという会社(図1)がそれである(参考資料1)。それも90nmというそれほど微細でもない製造プロセスから本格的にファウンドリビジネスを始めている。すでにグーグルとパートナーシップを組んで半導体チップ製造を進めている上に(参考資料2)、国防総省からも受注を勝ち取っている。それも最先端の300mウェーハではなく200mmウェーハを使う。

図1 SkyWaterの200mmファブ 出典: 同社ホームページより
図1 SkyWaterの200mmファブ 出典: 同社ホームページより

 残念ながら製造が得意な日本では、製造を請け負うファウンドリはビジネスにならなかった。ファウンドリビジネスを理解できる人間がいなかった上に、半導体製造ラインさえあればできると、たかをくくっていたからだ。日本でこれまでファウンドリビジネスと称していたサービスは実はファウンドリサービスとはほど遠い。設計から製造までをこなすIDM(垂直統合型半導体メーカー)の日本の半導体メーカーは、実は全くの中途半端であることさえ気づかなかった。メモリのように大量生産製品ならIDMは適しているのだが、世の中がシステムLSI(SoCともいう)の少量多品種の製品になったのにもかかわらず、IDMにこだわりファウンドリとしてやってこなかった。たくさんのIDMが自らファウンドリと称している事業部門は、自社の生産ラインが余っていたら他のIDMにも貸してあげる、というスタンスの事業だった。これでは営業していないのと同じこと。想定顧客はやはりIDMであった。ファブレスを顧客として取り込むことができていなかったのである。

 ファブレスを顧客に取り込むためには、ファウンドリがシステム設計から論理設計、論理合成、レイアウト、マスク出力までのLSI設計工程全てを熟知していなくては営業できない。ファブレス半導体の中には論理設計でのRTL出力までプログラムできる所があっても、その後の検証やレイアウトはできない所もある。またレイアウト出力までやっていける所もある。さまざまな段階で、しかも自社のプロセスに合うようにMOSトランジスタレベルでの設計ルールをPDK(プロセス開発キット)という形で提供していなければならない。こういったファウンドリビジネスの基本ができていなかった。

 かつて日立やNEC、富士通、東芝などは全て「ラインが空いていたら使わせてあげる」という態度だった。これでは客は誰も来ない。PDKを用意している日本のファウンドリは、パナソニックが放棄した工場を利用するタワーパートナーズセミコンダクタ―社だけである。親会社のタワーセミコンダクタは、かつてNational Semiconductor社のイスラエル工場を買収しビジネスを始めた。その後、米国のジャズセミコンダクター(旧ロックウェル)を買収、さらに日本のパナソニックの工場も合弁で手に入れた。パナソニックが台湾の半導体メーカーに売却したことで、現在の形になった。

 米国で生まれたファウンドリ会社のSkyWaterも、2017年にミネソタ州ブルーミントンにあったサイプレス社(現在はインフィニオン)の工場を買ってファウンドリ事業を始めた。しかも130nmから始め、今年90nmのPDKを提供することで本格的なファンドリビジネスを展開する。

 日本では今さら初めても微細化でTSMCには勝てないからファンドリをやっても無駄、という声が根強いが、何もTSMCをライバルにしなくても市場はたくさんある。そのTSMCでさえ、最先端の7nmや5nmといったビジネスは売上額の50%近くに達しているが、残りのプロセスルールでも50%の売り上げを誇っている。先ほどのタワーセミコンは最先端でも65nmプロセスであり、市場は十分にあるのだ。アナログやパワー半導体なら微細化は要らない。むしろ7nmまで微細化すると性能がむしろ落ちるデバイスもあるという。ただし、半導体は微細化するほど性能は上がるという性質があるため、徐々に微細化していけばよい。

 市場を見極めることができないのであれば、作り手主導でも設計のわかる営業やPDKを揃えるといった、必要最小限のサービスリソースを提供すれば、客はやって来やすい。これからの5Gやクラウド、データーセンター、AI、IoT(デジタルトランスフォーメーション)といった未来の市場でも欠かせない、例えば電源用IC(DC-DCコンバータやAC-DCコンバータ)などは0.7µm(700nm)などのPMICが必要だ。また5Gなどのマイクロ波回路向けの半導体なども最先端CMOSほどの微細化は要らない。パワー半導体となればなおさら不要だ。

 しかも半導体製造のコスト分析レポートによると、原価に占める人件費の比率はわずか5~8%しかない。つまり半導体製造は人件費の高い国で十分競争できる製造業なのだ。つまり日本に向く。だから米国でも新規参入ができたのである。

 日本では、半導体と言えば製造のことばかりを話題にするほど、今でも製造が得意な国だ。にもかかわらず、製造を捨てた。このことを悔やむ人たちが実に多い。

 前にも述べたが、半導体工場はコロナを受け付けないほどの清浄度が要求され、ビジネスとしてもコロナ対策のソリューションとなる(参考資料3)。新型コロナで失職した人たちを救う手立てにもなり、しかも将来性があるから長く続くビジネスになる。政府はもっと本格的にファウンドリビジネスを日本で始める人たちや企業を支援してはいかがだろうか。

参考資料

1.SkyWater社のホームページ

2.Googleがカスタム半導体の民主化・自由化を推進(2020/11/14)

3.コロナ禍で半導体産業が絶好調な理由(2020/12/13)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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