ITの3大要素が誕生して70余年、三位一体に

 世界のIT業界では、半導体を使って特長のある製品を作ろうという動きに対して、日本はその逆を行くことを示している。東芝がシステムLSIを手放すとか、パナソニックや富士通が半導体事業そのものを売却するといったニュースが起きている。ITの3大要素(コンピュータと通信と半導体)の一つである半導体を使って差別化するIT製品やサービスを作ろうという企業マインドが足りないのである。

 なぜグーグルやアマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトなどが半導体を欲しがるのか、残念ながら日本の電機やITの経営者は理解していないようだ。しかも今は半導体を自社開発する場合でも工場を建てる必要がなく、コストも工場を建てる場合の1/10~1/100で済むことさえ知らないのだ。実は今や、コンピュータ・通信・半導体は三位一体となりつつある。

 ITの3大要素は全て、第2次世界大戦直後の1945~1950年のわずか3~4年間に誕生した。電子式コンピュータを発明したエッカートとモークリはENIACの動作を実証した。米AT&Tベル研究所(現在ノキアベル研究所)にいたクロード・シャノン(図1)はデジタル通信の理論を発表、同じくベル研のショックレイ、バーディーン、ブラッテインは半導体トランジスタを発明した。

図1 クロード・シャノンの胸像 筆者撮影
図1 クロード・シャノンの胸像 筆者撮影

 電子式コンピュータのアイデアは、戦時中にアラン・チューリングがチューリングマシンとして提案した。演算回路とメモリ回路を使って計算手順を構成し、ソフトウエアでさまざまな計算を可能にする、とした。ハードウエアという共通のプラットフォームの上で、ソフトウエアを変えるだけでさまざまな計算を行う、という概念だ。実は今、コンピュータはもちろんだが、これ以外のほとんど全ての電子機器がこの考えで出来ている。半導体SoCチップという共通のハードウエアを作り、ソフトウエアを変えるだけで拡張しようという考え方だ。

 こういったコンピューティングの考え方はDVD機器をはじめとする家電機器にもある。東京大学の藤本隆宏教授のグループは、日本のDVDやパソコンがなぜ世界に勝てなかったか、を研究分析してきた。ゼロから擦り合わせて作ってきた日本のDVD機器は台湾製に負けた。アジアでは、心臓部分の旧三洋電機の光ピックアップと台湾メディアテックのチップを利用した。それ以外は商用の汎用部品ですますことができた。これでコストの安いDVD機器を作れた。特に、メディアテックのチップは、世界各地のDVD仕様を全て1チップにソフトウエアとして焼き込んでいた。つまり、メディアテックの半導体チップが世界各地のさまざまな仕様に対応できるプラットフォームであった。それ以外の機能は電機メーカーごとに少しだけカスタマイズすればよい。低コスト化の典型的な技術だ。

 この流れは、オープン化や標準化と全く同じ。オープン化とは、全ての技術を公開することではなく、機器同士をつなぐインターフェースだけを公開してみんなで決めることだ。みんなで決めて標準規格にする。誰が標準化を決めたかは問題ではない。そうするとインターフェースをはじめから考えて作る必要がなく、無駄な作業が減り低コスト化できる。何でも自前でゼロから作るようでは高コストになるのは当たり前。

 話しは脱線したが、ロード・シャノンはデジタル通信理論を打ち立てた。携帯電話の2G(第2世代)からなじみ深くなったデジタル通信は、今や数百Mbps(メガビット/秒)というレベルにまでやってきた。デジタル通信の符号化の限界を理論的に簡単な数式で示した。5Gという今の通信技術はシャノンの理論限界に近づいている、とノキアは見ている。しかし、複数の搬送波(キャリア)を利用してデータレートを上げるキャリアアグリゲーションのように、限界を突破する技術も登場している。

 半導体でもムーアの法則が限界に近づいてきた。半導体でもその限界を突破するため、チップ表面の2次元にトランジスタを集積するのではなく、3次元に集積することで今後の更なる高集積化に対応しようとしている。

 これらの3要素は、それぞれの限界を突破するためのテクノロジーを模索している。コンピュータでは、フォンノイマン型アーキテクチャからAIや量子コンピューティングなどの超並列演算方式の開発が始まっている。超並列CPUに対応するためには、クロスバー通信方式から電子交換方式に通信技術が変わったように、各プロセッサとのやり取りの正常な高速化に電子交換の通信技術が使われている。しかも大規模な半導体チップ間、チップ内でも通信技術を活かすようになってきつつある。ファブレス半導体のNvidiaが超並列通信配線技術を持つMellanoxを買収したのはまさにこのためだ。

 ITをけん引する3つの要素技術は、実はもはや三位一体として考えなければならないようになっている。コンピュータも通信も半導体もある程度は理解していなければ、今後のITの技術を開発できなくなっているのである。もちろん、この中にソフトウエアやアナログ技術が含まれる。つまりテクノロジーを語る限り、いずれが欠けても発展しにくくなってきたといえそうだ。