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SUMCOや東京エレクトロンがTVコマーシャルを出す理由

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

最近、半導体がテレビのコマーシャルに出ている。シリコン結晶を製造し、薄くスライスしたウェーハを生産している日本のSUMCO社、半導体の薄膜形成装置や洗浄装置などの半導体製造装置を生産する東京エレクトロンなどが半導体を全面にテレビ広告を打っている。10年前には考えられなかった。半導体は斜陽産業と新聞でも言われたからだ。

しかし、半導体で利益が出なくなった最大の原因は、総合電機の経営者が半導体産業を理解せず、ひたすら「お上」のいうことを聞いていて、自分のアタマで考えなかったからだ。筆者が「半導体、この成長産業を手放すな」と題した本を日刊工業新聞社から出版したのは今から10年前の2010年だ。半導体は成長産業だったのにもかかわらず、経営者たちは半導体を斜陽産業と決めつけ、ひたすら半導体事業を子会社にしたり他社と合体させたりするなど、処分した。世界の半導体産業は成長し続けているのにもかかわらず、日本だけが停滞していたのである(図1)。その兆候は2010年でも見られている。だから本のタイトルをそのようにした。

図1 半導体産業、世界は成長を続けながら日本だけが停滞している 出典:WSTSの数字を元に筆者がグラフ化
図1 半導体産業、世界は成長を続けながら日本だけが停滞している 出典:WSTSの数字を元に筆者がグラフ化

この図はWSTS(世界半導体市場統計)という半導体の工業会のような組織が集めた半導体チップの市場を示したものだ。ここでの市場は、半導体製品を顧客なり販売代理店(ディストリビュータ)なりに手渡した地域を指している。つまり半導体製品を使う人、すなわち家電メーカーや総合電機メーカーなどのいる地域となる。半導体を作るメーカーではない。つまり、総合電機や家電メーカーが半導体を使わなくなったともいえる。実際、ソニーやパナソニック、東芝、日立製作所、NEC、富士通、シャープなど日本を代表していた電機メーカーは半導体を消費せずに製品やサービスを提供しているのである。 

これらのメーカーのほとんどが、ここ10年ずっと減収でやってきた。つまり成長していないのである。収支は赤字から黒字へ転換したものの、リストラを繰り返してきて利益が上がっただけにすぎない。売り上げが伸びていない。すなわち成長していない。

世界は今、半導体でAI専用チップを作り、データセンターやエッジでの電力効率を上げようとしている。グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフトなどが半導体チップを自社開発している実態を、2020年2月4日号の週刊「エコノミスト」の特集で紹介した。すなわち世界をリードしているGAFAと呼ばれるこれらのITサービス企業が半導体を持つようになっているのである。

日本の総合電機はなんて感度の鈍いことか。半導体は、競合他社との差別化を図るためのツールである。賢いアルゴリズムやソフトウエアはもちろん差別化できる強力なツールではあるが、ソフトウエアはフレキシビリティがあるという強みはあるが、性能が遅い、という弱点がある。半導体チップはこの弱点を補えるツールなのだ。半導体にアルゴリズムを焼き込めばその性能は飛躍的に向上する。それもFPGAのようにプログラムできて、しかもハードワイヤードで高速の性能を得ることができる半導体デバイスもある。

日本の総合電機に半導体を納めていた企業は、もはや日本ではなく海外に目を向けている。海外売り上げの方が圧倒的に多いのである。半導体テストシステムを生産している日本のアドバンテスト社(旧タケダ理研)は、売り上げの92%以上が海外というグローバル企業である。もちろんSUMCOや東京エレクトロンも海外比率の方が圧倒的に多い。だから今でも成長を続け、テレビコマーシャルで半導体が成長産業であることを訴求し続けている。半導体は斜陽産業だと風潮していた総合電機の経営者と、それを聞いて取材していたマスメディアによって作られた斜陽産業のイメージを払拭するために、である。優秀な学生のリクルーティングのためにテレビコマーシャルで、成長産業である半導体を訴求しているSUMCOや東京エレクトロンは、これからも成長し続ける。顧客が海外だからである。

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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