半導体事業を捨てたパナソニック、どこへ行く?

先週末、パナソニックが半導体事業を全て、台湾の半導体メーカーWindbond Electronicsの子会社であるNuvoton Technology社に売却すると発表した。このニュースは半導体業界に衝撃を与えた。GoogleやFacebook、AmazonなどのITサービス業者が自分の半導体チップを作る時代になったというのに、わざわざ手放すのである。

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写真撮影:津田建二

メモリのような大量生産できる半導体チップは、設計と製造が一体化した工場で作る方が効率は良い。しかし、数量が少ない半導体チップはファブレスとファウンドリに分けて生産する方が向いている。世界の半導体業界では、1980年代終わりころからシリコンバレーを中心に雨後の竹の子のようにファブレスが登場した。そのファブレス半導体メーカーの先駆けがザイリンクス社で、ファウンドリの先駆けが台湾のTSMC社だった。TSMC社は何十・何百社のシリコンウェーハを製造した。それぞれの生産規模が小さくてもたくさん作るからビジネスとして成り立った。

対して日本の半導体はメモリからASICや少量多品種へ事業を転換したために工場の生産能力を満たすことができなくなっていた。工場のキャパシティが埋まらないのであれば、工場を小さくするか、手放すか(ファブレス)、あるいは他の企業の注文も取るか(ファウンドリ)、の選択肢があったはずだ。しかし日本の半導体メーカーは、何も選択せず、改良しようともしなかった。たまに他社から注文を受けて生産してあげたこともあった。これをファウンドリビジネスと称したが、これも間違いだった。注文を待つだけのお店と同じだったからだ。積極的なファウンドリ営業を全くしてこなかった。このままズルズルと90年代を過ぎ2000年代を過ぎた。不作為の10年から20年が経過した。

その間、国家プロジェクトを何度も繰り返したが、全て失敗した。なぜか。工場をどうするという議論ではなく、先端技術の開発、というトンチンカンな研究テーマしか採用してこなかったためだ。霞が関にとっては国家プロジェクトという天下り先ができたために何度失敗しても、この甘い蜜に群がった。その評価は失敗ではなく成功として自己を正当化した。

日本の半導体メーカーが弱体化したのは、世界の半導体業界の動きを見ず、ひたすらガラパゴス化の道を歩んだからだ。2010年代に入ってもやはり垂直統合の方が日本には合っているという声も強かった。今回のパナソニックも何周遅れかわからないほどだが、本質的にファブレスとファウンドリという考えを検討することなく、設計部隊も製造部隊も身売りすることになった。

かつて世界最先端の工場と言われた富山県の魚津工場と砺波工場、新潟の新井工場の3工場がわずか270億円で買いたたかれた。結論を言えば、半導体ビジネスの本質を理解することなく、産業を分析することなく、企業を分析することなく、リストラしたのである。もちろん、パナソニックに限ったことではないが、他の国内半導体メーカーと比べると、パナソニックはさらに何周も遅れている。

パナソニックの前身である松下電器産業の創業者である松下幸之助氏は、日本の家庭に電化製品がまだ入っていなかった当時に、全ての家庭に水道を引くように電化製品を供給するという水道哲学を持っていた。今は全ての家庭に電化製品がある。では、パナソニックはどのような道を選ぶのか。1~2年前は産業用製品や車載製品へのシフトを打ち出してはいた。しかし、相変わらず家電製品に力を入れているように見える。全ての家庭が電化製品で満ち溢れているにもかかわらずだ。

日本市場はもはや縮小していく一方となっている。人口や働き手を増やすことを政府が打ち出していないからだ。人口は減少し、市場も減少する。この状況でも、パナソニックは国内消費者向けの製品から抜け出すことができない。では、どのようにして未来を切り開くのか。このビジョンがさっぱり見えないのである。

かつてのパナソニックは、ソニーが新製品を出した後2年くらい遅れて新製品を出し大量生産によって市場シェアを広げていった。マネシタ電器と言われてもこの路線を貫いた。今年、ソニーは国内トップの半導体メーカーになることは間違いない。2位のキオクシア(旧東芝メモリ)に大きな差をつけているからだ。世界の半導体市場は今年12.8%減という2桁のマイナス成長なのに、ソニーは18.3%増と2桁プラス成長の1兆400億円を見込んでいる。ソニーのモノづくりの中で半導体部門だけが大きな2桁の伸びを示し、さらに2桁の営業利益率を示している。FAAMG(ファーングと発音;Facebook, Amazon, Apple, Microsoft, Google; 米国ではGAFAとは言わない)といわれるITサービス企業だけではなく今や、エリクソンやノキア、華為、HPEといった通信ネットワーク機器メーカーまでも自前の半導体チップで差別化を図る時代になった。

片やパナソニックは何を成長のエンジンとしようとしているのか、全く見えない。もはや大量生産はできない時代であり、家電製品が飽和した時代である。人口増加も期待できない時代である。これまでの10年間、パナソニックはひたすらリストラを続けてきた。リストラに疲れて成長を忘れていないだろうか。パナソニックは何を捨て、何を成長させるのか、選択と集中をもっと明確に実行しなければ本当に成長できなくなってしまう恐れがある。

                                                       (2019/12/05)