日本の基礎研究力の低下を指摘する声が最近増えている。日本経済新聞で2018年5月から6月にかけて、基礎研究力の低下についての報道をよく見かけるようになった。最近発表された「科学技術白書2018」(参考資料1)では、基礎研究力の低下傾向がはっきりと見える。

図1 論文数は減少傾向 出典:科学技術白書2018
図1 論文数は減少傾向 出典:科学技術白書2018

発信される論文数は2004年をピークに減少傾向が続き(図1)、科学技術関係の予算は2000年からの17年間全く増えずフラットだ(図2)。さらに大学院博士課程への進学者は、2004年をピークに減少しており、それも修士課程修了後の進学者が大きく減少している(図3)。

図2 科学技術予算は17年間も横ばい 出典:科学技術白書2018
図2 科学技術予算は17年間も横ばい 出典:科学技術白書2018
図3 大学院進学者も減少傾向 出典:科学技術白書2018
図3 大学院進学者も減少傾向 出典:科学技術白書2018

さらに世界の大学や研究所のランキングでも日本の大学の存在感が薄い。権威のある科学雑誌の一つNatureが算出した世界のトップ500研究所・大学のランキング「Nature Index 2018」(参考資料2)でも、8位に東京大学、20位に京都大学、51位大阪大学、71位理化学研究所、84位東北大学、92位東京工業大学が上位100位に入っているだけにすぎない。

海外への研究者の派遣数と、その逆の海外からの研究者の受け入れ数は、2000年まではともに増加傾向だったが、2000年をピークに海外への研究者の派遣数は減少する一方になった。海外からの研究者の受け入れ数はむしろ増加傾向が続いてきたため、その差は2000年以降、開く一方になっている(図4)。

図4 海外への研究者は減り、海外からの研究者は増える 出典:科学技術白書2018
図4 海外への研究者は減り、海外からの研究者は増える 出典:科学技術白書2018

これらの事実を整理すると、基礎研究力の低下、グローバル化の遅れがはっきり見えるだけではなく、その背景に日本経済の停滞がある。2000年ごろに「失われた10年」と言われたが、2010年には「失われた20年」、まもなく「失われた30年」になる。産業界と大学が共に議論しあう場であるVLSI symposiumでも日本からの投稿論文数が2011年の47件が2018年には26件へと減少したが、これでも2017年の17件よりはましな状況だ。この半導体の国際会議では企業からの参加や論文投稿が大きく減りつつある。

こういった基礎研究の低下を分析する研究者の一人、東京大学政策ビジョン研究センター・国際貿易投資研究所客員研究員の新井聖子氏によると、基礎研究低下の原因がいくつかある中で、日本の東アジア化が大きいという(参考資料3)。日本の大学院へ進学する留学生の国籍別では、中国が圧倒的に多い。2001年に留学生全体の55.8%にあたる4万4014人が中国からの学生で、その数は増え続け、2016年には7万5262人にもなった(表1)。その次が韓国という状態が2011年も続いていた。2016年には韓国の学生は1万3571人と減り3位に後退し、代わって2位に入ったのがベトナムだ。ベトナムからの留学生は2011年には4033人だったが、2016年には2万8579人と急増した。中韓は合計でやはり過半数を超えている。

表1 日本の高等教育機関に留学する上位10ヵ国の留学生の数と構成比 出典:新井聖子氏作成
表1 日本の高等教育機関に留学する上位10ヵ国の留学生の数と構成比 出典:新井聖子氏作成

新井氏によると、日本で中韓からのポスドク(博士号取得後の研究者、身分が不安定な人が多い)が急増し始めたのは1996年に文部科学省が策定した「ポストドクター等1万人支援計画」以降である。1万人増員の中には外国人も含まれており、外国人特別研究員の中でも欧州と北米の研究者は減少していく一方だったが、中国からの研究員は急増している。2001年には外国人研究者全体の70%にも増えたが、その後のパーセンテージは減少気味だが、2014年になっても過半数は変わらない。

中韓からの留学生やポスドクは将来の就職を考えて、日本企業や大学が得意とする分野(材料科学や工学、化学に人気があるらしい)を学びに来ているが、「最終的に日本に残らず、日系企業で働きたがらない」という。留学生が日本から去った後、その分、日本からの論文数が減り、本国や第3国からの論文数が増えることになる。この結果、日本の論文のシェアが落ちるという。もちろん、新井氏は人種差別主義者ではないし、中韓の留学生が悪いと言っているわけではない。

むしろ、日本の留学生に対する試験に問題があるという。この試験は英語ではなく日本語で行われるためだ。漢字を使う日本語を学習しやすい国は中国であり韓国や台湾である。日本語で試験する限り、中韓からの留学生が増えることは当然である。むしろ日本自身の国際化のためにも英語で日本人も留学生も試験を行うことがこれからの日本にとって有益になるのではないだろうか。新井氏はこのように語り、筆者も全く同感である。

英語での授業を受けている限り、英語での論文は書きやすいためその数は増えていく。研究論文は英語が国際語になっており、英語に慣れていればグローバルで通用する研究者になる早道でもあるからだ。かつて取材に訪れたインドネシアやフィリピンは大学に入学すると教科書は全て英語で書かれており、英語で授業する。だから高学歴である人ほど英語が通じる国となっている。日本の大学での授業を全て英語でできるような仕組みを作れば、英語での情報発信は容易になり、日本の大学の地位はもっと上がるはずだ。大学ランキングでの地位の低さは、英語による論文発信とその後のやり取りや引用が乏しいことが大きいからだ。ノーベル賞でも英語で学界にアピールし続けていなければ受賞できないとささやかれている。

加えて、米国でもスタンフォードやMIT(マサチューセッツ工科大学)などは情報を発信するメディアを発行している。日本の大学でも英語メディアを外国へ発信できれば、外国で日本の大学に対する認識が高まり、研究レベルのコラボレーションも進むだろう。そうなると、外国とのエコシステムが容易になり日本の産業力の向上にも役立つだろう。

参考資料

1. 平成30年科学技術白書

http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2018/06/06/1405921_002.pdf

2. 2018 tables: Institutions

https://www.natureindex.com/annual-tables/2018/institution/all/all

3. 新井聖子著「日本の基礎研究の東アジア化」、世界経済評論IMPACT+、No.9

http://www.world-economic-review.jp/impact/plus/impact_plus_009.pdf