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半導体はメモリバブルだった

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

 2016年10月25日号の週刊エコノミストは「半導体バブルが来る!」と題した特集を組んだ。現実にその予測通りになり、半導体産業は絶好調が続いている。ある半導体製造装置企業は、特別ボーナスを支給し、社員への支給額が平均200万円という破格のボーナスだった。しかし、単なる景気が良いという訳ではない。今の半導体景気には、危ない側面もある。

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図1 多数の半導体チップを作り込んだ300mmシリコンウェーハ チップ形成後に薄く削るためポテトチップのように湾曲してしまう 写真はインフィニオンのミュンヘン郊外のキャンパスで撮影

 半導体景気を支えるものが実はメモリであるということだ。それも2017年中、メモリの生産量はほとんど増えず、単価だけが約2倍にも上がった。単価が上がっただけで売り上げが大きく上がったという訳だ。だから、メモリバブルと言ってよい。

 WSTS(世界半導体市場統計)によると、2017年におけるメモリの成長率はなんと60%、メモリ以外の成長率は9%であった。メモリの中でもNANDフラッシュは45%、DRAMは75%前後の成長率となった。それ以外の半導体製品の成長率でさえ、メモリに引っ張られた可能性が高い。というのは半導体ではない受動部品のコンデンサやインダクタなども品薄で今でも顧客が持ってきて、と頼んでもすぐには納入できず待たされる状態になっているからだ。

メモリが高すぎスマホも値上げ

 この結果、エレクトロニクス製品はどうなったか。メモリなどの部品が品薄で高価になり、パソコンやスマートフォンも価格が上がった。iPhone Xなどは1100ドル(12万円)もした。他のスマホも値上がりした。この結果、売れなかった。2017年初の予想では、台数ベースでパソコンは下げ止まり、スマホは5%前後で成長するはずだった。ところが市場調査会社によって見積もりは違うが、パソコンの販売台数は3%程度減少し、スマホも0~3%の増加にとどまった。しかし、金額ベースではパソコンやスマホの製品単価が上がったため決してマイナスではない。

 つまり、メモリ製品の単価が上がったものの、スマホやパソコンのメモリ容量も上がるため、台数ベースで若干下がるか、横ばいでも金額ベースでは共に成長した。

 メモリの単価がここまで上がったのは、特にDRAMは値上がり前に(2015年から2016年前半まで)大量の在庫を抱え、DRAMメーカーが増産しなかったためだ。DRAM不足と同時にすぐに増産していればここまで値が上がることはなかったが、DRAMビジネスは過剰な供給と需要の山と谷の変化が激しく、すぐには対応できなかった。需要が強くてもすぐに供給過剰になることが多く、サムスンやSKハイニクスなどのDRAMメーカーは増産を見合わせてきた。在庫が完全に掃けたのは2016年中ごろだった。サムスンは増産投資を発表したものの、DRAMよりもNANDフラッシュに投資した。ようやく最近になってNANDフラッシュの増産を予定していた工場をDRAM生産に切り替えるようになった。

 NANDフラッシュはムーアの法則の限界に達し、2次元から3次元へと製造プロセスを切り替え始めていた。ところが、3次元の3D-NANDプロセスはそう簡単には立ち上がらない。なにせ64個のメモリセル(64層)をシリコンの中に地下深くに埋め込むのである。歩留まりが悪く、生産数量が確保できなかった。NANDフラッシュは、在庫はDRAMほど多くなく、需要が2015年でさえ強かったために生産増強への手を早くから打っていた。しかし、歩留まりが悪く良品生産量を確保できなかった。このため新型製造装置が売れに売れまくり、東京エレクトロンやアプライドマテリアルズ、スクリーンなどの製造装置メーカーは受注が今でもまだ多い。

今年は健全な値下がりへ

 本来メモリ製品は、毎年値下がりしてくるのが通常のビジネス。新製品投入時は歩留まりが悪く製品単価は高いが、月日が経つとともに習熟するようになり歩留まりが上がり生産量が増えてきたために単価は値下がりしてきた。にもかかわらず、月日と共に値上がりしてきたのである。これではスマホやパソコンのメーカーは製品を値上げせざるを得なくなる。すると消費者は買わない、しばらく待つことになる。この1月までDRAMは上がりっぱなしで、NANDフラッシュの生産量が上がり、ようやく単価は値下がりしてきた。健全なメモリ単価の値下がりと、生産台数の増加ができるようになりつつある。

 メモリ以外では、ファウンドリはムーアの法則をさらに進めて、10nmから7nmへのプロセス開発を進め、そのための装置や材料を供給していた。オランダのリソグラフィ企業ASMLだけが開発してきて、ニコンやキヤノンはとうの昔に開発をあきらめたEUVリソグラフィ(X線の短い波長を利用する)の出番がやってきた。EUVは1台数10~100億円もする高価な装置。EUV用のフォトレジスト材料やマスク検査装置なども売れた。

 総じていえば、2017年はメモリバブルのおかげで、半導体製造装置メーカーは大いに潤った。しかし、これからは健全な成長時期に入るため、バブル的な売り上げは減少し、健全な売り上げを期待できるようになる。新聞では半導体変調、という見出しがついているが、むしろバブルはじけて健全な成長へ、というべきである。メモリは値下がりすることでコンピュータやスマホが売れてきたのだから。ただし、作りすぎると在庫が増えすぎる恐れがあり、半導体不況になる恐れもある。健全な成長への生産を調整することは、需要と供給の関係をコントロールすることである。しかし、スマホやコンピュータメーカーは品薄を警戒して2重、3重に発注するため、適正在庫をつかむことが難しく、メモリビジネスは山谷が大きい。

                                                    (2018/02/27)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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