デジタル化、デジタルトランスフォーメーションは新しいか?

最近のIT系、モノづくり系、企業系の世界では、デジタルトランスフォーメーション(転換)とか、デジタル化といった言葉が繰り返し登場している。先週、リアルタイム(RT)OSを手掛けているウインドリバーのバイスプレジデント兼OS事業部マーケティング担当ジェネラルマネジャーのミシェル・ジェナール氏が記者会見で述べておられたが、当社はデジタル化とは言わず、「ソフトウエア定義の世界(Software-defined world)」と呼んでいると語った。この言葉もよく耳にする。

図 ウインドリバーVP兼OS事業部マーケティング担当GMのミシェル・ジェナール氏
図 ウインドリバーVP兼OS事業部マーケティング担当GMのミシェル・ジェナール氏

確かに最近は、Software-Defined xxxxという言葉も大流行だ。この言葉は、もともとSoftware-defined radio(ソフトウエア無線)という技術から生まれた。無線通信回路では、デジタルデータを電波に乗せて遠くまで送るのに、デジタル変調をかけるが、変調方式が地域や国、企業などによって異なる場合が多い。携帯電話の変調方式もいろいろある上に、2G(第2世代)、3G、4G(LTE)、5Gといった世代ごとにも変調方式が違ってきた。

地域や国ごと、あるいは世代ごとなどに変調方式を変えるため、一から作り直していてはそれぞれに対応できなくなる。そこで、変調方式のアルゴリズムをソフトウエアで表し、NORフラッシュなどのメモリにそれをため込んでいて、国や地域ごとに取り換えて使おう、という発想が出てくる。これが「ソフトウエア無線」の考え方だ。ハードウエアを替えずにソフトウエアの切り替えだけで、いろいろな変調方式に対応できる。

この考えは、通信ネットワークにも使われるようになった。Software-Defined Networkは、通信インフラに設置されているスイッチなどの通信機器に変革をもたらす。通信ネットワークシステムでは、大きく分けて制御回路部分と、データ処理部分がある。これらを切り離して、制御部分を共通に残したまま、データ処理部分をソフトウエアアルゴリズムで表す。これをメモリに格納し、通信ネットワークが異なる場合にはメモリからソフトウエアを引き出し交替させるだけで済む。通信機器ハードウエアを作り直す必要がなくなる。

こういったSoftware-Defined xxxxの最後の言葉は、Data Center(データセンター)や、Instruments(計測器)、Storage(ストレージ)、Infrastructure(インフラストラクチャ)などに当てはめようとしている。ハードウエアを作りこまず、ソフトウエアでフレキシブルに対応しようという考えがSoftware-Defined xxxxにある。

デジタル化やデジタル転換という言葉は、アナログと対置して使われるが、その意味は、CPUを使う制御、という意味に使われている。これはCPUとメモリ、周辺回路などからなるコンピュータシステムをコンピュータ以外のシステムにも使うようになってきたからだ。それをデジタル化という言葉で表現する。当初は、こういったコンピュータシステムにはたくさんのアナログICチップが使われているため、デジタル化という言葉はとても違和感を覚えた。しかし、従来は人手や専用回路で作られていたエレクトロニクスシステムを、ソフトウエアでプログラムするコンピュータシステムで表現しているのだと考えると、すっきりとした。

コンピュータという考え方は、固定したハードウエアにソフトウエアをインストールすると、望みのマシンに変貌することが最大の特長だ。ソフトウエアを変えれば別の機能のマシンに変わる。

規格や仕様が目まぐるしく変わる今日のシステムでは、ハードウエアだけで構成しようとすると、変化に対応できない。だからこそ、コンピュータ的な考え方が定着して、少しくらいシステムが変わっても、ソフトウエアを変えればすぐに対応できるようになった。これがデジタル化であり、デジタルトランスフォーメーションだ。テクノロジーの観点からみれば決して目新しいものではない。しかし、企業や社会に変革をもたらす概念だとすれば、極めて新しいコンセプトだと言える。

                                                      (2017/09/01)