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テクノロジーコンバージェンスの時代

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

コンバージェンスという言葉を10年ぶりくらいに聞いた。当時は、デジタル技術によって通信や放送、出版などいろいろなメディアが一つに収れんすることをデジタルコンバージェンスと呼んでいたように思う。NIWeek 2017で(図1)は、基調講演で壇上に立った経営陣の中でTechnology Convergenceという言葉を使った人が数人いた。ここでのコンバージェンスは、最近のITのメガトレンドである、クラウド、IoT、AI、5G、自動運転技術などが一つの方向に収れんしていくことを示している。

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図1 NIWeek 2017初日の基調講演前と基調講演

IoTはもはや単独ではビジネスにならないことははっきりした。必ずデータ解析やそのツール、アプリケーションソフトベンダー、センサ企業、組み込みシステム企業、クラウドプラットフォーム企業などさまざまな企業と組まなければやっていけないからだ。クラウドにIoTセンサからのデータを上げ、AIなどを使ってデータを解析し、5Gセルラー通信で1ms以下のレイテンシでリアルタイム動作をする。これが可能になると、工場の工業機器や医療機器だけではなく、クルマの自動運転にも使える技術になる。全てつながってくる。こう考えるとテクノロジーコンバージェンスと言ってもかまわない。

最近のメガトレンドは、それぞれが単独で別々の方向を向いている訳ではない。IoTもAIもクラウドも密接に関係し、さらには5G時代にはクルマとも絡む。つまり、それぞれが絡み合って発展していくだろう。

ただし、実際はそう簡単ではない。AIのように学習と推論を行うようなコンピュータは、データ解析すると一口で言っても、どのようなデータをどのようなアルゴリズムを使い、いかに高速で読み込ませられるか、がカギとなる。IoT端末ではモノの振動を加速度センサで検出するとしても、センサのどのような電気的波形を振動と判定し、それが定常的なのか不連続なのか、不連続だとしても異常を見極めるしきい値はいくつなのか、定量的な数値を求めなくてはならない。それもX、Y、Z軸のそれぞれ直線的な加速度だけではない。時には回転による加速度(ジャイロ)も必要になる。さらにその時の温度や湿度、磁気、圧力、それらの時間変化など、IoT側はデータをひたすらとって、どのようなデータが有用なデータなのか、顧客の望むデータとの相関を求めなければならない。

つまりデータそのものを直接取るべきセンサ端末、すなわちIoT端末と必要不可欠なデータの種類と数を求める必要がある。さらにデータ処理する側は、欲しい種類のデータが判明しても、それらは顧客が求める要求スペックに必要な演算の程度が重いのか軽いのか、データの種類は適切なのか、などを加味して、エッジコンピュータで処理すべきか、クラウドで処理すべきかを判断しなければならない。IoTシステムとAIを導入したからといって、当分は地道なデータをとりまくる覚悟が必要になる。

また、ある程度使えるコツが見えてきたとしても、応答が1ミリ秒以下のリアルタイムで処理できるのかどうかも、主な基準の一つとなる。5Gシステムは、1ms以下のレイテンシを要求しているからだ。

クルマの自動運転やADAS(先進ドライバー支援システム)に応用する場合でも、まずはクルマの近く、前方も後方も周囲も、クルマか人か、自転車か、それぞれがどの程度の速度で近づいているのかを演算し、判定しなければならない。それによって次の動作、すなわちハンドルを右か左に切るのか、ブレーキをかけるのか、判断しなければならない。これらの判断がクラウドを使っても1ミリ秒以下でできるなら、クルマ用のコンピュータ、すなわちECUの設計が大きく変わる。演算豊富な命令ではなく制御命令の豊富なマイコンで十分だということになるかもしれない。

こういったIoTや組み込みシステムでは、さまざまなテクノロジーが適用される。一つの画期的なテクノロジーを開発することは重要だが、さまざまなテクノロジーを組み合わせて、独自の製品なりシステムを生み出すことも重要である。かつて、iPhoneが登場した時、日本のエンジニアの多くが、新しい技術は何もない携帯電話だ、と酷評したことがある。確かに一つの画期的なテクノロジーはないが、いろいろなセンサや複数指タッチスクリーンなどのテクノロジーを組み合わせることで、画期的なモバイルコンピュータの発明と位置付けられるようになった。ユーザーエクスペリエンスという言葉も生まれた。

時代がテクノロジーコンバージェンスに向かっているのなら、これまでのビジネスや企業活動、あるいは教育を含めた大学や、社会構造を最初から見直し、時代に合うように変えていくべきではないだろうか。

(2017/05/30)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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