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成長路線に乗ったルネサス、DevConにて

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

「一度、地獄を見たものは強い」。ルネサスエレクトロニクスの開発者会議であるDevCon(図1)を見た感想だ。半導体チップは言うまでもなくITがけん引する。特にITの今の4大トレンドである、AI(人工知能)、IoT(インターネットにつながる全てのハード)、クラウド、5G(第5世代のセルラー通信)を意識した発表が中心であり、世界の半導体産業と同じベクトルを向いている。狙う市場はもちろん海外が主戦場となる。クルマの新規獲得した2016年度(最初の9ヵ月のみ)の受注金額の70%が海外だという。

 図1 ルネサスが先日開催したDevCon 基調講演開演直前の会場は満員
図1 ルネサスが先日開催したDevCon 基調講演開演直前の会場は満員

これまでクルマのエレクトロニクスでは自動運転やADAS(先端ドライバ支援システム)では欠かせない自動認識、それに使うAI(人工知能)技術は常識になった。これをルネサスは一般工業用途にも持ってくる。それを組み込みAIとしてe-AIと呼んだ。e-AIはあらゆる組み込みシステム、つまりIoTシステムで工業用途での自動機や産業ロボットを学習させ、賢く自律的に判断させるのにAIは欠かせない。

工業用IoTでは、全てのデータをクラウドへ上げる訳ではない。さほど大きくないデータ量をリアルタイムで処理しなければならない場合には、むしろセンサを備えたIoT端末(エッジ)が置かれたローカルで処理することが多い。もちろん、5G時代が到来すれば、クラウドでさえ、低いレイテンシ(時間遅れ)を実現できるが、今使うにはやはりローカルな処理が求められる。この処理こそ、e-AIが能力を発揮する。

IoTシステムの中でデータ解析をするツールとしてAIは今や常識になってきた。工業用IoTデバイスをプラント内の配管や装置の近くに設置し、IoTからのデータを集めそれをAIで解析することで機械の予防保全に利用したり、機械のスループットを上げたりする。生産性を上げればIndustry 4.0となり、機械のデータをARなどデジタルで見られればデジタルツインになる。もはやIoTとAIはセットになってきたともいえそうだ。

ルネサスが意図するe-AIでは、学習はクラウドで行い、推論をエッジで行う。ルネサスはインテルとは違い、演算リッチのハイエンドプロセッサを持っていない。ハイエンドマイコンやSoCは得意であり、これらは現場(エッジ)で使うのに向いている。だからこそ、ルネサスの得意な半導体チップを推論用に使い、高度の演算が必要な学習はクラウドで対応する。クラウド上で使ったCaffeやTensorflowソフトウエア言語で書いた学習データをマイコンに焼き付けられるように変換するツールとその検証ツールを用意している。さらに、別のところから学習させたデータも取り込めるようにインポートツールも用意した。

日本の半導体企業の中でAIチップを開発しているところはまだ少なく、インテルやエヌビディア、IBMなどAIを積極的に進めている半導体企業とは違っていた。今回、ルネサスは世界の勝ち組と同様のメガトレンドをうまくとらえており、AIでの成長を見込んでいる。しかもルネサスならではのAIへのアプローチを採った。

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図2 クルマ分野の新規商談金額の推移 すぐに売り上げに反映されないが4~5年後には間違いなく売り上げは増加しそうだ 出典:ルネサスエレクトロニクス

また、クルマ用のマイコンR-Car RH850の商談は順調に伸びており、2016年度はまだ9カ月目の段階で2015年度の新規商談の金額を超え、6500億円を突破した(図2)。今や絶好調と言えるレベルにまで上がってきた。クルマ用半導体は開発完了してから実際のクルマに搭載されるまで5年かかるため売り上げに反映されるにはまだ時間はかかるが、ルネサスの未来は明るくなった。

かつてルネサスは、リーマンショック後の売上の落ち込み・大幅赤字と、自己資本比率が10%を切る寸前まで落ち込んだ。まさに地獄だった。経営陣の刷新を図り、以来、再建の道を歩んできた。四半期ベースでは10数期連続営業黒字が続いている。

かつて地獄を見たルネサスは、着々と回復するどころか、成長路線に飛び乗った。社員の顔色も良い。DevConで話を聞いたルネサスの社員たちは、自分の仕事を積極的に説明してくれた。とても全てを紹介できないが、SiCよりもコストが1ケタ低いシリコンのIGBTパワートランジスタを使いながら、電力効率を高め弁当箱大のインバータを実現したり、わずか5mm角程度のICパッケージに入ったパワーMOSトランジスタで30Aの3相モータを駆動したりする展示もあった。喜々として説明してくれる態度からはルネサスの未来が見えた。

日立製作所、NEC、三菱電機という親会社からほぼ完全に独立し、自らの責任で自らの道を歩むルネサスに変わった。産業革新機構というファンドの援助があり、外部から経営の専門家が会社を率いたやり方こそ、グローバル企業のやり方でもある。半導体に限らず、日本のIT/電機企業手本になる日も近い。さて、社員は優秀だが「お坊ちゃん企業」東芝はどうするつもりなのか。

(2017/04/14)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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