東芝メモリを巡る買収額と技術流出

東芝のメモリ事業会社の分社化を巡って、新聞報道をはじめ大きな話題となっている。4月8日の日本経済新聞でも、メモリ事業に「東芝半導体に官民「日本連合」富士通など参加検討」をいう見出しの記事が載った。日経の記事によると、東芝や経済界が呼びかける形で1社あたり100億円前後を負担する方向で調整を始めたという。東芝経営陣はいまだに、買ってくれる株主を自分で見つけられないのか。

また、そのメモリ事業の時価総額を巡って安いの、高いのという声も聞こえてくる。東芝は部門別事業の年間売り上げを公開しているため、メモリ半導体事業の売り上げは入手できる。例えば2016年3月期の決算報告をまとめたアニュアルレポートによると、2015年度(2016年3月期)のフラッシュメモリの売上額は8456億円、営業利益1100億円となっている。企業の時価総額は、株式相場額に総株式数をかけたもので表されるが、メモリ事業を分社化していなかったために株式会社東芝メモリの時価総額は不明だ。

強いて比較するなら、ウェスタンデジタルがサンディスクを買収した金額が1兆9000億円であったことから、2兆円以上という推定額が生まれたようだ。サンディスクとの比較はもっともらしい。というのはサンディスクと東芝はNANDフラッシュメモリの生産ラインを折半しており、ウェスタンデジタルも東芝の四日市工場で生産しているからだ。そして、2016年のNANDフラッシュの売上額は東芝が76億9280万ドル、ウェスタンデジタルのそれは64億6870万ドル、と東芝の方が多いため、買収金額は2兆円以上と想定したことは合理的である。

ただし、最近の売上額の推移をみていると、必ずしも合理的とは言えない部分もある。二つ理由がある。一つは東芝の生産がウェスタンデジタルに追いつかれ、サムスンからはますます離されているからだ(図1)。もう一つの理由は、買い手市場になっていることだ。つまり、東芝はメモリ事業を売らなくては6200億円の債務超過、すなわち倒産状態になっているから、どうしても売らなきゃ倒産してしまうのである。売り手が強い売り手市場なら、もっと高く2兆円強でも合理的だ。しかし、今は足元を見られる状態であり、買い手市場であるからこそ、高くても2兆円が合理的な金額といえる。これ以上は望めない。

画像

図1 最近のNANDフラッシュの上位3社の売上額 出典:TrendForceの発表データを元に津田建二が作成

新聞で報道されている「技術の流出」に関してはどうか。大量生産のコモディティ製品であるNANDフラッシュでは、もちろんプロセスノウハウはあるが、投資金額があればなんとかなるビジネスだ。また、技術を囲い込むだけでは、いつかは掌の水のようにこぼれてしまうものであり、新たな技術は生まれてこない。新たな技術を生むためには、たくさんの知恵、コラボレーションが欠かせない。囲い込んで失敗した例は、枚挙にいとまがないほどたくさんある。

はっきり見える最大の脅威あるいは注意企業は、中国と韓国のSKハイニックスだ。中国は今、海外半導体企業の買収にほぼ失敗したため(買収に成功した半導体企業はアナロジックスのみ、半導体製造装置企業はマテソンのみ)、戦略を変え、自国で作ろうとしており、それもメモリに絞っている。DRAM、次にNANDフラッシュは間違いなく中国が作る。それもダンピングするような安い価格で売るという噂が広がっている。もともと半導体製造事業は、製造原価に対する人件費比率が5~8%しかないため、中国で作ってもさほど安くできない。安く作るためには低コスト技術を新たに開発する必要があり、これが容易ではない。しかし、中国は政府系ファンドが4年間で5兆円相当の金額を用意しており、製品に対しても市場シェアを獲得するまで援助するだろうと言われている。余談だが、半導体製造こそ、人件費の高い国で作るべき産業である。

もう一つの脅威はSKハイニックスだ。彼らは、エルピーダが倒産した時も、買うと手を挙げ、エルピーダの東広島工場をさんざん見て研究し尽くしたあと、買わないと言った「前科」がある。デューデリジェンスでは当然工場を見るわけだが、見た後は「残念ながら買う価値がないと判断した」とか何とでも言い訳ができるため、非常に危険である。東芝に対しても同じことをする疑いは、ぬぐい切れない。もともとハイニックスの親会社であったLGグループは、反日企業であり、親日企業のサムスンとは犬猿の仲、激しいライバル意識をむき出しにする企業だ。日本企業との親和性は薄い。

一般的な技術流出はほとんど無意味になっている。ハイテク産業が世界で最も活発な地域であるシリコンバレーでは、技術の流出などどうでもよく問題にしていない。もちろん、シリコンバレーでは技術が流出するが、新しいイノベーションも生まれる街だ。そのような古い技術を守るよりも、新しいイノベーションをどんどん開発していく。技術の流出を心配するよりも新しいイノベーションが続出するから発展し続けるのである。日本が技術の流出を云々するようでは、もはや技術がなくなって守ることしかできないのか、というネガティブな印象を持ってしまう。それでは困るではないか。どんどん新しい技術が生まれるような環境や仕組みを早急に作るべきである。

(2017/04/09)