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プラットフォーム戦略で先行するNI

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長
基調講演前の会場

米国にナショナルインスツルメンツ(National Instruments)という面白い会社がある。1980年代中ごろから伸びてきた、この企業の戦略がまさに今の時代にぴったりのプラットフォーム成長戦略となっているので、紹介しよう。典型的なB2Bの企業なので、消費者にはほとんど知られていないが、IT/エレクトロニクス/モノづくり業界の人間なら知っている人は多いはず。会社分類では、計測器業界に属する。計測器は電子機器や機械がどう動いているかを調べる装置である。もちろん、昔からこの業界はある。むしろ、古い業界かもしれない。ところが、NIは、2009年のリーマンショックと2001年のITバブルを除くと全て右肩上がりのプラス成長でやってきた(図1)。

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図1 NIの売り上げはほぼ右肩上がり 出典:National Instruments

こう書くと、社員を鞭打って働かせてきた会社を想像される方もいるかもしれない。ところが、この日本法人である日本NIは「働きがいのある企業」の2015年版ランキングの従業員100~999人の範疇で、28位に入っている。つまり、働きやすく、かつ伸び続けている会社といえる。

その企業のフィロソフィーはしっかりしており、昔からの古い業界にいながら、新しいコンセプトを企業戦略に掲げている。これが今の時代にぴったり合っている。一言で言えば、プラットフォーム製品を追求する。かつての大量生産型モノづくりから少量多品種型へ時代は大きく変わった。少量多品種だからと言って、顧客一人一人に対応していれば利益は出ず、会社はつぶれてしまう。だから少量多品種時代には、「知恵」が必要になってくる。

この会社の知恵は、プラットフォーム製品を基本とすることである。1990年代だったか、最初にこの企業の製品を見た時、強い衝撃を受けた。それは、エンジニアなら誰でも使うオシロスコープやスペクトルアナライザをパソコンで実現したものだった。オシロやスペアナの画面はPCに表示し、センシングし測定する部分をハードウエアモジュールで作るという発想だった。モジュールを差し換えれば、オシロにもスペアナにも自由自在に変更できる。モジュールを格納する箱をシャーシと呼び、このシャーシに差し込めるモジュールを決まった形に統一した。当初はバーチャルインスツルメンツと呼んでいたが、実際に測定器は存在するのでバーチャルという呼び名はふさわしくなく、そのうち消えた。

その後、製品というモノを設計するためのソフトウエアでさえもLabVIEW(ラボビューと発音)と名付けたソフトウエアプラットフォームを用意した。これも時代に合わせてグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)を持ち、モノの形が見えるようになっているため設計やテストの設定が親しみやすくできている。厄介なハードウエア記述言語は使わない。

現在は、LabVIEWと数種類の基本シャーシ、CompactRIO、PXI、CompactDAQなどの箱があるという非常にシンプルなプラットフォームである。これだけでほとんど全ての測定器をカバーする。しかも設計ツールのLabVIEWは測定だけではなく、設計も可能なため、モノづくり産業ではほぼ標準品にもなってきている。例えば、富士重工業のクルマ、スバルのハイブリッド車の開発を検証するためのツールとしてLabVIEWとシャーシを使って、独自のモーターHILSを動かすためのECU(電子制御ユニット)のテスト時間を1/20に短縮した、とスバルのエンジニアは述べている。

これらの少ない種類の製品をプラットフォームとして用い、ユーザーごとにソフトウエアやハードウエア(FPGAと呼ばれる半導体で電子回路を自由に変更)を変更するだけで、独自の電子機器や機械を設計・検証できる。もしもエンジニアが検証する専用の測定器を揃えるとなると、お金はいくらあっても足りない。

測定器を提供するNIは、新しい機能や規格が出てきても測定器をゼロから開発するのではなく、モジュールだけを開発すればよい。サプライヤ(NI)、メーカー(顧客)とも安く速くモノづくりができることになる。これぞ、ウィン-ウィンの関係ができる。

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図2 NIWeek 2015のキーノートスピーチで講演するドクターT

さらにこのビジネスでは、サプライヤとメーカーとの間に入り、ソフトウエアを開発する、ハードウエアを変更する、といった第三者のビジネスが生まれた。ハード、ソフト、サービス、いろいろな産業が協力し合う「エコシステム」が生まれているため、成長分野に照準を合わせれば、企業も成長できる。こういったやりかたこそが、今の時代に合ったテクノロジーである。このフィロソフィーを生み出した創業者兼CEOのJames Truchard(トゥルッチャードと発音)氏(図2)は、博士号を持つエンジニアで、「ドクターT」という愛称で呼ばれている。

プラットフォーム戦略という言葉だけが日本企業に見られるが、自分の得意な製品をプラットフォームに当てはまるように、ハードウエアとソフトウエアを考える「知恵」が企業に求められる。プラットフォーム戦略を採り入れるために自分の会社はどうすべきかをブレーンストーミングをやってみるとよいだろう。

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図3 NIWeek 2015には3000人が参加する 基調講演前の様子

実は今、NIが主催する年に一度の大きなイベントNIWeek 2015(図3)に来ている。8月4日から始まったプレゼンテーションと展示会の前に、記者会見が開かれ、そのさわりが紹介された。LabVIEW新製品「LabVIEW 2015」や、産業用のIoT(Internet of Things)に向けた検証システムが新製品として登場した。

(2015/08/05)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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