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大谷翔平 進化の証「本塁打は窮屈に反対方向から豪快に右側へ」

豊浦彰太郎Baseball Writer
そのスイングは窮屈な「おっつけ」から完全に脱皮した。(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

打者大谷翔平の快進撃が止まらない。現地時間18日、地元でのインディアンス戦で3試合連発でメジャートップを独走する14号本塁打を叩き込んだ。短縮シーズンだった昨季は不振を極めたが、今季のこの復調ぶり、いや急成長ぶりはどうだろう。

今季の打者大谷には、単純に本塁打が多いことのみならず、大いに感銘を受けていることがある。それは右方向への豪快な一発が増えたことだ。

昨季までは、彼のスイングには視覚的な窮屈感があった。おそらく、コンタクトポイントが近すぎたのだろう。したがって、打球も反対方向が多く、昨季までのエンジェルスのプレイ・バイ・プレイ・アナウンサーのビクター・ロハスさんが、「ビッグフライ!」と絶叫するも、打球は「おっつけた」感じで飛んでいくケースが多かった。

もちろん、反対方向にも本塁打が打てる、ということは強打者の重要なポイントだ。しかし、この要件には前提として、スラッガーのホームランの多くは引っ張った方向に飛んで行く、ということがある。その点、大谷の場合はメジャーの他の長距離打者に比べて、そもそも引っ張った(彼の場合はライトスタンドへの)本塁打が少なかった。

科学的に、引っ張った本塁打が多くなければならない、ということではない。もっとエモーショナルな意味でだ。ファンのハートをがっちり掴むホームランバッターというものは、左打者ならライトスタンドへ、大きな放物線や弾丸ライナーで飛び込む一撃が必須だと思うのだ。

具体的に数字をみてみよう。

大谷は昨季までのメジャー3年間(2018〜20年)で、通算47本塁打を放っているが、セイバーサイトのBaseball -Referenceによると、そのうちレフトまたは左中間へが15本で全体の31.9%を占めている。センターへはさらに多く17本で同36.1%だ。ということは、ライトおよび右中間へは残り15本でレフト&左中間と同じ31.9%だ。

これを「広角に本塁打を打ち分ける」とポジティブに捉えることもできるだろう。しかし、ぼくは主として情緒的に、視覚的に引っ張った本塁打が少ないことに不満があった。

そして、今季だ。

ここまでの14本中、レフト&左中間は2本のみ。センターへは直近の14号を含めて3本だ。そして、ライト&右中間へは9本と圧倒的に多い。これは、明らかに昨季までとは打者大谷は異なっている、進化していることを表していると思う。なお、構成比だけではなく、1本塁打に費やす打数で見てみると、レフト&左中間への本塁打は、昨季までが863打数で15本なので57.5打数/本、今季は18日のインディアンス戦までで155打数で2本なので77.5打数/本と頻度も落ちてはいるが、まだサンプル数が少ない。仮に次の試合で4打数で左方面に1本打つと、一気に53.0打数/本となるので、必ずしも左方面が減ったとは現時点では言い切れない。はっきり言えるのは、左打の長距離砲らしい右方面への一発が増え、それが彼の本塁打総数を押し上げているということだ。

また、より専門的に大谷の進化を紹介すると、バレル率(長打になり易い速度&角度の打球の率)は昨季の10.7%から21.5%へ、ハードヒット率(初速95マイル以上の打球の率)も42.7%から52.3%へ明らかに向上している。このことは、右側への本塁打増はともかく、本塁打が増えていることと因果関係がある。

この若者の驚くべき点は、その適応力にあると思う。メジャー初年度のオープン戦では緩急や動く速球、左投手への脆さを露呈し、一部のスカウトは「高校生級」と酷評したことが現地メディアで紹介された。しかし、開幕後はタイミングを取る際に右足を上げず、すり足とする打法に移行し、見事にこれらの課題を克服した。

もう一度言うが、今の大谷は明らかに昨季までより進化している。その目に見える結果が右方向への本塁打増なのだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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