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マーリンズ集団感染でMLBいきなり危機に、特別規定は万全もそもそも運営形式が問題?

豊浦彰太郎Baseball Writer
マーリンズ共同オーナーのデレク・ジーターにも試練が続く(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

マーリンズの集団感染により、今季のMLBはいきなり継続の危機に瀕した。感染防止の特別規定は詳細に作成されたが、根本の運営形式に決定的な問題があったのではないか。

MLBは、開幕から1週間も経ずして、今季継続の大きな危機に直面することになった。現地時間27日、フロリダ・マーリンズの選手およびコーチ計10人から新型コロナウィルス検査で陽性反応が認められた。同球団では前日にも4名の陽性反応が確認されている(29日追記、マーリンズにはさらに4人の陽性反応が確認された)。

これを受け、マーリンズは遠征先のフィラデルフィアで足止めを食うことになり、本来なら27日に地元マイアミで開催されるはずだった、今季の本拠地開幕シリーズの対オリオールズ2連戦は中止となった(29日追記、マーリンズのゲームは8月2日まで全て中止となった)。

これだけでは済まない。24日〜26日、マーリンズはフィリーズ戦をアウェイのシチズンズバンク・パークで戦ったため、急遽ビジター用クラブハウスを中心に消毒作業を施す必要が生じ、27日に同球場で開催される予定だったフィリーズ対ヤンキース戦も中止になってしまった。

さらに言えば、マーリンズにクラスターが発生したということは、彼らと3日連続で試合をしたフィリーズの選手と関係者、およびアンパイアたちは大丈夫なのだろうか(29日追記、フィリーズを含め、マーリンズ以外の全29球団で全員の陰性が確認された)。

悔やまれるのは、26日の段階ですでに4名もの陽性反応者を出しながらも、その日のゲームが挙行されたことだ。MLBに言わせると、その程度のことは「織り込み済み」ということだ。だからこそ、今季に限っては登録メンバーが本来の40名から60名に拡大されているのだ。陽性反応者が出たら、どんどん入れ替えれば良い。これはこれで合理的だが、感染拡大防止の観点からは不十分だし、選手を「入れ替えれば良い」存在として捉えているようではプレーヤー・ファーストとは言い難いだろう。

この一件が投げ掛ける最大の問題点は、今季の開催形式自体が失敗だったのではないか?ということだ。MLBは当初、選手や関係者の外部との接触を極小化するため、全球団をフロリダとアリゾナの2ヶ所に集め、スプリングトレーニング施設を使った変則2リーグ制を検討していた(これを「バブル式」という。シャボン玉の中に閉じ込めたような運営ということだ)。

最終的に、この案は採用されなかった。2〜3月のキャンプの頃ならいざ知らず、これらの地域は夏場は酷暑となることや、その後両地域とも感染拡大が甚だしかったことが嫌われたのだが、おそらく理由はそれだけではない。やはり、開幕後どこかの段階で観客を入れた開催に移行したい、との想いが強く作用していたはずで、その前提ならやはり各球団とも本拠地で開幕するに如くはないからだ(カナダに本拠地を置くブルージェイズは、政府の許可が下りず叶わなかったが)。

しかし、それが結果的には命取りになるかもしれない。全球団がホーム&アウェイを繰り返すことにより、少数の感染が、少なくとも東地区・中地区・西地区という単位で拡大して行く恐れがあるのだ。

陽性反応者が出ている状態での試合開催を許したこと、そもそも航空機を使用した移動を前提としている点で、今季の開催フォーマットは失敗だったと言わざるを得ないのではないか。MLBはコロナの脅威とともに開催する今季のために、ブ厚い特別規定書を作成した。控え選手をダグアウトではなくスタンドで待機させるなどのソーシャルディスタンスの確保や、ツバ吐きの禁止など、面白おかしく報道されたものも含め、それらは微に入り細にわたる。しかし、大元の部分がザルだった、ということかもしれない。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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