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メジャー最高勝率のツインズ、バルデリ新監督の自主性重視の賜物?

豊浦彰太郎Baseball Writer
バルデリ新監督(右)は、選手へのねぎらいも抜かりない(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

ア・リーグ中地区で首位を快走するツインズ。今季から指揮をとるロッコ・バルデリのマネジングスタイルは自主性の尊重だ。しかし、この手法がいつも好結果をもたらすとは限らないのが、この仕事の難しいところだ。

首位独走の要因はホームランパワーと自由なムードか

ツインズは、今季ここまでのMLBペナントレースでの最大のサプライズ球団と言っても良い。6月13日現在、勝率.672はメジャー最高だ。一昨年、若手の成長でワイルドカードゲーム進出を果たした同球団だが、昨季は78勝84敗と負け越した。今季も開幕前の下馬評では、地区3連覇のインディアスに水を開けられるとみられていた。

ここまでのツインズ躍進の要因は、何と言ってもそのホームランパワーだ。67試合を消化した現時点で、すでに132本。このペースでは昨季のヤンキースが樹立したシーズン記録267本を大きく更新するどころか、300本も超える可能性は極めて高い。

そして、その長打力とともに見落とせないのがバルデリ新監督の掌握力だと言われている。彼は現在37歳。中心打者のネルソン・クルーズ(38歳)より若い。

若いだけあって、そのスタイルもデータ重視の現代にマッチしたものだ。昨季までの監督のポール・モリター(地元出身で、現役時代はツインズでもプレーした。その後野球殿堂入り)が、自身の経験や球界の古くからのしきたり重視のオールドスクール型であったのとは対照的だ。

バルデリは、監督経験は初めてながら昨季までは戦術開発やデータ分析では先進的なことで知られるレイズでコーチを務めていた。

そして、バルデリのもうひとつの特徴は選手へのフレンドリーな接し方であり、規則より自主性、ハードワークと同じくらい休息やリラックスを重視する管理手法だ。先日、ESPNもそんなバルデリの手法を高く評価する記事を掲載していた。そして、もちろんそのスタイルは選手にも好評だ。

かつては「ディマジオ2世」

バルデリは、かつては攻走守揃った外野手で将来メジャーを背負って立つスター候補と期待された。2003年にデビルレイズ(現レイズ)でデビューすると、4月にいきなり月間新人王に輝いた。その溌剌としたプレーぶりだけでなく、スレンダーな体躯と甘いマスク、そしてイタリア系ということで、「ジョー・ディマジオ2世」ともてはやされた。2004年に東京で行われたデビルレイズ対ヤンキースの開幕シリーズでは、スピードスターのカール・クロフォードや主砲のオーブリー・ハフとともにデビルレイズの「顔」だった。

しかし、その後の現役生活は順調ではなかった。繰り返す故障とミトコンドリアの病気にも悩まされ、29歳の若さで現役に見切りをつけた。「ディマジオの再来」としての華々しいデビューからは考えられない展開だった。

開幕から3ケ月も満たない期間というのは、新監督の手腕を評価するには短すぎるかもしれない。しかし、ここまでツインズが予想外に突っ走っているのも、バルデリ新監督が選手に広く受け入れられているのも事実だ。その意味では、選手の自主性尊重、同じ目線での付き合い、というのは成功していると言って良いだろう。

「自主性尊重」がいつも好結果をもたらすとは限らない

しかし、この手法が普遍的に正しいとも言い切れない。現時点でのバルデリのスタイルは、彼が選手と変わらぬ世代であること、チーム自体が成長過程で若い選手が多いこと、またヤンキースやレッドソックスなどのように常に全国的な注目を集める存在ではないことが前提にあったとも言える。要するに、球団ごとにベストなマネジングスタイルがあるということだ。

また、自主性尊重は危うさと表裏一体でもある。

自由な雰囲気で成功した球団というと、2004年に86年ぶりに世界一の座に登りつめたレッドソックスを思い出す。ヒゲや長髪を禁止するライバルのヤンキースとは対照的に、放任主義のテリー・フランコーナ監督のもと、Caveman(原始人、野人)の異名を持つ毛むくじゃら?のリードオフマン ジョニー・デイモンに象徴される個性的な風貌の選手達がフィールド上で暴れまくった。

しかし、フランコーナ治世のレッドソックスでは、選手が試合中にクラブハウスで飲酒に興じるなどの度を越えた行為が明らかになり、フランコーナはリリースされた。2011年のことだ。

結局、統制型か放任型か、どちらが正しいということではないのだ。両方のバランスを、時と場合で調整していくのがマネジメントなのだ。自主性は重んじられるべきだが、締めるところはしっかり締めないと、過度な自由化はかなりの確率で怠慢や無秩序に至ってしまう。

昨年9月、パドレスのアンディ・グリーン監督はシーズン閉幕が近いにもかかわらず、試合前に中継プレーなどの基礎練習を強いて若手選手の顰蹙を買った。「春のキャンプの時期じゃあるまいし」ということだ。しかし、グリーンは間違っていないと思う。それがファンダメンタルがきちんとできていないチームに必要なら、もうじき閉幕でもしっかり習得させるべきだ。

ぼくは、バルデリの方針が今季のツインズにはフィットしているだけだと思っている。しかし、賢明な彼は、来季以降は構成メンバーやチームの調子により、手綱の緩め方、締め方を調整するのだと思う。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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