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MLB日本開幕シリーズ「非イチロー試合」での安いチケット価格に驚く

豊浦彰太郎Baseball Writer
2019年開幕シリーズはMLB公式戦である以前に、イチロー興行なのだ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

2019年3月に東京ドームで開催されるアスレチックス対マリナーズの開幕シリーズおよびプレシーズンゲームの開催要領が発表された。注目のチケット価格に関しては、MLBの海外興行(驚くほど高いケースが多い)としては良心的?とも思えるレベルに設定されていることと、アスレチックスとNPB球団のゲームでは意外なほど廉価な設定になっていることに驚かされた。後者に関しては、一ファンとしては喜ばしい限りだが、日本のMLB人気のある種のいびつさを象徴しているとも言え、少々考えさせられた。

他国でのMLB海外興行より安いチケット価格

3月20日、21日のアスレチックス対マリナーズの開幕2連戦では、プレゼント付きではないS指定席が1万8000円、3階席のC指定席が4000円、外野指定席が4000~4500円だ。ぼくはC指定席を買おうと思う。3階席はフィールド全体がよく見渡せるし、1階席のようにネットに視界を遮られることもない。そして、価格とのバランスも良い(外野席がやや高いのは、イチローとの距離が近いからか、レフト側の4000円に対し、ライト側の4500円という設定もその印象を強くしている。実際には、イチローが守備に就く場合ライトの可能性が高いとは必ずしも言えないと思うが)。

この価格設定は絶対的には安くないが、昨今のMLBの海外興行の中では異例と言って良いだろう。ぼくは、今年5月のメキシコでの公式戦パドレス対ドジャースも観戦に行ったのだけれど、地下鉄やバスは4.5ペソ(約30円)で、食事も屋台でのタコスにすれば、5個セットが25ペソ(約140円)の国で、チケットは2階席でも1375ペソ(約7800円)もした。また、来年6月末にロンドンで開催される公式戦レッドソックス対ヤンキース(これも行く予定)では、内野1階席は最低でも270ポンド(約3万9000万円)なのだから。

中でも「非イチロー」アスレチックス戦の安さ

全体的な安さに加え、アスレチックスのプレシーズンマッチの激安?ぶりにも触れておかねばならない。まずは、19日の日本ハム戦で内野1階席の約半分などに設定される自由席が1800円であることが目についた。なにせ平日のデイゲームなので、まあこんなものかと思ったが、その前日の日曜日にナイトゲームとして開催される巨人戦も同じ価格設定であることにはチト驚いた。この設定は、「集客の難しい平日デイゲーム特別価格」ではなく、「集客の難しいアスレチックス戦価格」だったのだ。

いや、正しくは「イチローが出場する可能性のないゲーム価格」というべきだろう。日本のファンにとっては、今回はイチローの凱旋であり、おそらくはサヨナラ興行なのだ(今年5月初頭以降は事実上も引退状態である45歳の彼に、当初から公式戦の登録枠が事実上保証されていることの是非に関してはここでは触れないが)。

日本人選手一辺倒のMLBへの関心

日本にもメジャーファンは多いが、そのほとんどは日本人選手フォロワーだ。そのこと自体は否定すべきではない。自国出身の選手に肩入れすることはごく自然だ。実際、ぼくが今まで現地で見届けてきた中でも、2015年のカナダのモントリオールでのブルージェイズのプレシーズンマッチでは、地元出身のラッセル・マーチンへの歓声は耳をつんざくほどで、ノーヒットに終わっても試合後の共同会見は彼のワンマンショーだった。

来年春の東京シリーズにおける「イチロー不在試合」でのチケット価格戦略は、日本での日本人選手一辺倒のメジャー報道や、WBCなどの国際試合における日本絡み以外のゲームでの極端な不入り経験を踏まえた結果だろう。ビジネス的にはそれは正しい。アスレチックスなんぞ、日本で知られているのは「マネーボール」で一世を風靡したビリー・ビーン副社長くらいだからだ。しかし、実際には今季の本塁打王クリス・デービスやゴールドグラブ賞に輝いた三塁手マット・チャップマンなど、見るべき選手は多い。少しでも多くのファンにこのお買い得なチケットで、日本人選手以外のメジャーの魅力を感じて欲しい。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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