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ヤンキース A・ジャッジが1日8三振、近年のMLBの三振激増&小技激減は正常進化と言えるのか?

豊浦彰太郎Baseball Writer
今年のMLBは異常なまでに三振が多い(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

日本時間6月5日、MLB.comでタイガース対ヤンキース戦を観戦した。このマッチアップは、雨天中止になったジャッキー・ロビンソン・デーの4月15日のゲームを、同一カードが予定されていたこの日に組み入れダブルヘッダーとしたものだ。したがって、第2試合に限り、両軍全選手がロビンソンの42を背負ってプレーした。

そして、この日の第1試合で3三振を喫したヤンキースのアーロン・ジャッジは、ぼくの観戦した第2試合ではなんと5打席五三振。ダブルヘッダーで1日8三振はメジャー・ワースト記録だそうだ。映像観戦とは言え、ぼくも「歴史の証人」になったのだ。ジャッジが三振の多い打者であることは間違いない。ルーキーながらMVPを争った昨季でも両リーグ最多の208三振を喫している。

しかし、近年のメジャー全体での三振の多さはちょっと異常だ。剛速球投手の増加に加え緩急や高低の揺さぶりなどの投球術の進歩が著しく、打者サイドでは「フライボール打法革命」の影響もあるのだろうが、とにかく三振が多い。今季、現時点では1試合あたり1球団8.57三振だ(出典はBaseball=Reference、以下同様)。21世紀最初の年である2001年は6.67で、40年前の1978年は4.77だったから、この増加ぶりは尋常ではない。

しかし、近年のゲームの変貌ぶりは三振の激増だけではない。

スプリングトレーニング期間中に、セイバー系サイトの元祖的存在のfangraphsに興味深い記事が掲載された。それは、スプリングトレーニングでの傾向でそのシーズンの傾向が大まかに予想できるというものだ。もちろんオープン戦でしかないこの期間の個別選手や球団の好不調はあまり当てにならない。しかし、メジャー全体の傾向では過去の事例でも概ねシーズンの在り様と近似性があるのだそうだ。そして、そこで述べられていた2018年シーズンに予想される傾向は、「本塁打増」「三振増」「四球増」「犠打減」などだった。

そして、公式戦の1/3以上を消化した現時点ではどうか。ここに挙げられている4つの項目のうち、3つが的中している。本塁打だけは、メジャー新記録を塗り替えた昨季2017年を若干下回るペースだ。しかし、これは個人的には昨季の「飛び過ぎ」に危惧を抱いたMLBが公式球の反発力に手心を加えた可能性は十分あると見ている。いずれにせよ、中期的には増加傾向にあることはまちがいない。また、ここに挙げた項目での変化だけでなく、盗塁やヒットエンドランの減少も顕著だ。

これらの傾向は、統計学的分析の進化・浸透の影響が大きい。しかし、打者は本塁打と四球狙いで三振はI don’t care, 要するに投手、捕手、打者の3人で完結するプレーが多くなり、他の野手7人は参加するプレーは激減で打者ごとに守備位置を大胆に変えるのがメインの仕事、戦術面では小技はほとんど姿を消し、監督は座して3ランホームランを待つのみというのが(少々誇張したが)2018年のベースボールなのだ。分析が進みすぎて極めてシンプルに、僕に言わせれば退屈になってきている。

これを進歩と呼べるかどうかの判断はもうちょっと長いスパンでの注視を要するが、最後に興味深い今季の傾向をもうひとつ紹介しよう。それは1試合平均の観客動員で、現時点では約2万8000人と、昨季の約3万人から明確に減少している。MLB機構はこれを春先の悪天候(雨天や極端な低気温)の影響としており、それは確かに重要なファクターだろう。しかし、近年チケット価格はもちろん場内の飲食や駐車場代も高騰し、もはや庶民の娯楽とは言えなくなっていることも無視できないと思う。そして、ここで述べたゲームの本質の変化がこの現象に拍車を掛けはせぬかとぼくは密かに心配している。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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