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NPB 公式戦に「引退試合枠」設定を検討する愚、各球団の良識やフィロソフィーの問題では?

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:アフロスポーツ)

今後は、閉幕寸前のお涙ちょうだい劇が一層増えるかもしれない。NPBは現役引退する選手用に特別の29人目枠を設定することを検討しているという。個人的には愚にもつかないアイデアだと思うが。

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ぼくは、現在一般的な「引退試合」なるものが好きではない。クライマックスシリーズ出場権や個人のタイトルが掛かっているかもしれない真剣勝負の公式戦で、引退する選手に花を持たせるために、所属球団がわざわざ出場機会を設定したり、相手球団の選手がどうみても意図的な空振りをしたり、打ちやすそうなタマを投げたり、容易に捕れるファウルフライを落としたりするのは、この素晴らしいスポーツや公式戦の尊厳に対する冒涜行為だと真剣に思っている。また、自らの実力でキャリアを紡いできたプロの選手が、その球歴の最後に高3の補欠選手のようなお情けの機会を与えられることも、相手選手から手心を加えた対応をされることも不憫でならない。長年ファンを素晴らしいプレーで楽しませてくれた選手との別離を惜しむのは盛大なセレモニーであるべきで、公式戦にそれを持ちこむべきではないと思う。

しかし、引退の美学や武士の情けに関する思いはひとそれぞれだ。ぼくは、あまりにピューリタン過ぎるのかも知れない。ぼくには「茶番」としか思えない行為に感動の涙を流すファンは少なくないし、これを美学の観点から必要だと思う監督や、マーケティング上のうま味を手放したくないと考える経営者が存在する事実は否定できない。

だから、ぼくが寂しく?主張する公式戦の尊厳などよりも、ここに挙げたファンの「感動」や監督の「美学」や商売上の「うま味」が大事だと思う球団は、現行の28番目の枠をその引退する選手のために使えばよいし、「それはやはりおかしいだろう」と考える球団はこのような引退試合の慣習を断ち切ればよい。

要は、各球団やそこの監督のフィロソフィーの問題だと思う。ルールで特別枠を認めることを検討すべきことではない。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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