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「イチローを球宴ホームランダービーに!」には反対したい

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

「イチローを球宴ホームランダービーに!」という主旨のコラムがウェブにアップされている。

メジャー関係記事の大手?である、「Full-Count」や「The PAGE」が、相次いで報じている。

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いずれも、「Yahoo! Sports」のジェフ・パッサン記者のコラムを受けてのものだ。これらの媒体は、「アメリカのメディアはこう報じている」という記事が好きだ。本件にしても、本当にイチローが球宴ホームランダービーに出ると面白い、出るべきだ、と思うなら、パッサンのように独自に企画して主張を展開すれば良いと思うが、そんな気配はない。「現地ではこう報じている」というのは、本来「われわれはこう思う」という主張がまずありきで、その周辺場情報として「ちなみに・・・」という付加情報であるべきだと思う。「彼らはこう報じている」ということだけで記事を構成するのは、プロのジャーナリズムとしてチト寂しいと言わざるを得ない。

話をイチローのホームランダービー出場に戻す。ぼくは、イチローのホームランダービー出場には反対だ。ここからはその根拠を記す。

今年の出場者(8名の予定)はまだ発表されていないのだが、近年のこのイベントが抱える根本的な問題点は、名実ともメジャーを代表するホームランバッターと見なされるスラッガーたちに出場回避傾向があることだ。

昨年の優勝者で、今季も既に参戦の意向を表明しているジャンカルロ・スタントン(マリナーズ)などは例外で、昨季を例にとってもブライス・ハーパー(ナショナルズ)、マイク・トラウト(エンジェルス)、ノーラン・アレナード(ロッキーズ)、らは出場しなかった。それこそ、昨季限りでの引退を表明していたデビッド・オティーズ(レッドソックス)などは、成績も抜群だったため是が非でも出て欲しい選手だったが、やはりそれは叶わなかった。

この傾向の真の理由は明らかではない。一般的には「大振りを繰り返してフォームを崩したくない」ということが挙げられることが多い。まあ、それもなくはないと思うが、ぼくはそれが決定的な理由だとは思っていない。スーパースター級は敗退した時のリスクを気にしているのではないか。彼らはすでに一流のホームランダッターとしての認知を得ているため、勝って当たり前、あっさり敗退したらその名誉に傷が付くのだ。

昨年などは、一時マディソン・バンガーナー(ジャイアンツ)や、ジェイク・アリエッタ(カブス)などの打撃自慢の投手の参加が噂され、また望む声も出た。人気回復へのカンフル剤としては確かに面白い。今回の「イチローをホームランダービーに」というのも、この延長線上にある。

しかし、ぼくは反対だ。投手や単打者が出て来るような事態になれば、スラッガー達の出場回避傾向に拍車が掛かると思われるからだ。彼らにあっさり負けるようなことがあると、それこそ沽券に関わるというものだ(そして、単発のイベントでは大いにあり得る展開だ)。

今回の出場選手の構成がどうなるかは分からぬが、今回もそして今後も実績がありかつその年の本塁打王争いの上位に君臨するスラッガーを、どうすれば集めることができるか?そこにこそMLB機構や選手組合、そしてメディアやファンが英知を結集すべきところであり、「投手や単打者も参加」という企画モノに頼ることには、極めて慎重になるべきだ。

個人的には、国別対抗の要素を組み入れ、主としてラテン系選手の競争心を煽るのが効果的と思う。もっとも、これがあまりにうまく行くとナショナリズムの行きすぎた高揚や人種問題に発展しないとは言い切れず、そこが難しいところだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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