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ヤンキース田中将大、このままでは「イガワ化」だけでなくその残契約は「ダイスケ化」も?

豊浦彰太郎Baseball Writer
何とかV字回復を期待したいが・・・(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

田中将大の背信登板が続いている。このままででは、彼がオフに契約破棄権を行使することもないだろうし、2020年までの現契約の残期間は不良債権化する懸念もある。

現地時間6日のレッドソックス戦も62球で3被弾KO。これで5連敗となった。乱調の原因が議論を呼んでいる。故障を抱えているのか?捕手との相性の問題か?それとも球種の構成が悪いのか?それら全てか?それともそれら以外に何かあるのか?

いずれにせよ、メディアやファンから注目されていた今季終了後のオプトアウト(契約破棄)権の行使も、行使した場合の球団からの再契約のオファーの可能性も相当小さくなったと言えるだろう。

今季の田中に関しては、契約上の注目ポイントがあった。それが、2014年1月にヤンキースと7年総額1億5500万ドルの契約を締結した際に織り込んであったオプトアウト条項だ。

メジャーでは、平均年俸もスター選手のFA相場も上昇を続けている。契約を結んだ時点では「かなり高め」の金額であったとしても、長期契約半ばにおいては全体の相場上昇により、「割安」になってしまう可能性もある。田中のケースを例に挙げると、毎年の年俸は2200万ドル(最終年の2020年のみ2300万ドル)だ。これは3年半前の契約時点では相当な高額だったが、仮に今季サイヤング賞級の活躍を見せ、オフにオプトアウトの権利を行使しFA市場に打って出れば、年平均3000万ドル近い複数年(4~5年か)契約が望めるはずだ。

しかし、このまま田中が復調しないようなことがあると、間違いなく田中はこの権利を行使せずそのままヤンキース残留を選択するだろう。FAになってしまうと、現在の年平均2200万ドルに遥か及ばない金額しか、年数も現契約で保障されているあと3年よりも短い期間しか得ることができないことは確実だからだ。

このまま田中がジリ貧のまま(そんなことはあり得ないと思いたいが)ヤンキースに2020年まで残留、ということになると辛辣なニューヨークのメディアから「不良債権」として激しい批判に晒されることはまちがいないだろう。デレク・ジーターの背番号「2」の永久欠番化セレモニーも開催された5月14日の母の日のアストロズ戦での1.2回4被弾8失点の大乱調後には、「イガワになってしまった」(ニューヨーク・ポスト)という皮肉たっぷりの批評があった。しかし、このまま「活躍したのは契約期間前半の数年だけ、その後は不良債権」となれば「結局、ダイスケと同じだった」と言われかねない(ボストンに大きな期待で迎えられながら、最初の2年間以外は期待に応えられなかった松坂大輔の契約は、ポスティングフィーと合わせ1億ドル以上も投じられていたため、地元ではしばしば「球団史上ワーストの契約」として取り上げられている)。

田中はまだ28歳だ。代理人のケーシー・クロースがヤンキースとの7年契約締結の際にオプトアウト条項を抜け目なく4年目終了後に盛り込ませたのは、その時点ならまだ若く、FA市場で引く手あまたと踏んだからだが、予想外に衰えの到来が早かったということなのだろうか。そうなると、日本時代の勤続疲労の影響は無視できないだろう。なにせ、高校3年の夏の甲子園で742球も投げ、渡米時点で25歳にしてすでに1315イニングスもこなしていた。何よりも、2013年日本シリーズでは第6戦で160球も投げ、その翌日には救援登板さえしている。

もちろん、田中にはここからV字回復して欲しい。しかし、仮にそれがなされず「ダイスケ化」してしまっても、ヤンキースに同情する必要はない。彼らは、田中の日本時代の登板過多について十分すぎるほど知っており、その影響のリスクを認識した上で、7年契約をオファーしたのだから。このあたりは、前例がない中で松坂と大型契約を結んだレッドソックスの事例と全く異なると言えるだろう。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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