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「イガワになってしまったヤンキース田中将大」その大乱調の原因は?復調の可能性は?

豊浦彰太郎Baseball Writer
信じられないような背信投球が続く田中将大だが・・・(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

ヤンキースの田中将大の乱調が続いている。果たして、その原因は何か?復調の可能性はあるのか?

5月20日のレイズ戦に先発した田中は、3回で3本塁打を献上し6失点。その前の14日のアストロズ戦と合わせると、わずか4.2回で7被本塁打&14失点の大炎上だ。辛辣なニューヨークのメディアの中には、「イガワになってしまった」(ニューヨーク・ポスト紙)という皮肉たっぷりの形容すら出てきた。今季は、開幕投手を務めた初登板での背信投球こそあったものの、その後は復調。4月27日のレッドソックス戦では無四球の完封勝利という絶妙のパフォーマンスを披露した。それが、5月に入り突如調子を崩している。いや、「不調」で済ませることができる段階ではなく、「惨状」とすべきレベルまで内容は悪化している。はたして、その原因は何なのか。フォームの乱れ?組み立て?それとも、メンタル?実は故障を抱えているのでは、とする見方もある。そして、復調は期待できるのか?可能な限り、客観的なデータを基に考えてみたい。

まずは、セイバー系サイト「ファングラフズ」のデータで今季ここまでの投球内容を昨季と比較してみよう。勝ち負けや防御率と言った「結果」ではなく、そこに至る「プロセス」指標ではどうだろう。もっとも大事な奪三振率は7.31で7.44だった昨季と大差なし。しかし、与四球率は昨季の1.62から2.81へと明確に悪化している(それでも、メジャー平均レベル)。今季は被弾が悲劇的に多いのだが、打球のゴロ比率(GB%)は49.7%と昨季の48.2%からむしろ上昇している。一般的には、打球のゴロ率(言い換えれば、フライ率)が一定なら、被本塁打率も大きな変化はないものだ。したがって、田中の場合GB%一定で、フライボールに占める本塁打の比率(HR/FB%)昨季の12.0%から異常ともいえる24.5%までが跳ね上がっているため、この被弾急増の現象は一時的なものと解釈することも可能とも言える。

しかし、田中の乱調はここ最近の2登板で特に顕著なのだ。次には、試合毎のスタッツを確認してみよう。すると、5月14日のアストロズ戦と先日のレイズ戦ではGB率がそれぞれ11.1%と35.7%と、今季の平均値に比べ著しく低下していることがわかる。この2登板に関しては、フライ打球が極端に多いため、本塁打もある程度打たれてしまう素地があったのだ(それでも、本塁打は多すぎるが)。

それでは、なぜフライ打球が増えたのか。実はこの2登板に関しては、田中の伝家の宝刀であるスプリッターをそれぞれ全投球の21.3%と10.5%と、昨季の平均30.2%に比べ「封印」している。スプリッターが減っているのはこの2試合に限ったことではなく、今季平均でも19.9%なのだが、少なくとも今年の田中は、大活躍だった昨季の投球パターンを踏襲することなく、新たな試みを取り入れているのだ。それが、まだ自分のものになっておらず、時として大成功をおさめ(レッドソックス戦での無四球完封)、また時としては大炎上となっている、と考えることは可能かもしれない。

いずれにせよ、田中は何らかの要因でスプリッターの多用を回避しようとしている。それが、進化のためのトライアルなのか、一部メディアが指摘しているように故障を抱えているからなのかは分からない。しかし、田中は昭和のスポ根的に「ケガを負ってもおくびにも出さず投げ続ける」ことを美徳とするような愚かなアスリートではないはずだ。さらに言えば、故障を隠していると契約違反にも問われかなないことはしっかり理解しているはずだ。

したがって、ぼくは希望的観測も含め、現在の不調は試行錯誤の過程ゆえのもので、そう遠くない内に彼は復調すると思っている。まずは、次回登板を見守りたい。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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