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The Flipより印象深いジーターの名シーン その1「3000本安打での敬意の脱帽」

豊浦彰太郎Baseball Writer
3000本安打は本塁打で決めた。その時印象深いシーンが・・・(写真:ロイター/アフロ)

田中将大が自己ワーストの8失点と炎上した、現地5月14日のヤンキース対アストロズ戦ゲーム2(この日はダブルヘッダー)の試合前に、デレク・ジーターの背番号「2」を永久欠番とするセレモニーが催された。現役時代は“Prince of New York”と呼ばれた彼に相応しい晴れやかなものだった。

歴代6位の3465安打や5度のワールドシリーズ制覇という輝かしいキャリアを誇るジーターは、それらの記録だけでなく、ファンの記憶に強く残るプレーを幾度となく演じて見せた正真正銘のスターだった。2001年ア・リーグ地区シリーズ第3戦での奇跡的な転送“The Flip”や、同年ワールドシリーズ第4戦でのサヨナラ弾“Mr. November”、さらには2004年7月のレッドソックス戦でのファウル・フライを追ってスタンドに飛び込むアグレッシブな“The Dive”などはその代表的なシーンだ。

しかし、彼の現役時代を思い起こす際に、ぼくにとってもっと印象的なシーンがふたつある。それを紹介したいと思う。いずれも、あまり知られてはいないがジーターらしさに溢れている。

“I raise my hat.”

「アルファロメオが通り過ぎるのを見るたびに、私は帽子を取って敬意を表する」と語ったのは、あのT型フォードを世に送り出した自動車王ヘンリー・フォードだ。大量生産に先鞭を付けたビジネスマンとしての側面ばかりが強調されることの多いフォードだが、20世紀初頭のグランプリ・レースを席巻していたイタリアの名門アルファロメオには、ビジネスでの競合いかんは別にして、深い敬意を持っていたようだ。ジーターにも似たような事例がある。

彼は、2011年7月10日、ヤンキー・スタジアムでのレイズ戦で史上28人目の3000本安打を達成した。

ヤンキースの選手としての達成は史上初で、本塁打での達成も99年のウエイド・ボッグス以来で史上2人目だった。正に千両役者。場内は興奮の渦に包まれた。

しかし、ぼくの目をもっとも引き付けたのは、本塁打を放ったジーターが一塁ベースを駆け抜けた瞬間のことだ。対戦相手のレイズの一塁手、ケーシー・コッチマンが一瞬帽子を取ってジーターに敬意を表したのだ。さすがに、偉大な記録を目のあたりにして、「敵も味方も無い。同じ野球人として敬意を表す」と言ったところだろうか。スポーツマンシップとは何かを再認識できた気持のよい場面だった。

そう言えば、イチローにも同じようなシーンがあった。彼がメジャー記録の262安打を放った2004年のことだ。9月4日ホワイトソックス戦で、イチローは5打数5安打だったのだが、先発のマーク・バーリーから7回にこの日4本の安打を放つと、マウンド上のバーリーが「どこに何を投げても打たれる。脱帽です。恐れ入りました」とばかりに帽子を取って、一塁ベース上のイチローにシグナルを送ったのだ。「敵ながらあっぱれ」という意味だったのだろう。

<その2へ続く>

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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