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デポルで迎えた新シーズン。2部の激しさの中で柴崎岳が培うもの。

豊福晋ライター
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 ア・コルーニャ市内から南東へ、車で30分ほど進んだアベゴンドという地域にデポルティボ・ラコルーニャの練習施設はある。

 天然芝と人工芝のピッチが全部で7面あり、練習試合やBチームの試合用のスタンドも併設されている。トウモロコシ畑のそばで、数人のファンがトップチームの練習を眺めていた。

 デポルはオビエドとの開幕戦で勝利した。2点先取しながら一時は追いつかれる展開も、終了間際に勝ち越し。デポルがリーグ開幕戦で3得点を決めるのは、2006年以来13年ぶりのことだ。危うくもスリリングな展開に、試合後に海沿いを歩いて帰るファンの顔には興奮の色が残っていた。

 この試合、地元メディアで最も賞賛されたのが柴崎岳だった。

 先制点の起点となるボール奪取に始まり、中盤で攻守に存在感を見せ、「ボス・デ・ガリシア」や「dxtカンペオン」、「イデアル・ガジェゴ」などのガリシアの地方紙は揃ってマンオブザマッチに選出している。

 練習場で取材していた全国紙マルカのぺぺ・トレンテ記者も同調する。

「いいパフォーマンスを見せてくれた。特に前半はよかった。相手のパスコースを巧みに読みながらポジションを取り、ボールを奪ってからは前線でチャンスも作った。後半は疲労からかペースは落ちたが、全体的にはよかった。さらに良くなることを期待しているが」

 新加入選手にとってリーグ序盤で評価を得るのは大きなプラスになる。その選手への期待値が高ければ高いほど、低調な出来が続くと次第に懐疑的な目が向けられるようになり、それはやがて批判に繋がる。今後を考える意味でも、柴崎にとってポジティブなスタートだった。

目指すシーズン2位以内と、日本代表での戦い

 練習場のピッチを、柴崎はチームメイトの先頭に立ち走っていく。開幕戦で先制点を決めたコネと時折言葉を交わす。スペインに来て2年半が経ち、言葉の面でもコミュニケーションは問題ない。

 開幕戦での自身への好意的な評価を、彼はどう捉えているのか。

「勝ったことはよかった。でも・・」と柴崎は言う。周囲からの賞賛を喜んでいる雰囲気はない。

「内容は、全然納得いってない。チームとしても個人としても、どちらかというと反省が多い試合だった。もうちょっと安定したプレーができれば、チームに落ち着きが与えられる。いいプレーももちろんあったとは思うけど、そこがフォーカスされすぎている。ミスもあったし、自分ではそっちの方を重視している」

 開幕戦では、中盤でドブレピボーテの一角を務めた。チームの心臓部。中盤中央が2枚ということもあり、攻守にミスが許されないポジションでもある。オビエド戦は狙った縦パスが通らなかった場面もあった。そういった部分での精度が、賞賛される好プレーよりも気になっているのだろう。

 目指すのはリーグ2位以内だという。6位までが1部昇格プレーオフ出場可能だが、彼はそこを見てはいない。

「ダイレクトで1部に昇格するのが最大の目標。プレーオフになると、どうしてもギャンブル的な要素もでてくるから。大一番のゲームではどこが勝ってもおかしくはないし、リーグ6位のチームが勝ちあがるケースもある。2位以内にはいって昇格を決めるのが大事」

 夢の1部を目指す22チームが繰り広げる死闘。2部は華麗なプレーや試合内容よりも、結果重視のチームが多い。激しさは1部を上回るほどだ。柴崎はスペイン1年目にプレーしたテネリフェで2部は経験済み。どういうリーグなのかは分かっている。

「レベルはどうしても1部よりは落ちるけれど、競争力、プレーの激しさなどは1部と比べても遜色ない。そこで培われるものは自分として大きい。激しい守備は普遍的なものだし、それは1部でも2部でもそう。そこで負けないこと、相手を上回ることをやっていかないといけない。それがあって自分の特徴も出せると思う」

 中盤で発揮する力強さや、あえて距離を置いておき絶妙のタイミングでボールを奪うインターセプトの感覚。これらはスペインにきて研ぎ澄まされた点だ。オビエド戦でもさっそくその持ち味を発揮している。今秋からワールドカップ予選を戦う日本代表にとってもそれはプラスになる。ロシアワールドカップ以降も、代表の中盤でその存在感は増す一方だ。

「今年はワールドカップ予選も始まるので大事な一年になる。二足のわらじを履くことになり切り替えも必要になるけど、クラブと代表の両方で結果を求めていきたい。必要とされた試合、選ばれた試合では常に全力で取り組むようにしていきたい。そのためにも、いまはクラブで試合に出て結果を出すことが大事だと思います」

 2部のシーズンは42試合と長い。それに加え、国王杯や日本代表での試合もある。フルに戦えばシーズン50試合を超えるだろう。1部復帰を願う海辺の町の期待を背に、柴崎は激しく、過酷な1年に挑もうとしている。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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