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日本であるべきか韓国であるべきか、それが問題だー。日本代表と韓国代表、どちらの記憶が後世に残るか。

豊福晋ライター
0−1でリードされていた日本代表は終盤にボールを回す選択をし、突破を決めた。(写真:ロイター/アフロ)

 世界中で日本代表が話題になっている。

 もちろん、ロシアワールドカップ・グループリーグ第3戦の日本対ポーランドの試合終盤のことだ。

 0−1という状況下にもかかわらず、日本は後方でパスを回し試合を終わらせることを選択。他会場のセネガルが1点を決めていれば危機的状況に陥っていたわけだが、他力に賭けた西野監督と日本は結果的にグループ突破という目的を見事果たしている。

 負けたまま意図的に試合を終わらせるという、スポーツにおいてあまり見ることのない事象については、世界各国で様々な反応があった。

 サッカーに精神性やフェアネスを求めるイングランドやスコットランドでは反対意見が大多数だ。かの英国放送協会(BBC)でも解説者が「日本はベスト16で大敗すればいい」と言い放ったという。

 一方で、勝利が最優先されるお国柄のイタリアでは、批判のトーンはやや緩くなる。長友佑都の元同僚ハビエル・サネッティは番組内で日本批判をしたが、スタジオには「結果がすべて。イタリア代表が同じ立場にいても、きっとああしたと思う」と堂々と語った女性ジャーナリストもいた。確かに勝利至上主義のイタリアこそ、究極の場面では平気で時間稼ぎを選択するだろう。

 それぞれのサッカー文化によって日本に対する見方が異なるのはとても興味深い。

歴史に残るか、記憶に残るか

 日本は今大会でベスト16に残ったアジア勢唯一の国となった。韓国、サウジアラビア、イラン、オーストラリアはいずれも敗退している。

 注目したいのは、敗退した韓国に対する世界の好意的な評価だ。

 3試合目を前に、日本と韓国が置かれた状況は正反対だった。グループ1位の日本に対し、すでに2敗を喫していた韓国にはほぼ突破の可能性は残されていなかった。にもかかわらず韓国は全力でドイツに挑み、2−0の勝利という世紀の番狂わせを演じ、前回王者を大会敗退に追い込んだ。

 非紳士的と言われかねない時間稼ぎで突破を手にした日本と、突破はほぼ不可能だと知りながらぶつかり歴史的勝利を収めた韓国。

 結果という意味で歴史に残るのはいうまでもなく日本だ。どれだけ賛辞されようとも、韓国代表には帰国の飛行機が待っている。ベスト16の準備をする日本代表には今後の希望もある。

 日本の立場からすると、当然ながらどんな方法でも突破を決めてくれた方がいい。時が経てば、シンプルに日本がベスト16進出、韓国はグループ敗退という事実だけが残るだろう。

 王者ドイツに勝とうが、スペインやブラジルに勝とうが、敗退してしまえばそこで終わり。次はない。どんな酷い内容でも、どのような手段を使っても、最終的な目標は突破。その意味では西野朗監督は賞賛されるべきだ。

 しかしワールドカップの記憶として、後世に残るのはどちらなのか。

 欧州ではどちらかというと韓国の美徳が賞賛される傾向にある。前回王者を敗退に追い込んだインパクトの大きさもあり、韓国は“今大会で最も幸せなグループ敗退を遂げた”とも言われる。

日本であるべきか、韓国であるべきか。それが問題だ

 興味深かったのは、バルセロナの一般紙エル・ペリオディコの見解だ。著者はアクセル・トーレス。スペインの若手の中で1、2を争う優秀なジャーナリストである。

 彼はシェイクスピアの『ハムレット』のセリフにかけてこう問いた。

 ”日本であるべきか、韓国であるべきか。それが問題だ”

 曰く、“日本は負けながらボールを回し結果を手にした。韓国は名誉を重んじ、可能性がないと知りながら美しき態度を貫いてロシアを去っていった。ソウルの飲み屋でこの2ゴールは長く語り継がれるだろう”。

 そして結論としてこう断言している。

 ”自分は韓国でありたい”

 イメージとしては、そちらの方が綺麗なのかもしれない。勝ち方も気にするカタルーニャ人らしい意見でもある。もちろんそう思っているのは彼だけでなく、欧州各国で同じ様な意見も耳にする。

 結局のところ、日本にとって重要なのは今後になる。ベルギー戦で結果を出せば、ポーランド戦の最後の10分間などすぐに忘れ去られるだろう。しかし仮にベスト16でいいところなく敗退すれば、残念ながら世界の記憶に残るのはあの時間稼ぎになる。1試合少なく大会を去ったものの、韓国のジャイアントキリングの方が語り継がれるはずだ。

 格上ベルギーに勝つか、あるいは素晴らしき好ゲームを世界に披露するかー。

 日本に対する真の評価は、ロストフでの一戦にかかっている。

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ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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