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「対人では絶対負けない」井手口陽介のスペイン挑戦と乾貴士の助言。

豊福晋ライター
初練習で1対1に挑む井手口陽介 (写真:豊福晋)

 激しい勢いで井手口陽介が相手に飛び込んでいった。

 ロンド(ボール回し)での1シーン。際立つ寄せの速さでボールをカットすると、チームメイトから掛け声があがった。気温1度のレオン。スタジアムの上からさしてくる陽の光に井手口の金髪が輝いていた。

 スペイン2部、クルトゥラル・レオネサに加入した井手口は初日から全体メニューをこなした。

 チームにすんなりと入った印象を受ける。チームメイトにスペイン語を教えられ、報道陣に向かって言わされた場面ではあたりが湧いた。仲間にいじられる姿は、加入初日とは思えなかった。

 適応には、井手口自身も手応えを感じている。

「練習もわからない中、単語や、身振り手振りでチームメイトが教えてくれたので、思ったよりやりやすいなと思った。ここからどうなっていくのか、自分もすごく楽しみです」

 プレー面では持ち味の球際、相手に詰める際の一歩目のスピードを見せた。

「対人は絶対負けない気持ちでやっていきたい」と語る、本人も意識しているポイントだ。

 そしてそれは、現在のクルトゥラルが必要としている要素でもある。

「井手口はすぐに試合に出るだろう」

 クルトゥラルの今季の基本布陣は4−3−3。中盤ではアンカーのジェライは絶対的な存在で、今季のチームベストプレーヤーだ。中盤は彼を軸に構成されることになる。井手口のポジションは、ジェライの前にある2枠のインテリオール(インサイドハーフ)だ。

 同ポジションは守備的なマリオ・オルティスと、前に行くプレーを得意とするセニェが務めている。しかし、2部全22チーム中ワースト3の失点数(34)を喫しているクルトゥラルは、後半戦に向けて守備面の改善が急務だ。

 今後、ルベン・デ・ラ・バレーラ監督は守備を修正する可能性が高く、井手口は中盤での守備の安定をもたらす存在として期待がかかっている。

 ラジオ局『カデナ・セル』のクルトゥラル番、パブロ・カンポス氏は現チームに井手口は必須だと見ている。

 「井手口はすぐに試合に出ると思う。映像を見たが彼の長所は守備と1対1。まさに今のクルトゥラルの中盤が求めているものだから。次の試合でも少なくともベンチには入るのではないか」

 デビュー戦が14日のロルカ戦(ホーム)になるのか、翌週のオサスナ戦(アウェー)になるのかは今後の練習次第だろう。しかしチームスタッフや地元メディア関係者に話を聞くと、ベンチには入るというのが多数の意見だ。前週、監督は新加入の選手をわずか数日間の練習でリーグ戦で起用したように、いいと判断すれば決断は早い。

乾からのアドバイス

 井手口の加入で今季のスペインは1、2部を合わせ4人の日本人選手がプレーすることになった。

 スペイン3年目と、最も経験のある乾貴士は井手口と連絡をとり、アドバイスを送ったという。

「プレー面は言葉が分からなくてもできるところはある、と言っていました。私生活の部分では辛いところもあるだろうけど、どれだけ楽しめるかが大事だと言ってくれた。最初は慣れないと思うけど、早く適応していけたら」

 どれだけ楽しめるかー。

 まさにスペインでサッカーを心から楽しんでいる乾らしい言葉だ。

 練習では笑顔も見せ、言葉も分からないなりにチームメイトとコミュニケーションをとっている姿が見られた。乾が言うように、言葉がわからなくてもピッチで通じる部分は確かにある。チームが必要とする守備面での仕事、そして対人で彼の持ち味を出すことができれば、短期間でチームにはまる可能性もある。「自信?自信がなければ絶対やっていけない」という言葉も頼もしい。

 カノ・スポーツディレクターは入団会見の際「ご存知の通り、彼は日本代表選手です。ワールドカップにも行くでしょう」と話した。

 ワールドカップ予選オーストラリア戦でのゴールは、地元では井手口を紹介する際に必ず引き合いに出される。

 当然、彼の視線の先にも、半年後のワールドカップはある。

「スペインは他のリーグと比べてもレベルは高い。守備も攻撃も学ぶところはあるので、すこしでも学んでいければ。ワールドカップまで半年しかないので、ここで毎日努力して少しでも成長して、まずは代表に選ばれることに意味があるので、しっかり選ばれるようにレベルアップしていきたい」

 欧州初挑戦はレオンの地から。スペインでの濃厚な半年間が始まった。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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