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「あとは運命がどこに導いてくれるか」柴崎岳が語る決勝点アシストと、大一番でのメンタル。

豊福晋ライター
プレーオフで1点1アシストと結果を出し続けている。(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

柴崎がゆっくりとピッチの角へと歩いていく。

前半21分、右コーナーキック。

ゴール裏のテネリフェサポーターはいつものように、両手を大きく上下して迎え、盛大な拍手を送った。

次の瞬間、柴崎が蹴ったボールはエリア内中央、ぽっかり空いた穴を突くように飛んでいき、待ち構えるホルヘ・サエンスの頭を捉えた。

ネットが揺れ、スタンドも揺れた。ホルヘはこれがプロ初得点。柴崎の元へ走り抱き合い、歓喜がチームを包んだ。

このゴールが決勝点となり、テネリフェは1部昇格プレーオフ決勝第一戦に1−0で勝利した。土曜日の第二戦、テネリフェは引き分け以上(またはアウェーゴールを奪っての1点差の敗戦)で、念願の一部昇格が決まる。

柴崎がキッカーとして考えていること

テネリフェのセットプレーのキッカーは柴崎である。

2月、マルティ監督は加入したばかりの彼のキックを見て、すぐにそれを決めた。CKもFKも、基本的に柴崎が担当する。この試合では直接FKでゴールを狙い、GKのファンブルを誘った場面もあった。練習で、試合で、何度も繰り返してきたセットプレー。それがこの大一番で実ったのである。

しかし、意外にもこの日、柴崎自身はキックの感触は今ひとつだと感じていたという。彼はこう振り返る。

「CKとFKの感触はあまり良くなかったんです。ただ、あの時だけちょっと、キックの入りからいつも通りやっているようにやったら、いいボールが蹴れて、ちょうどエリア内のあの位置に落ちて、ぴったり味方とあった。セットプレーはいいボールを入れても決まらないこともあるし、悪いボールを入れても決めてくれることもある。キッカー側の心理としては、なるべく競りやすいボール、入りやすいボールを上げることを考えています。それでなんとか勝率をあげることしかできないし、あとは中の選手頼みなので。ホルヘが決めてくれたので良かった。セットプレーは日本でも蹴ってたし、自分が蹴って点が入ってくれたら、それは嬉しいので」

この1点により、テネリフェは落ち着いた試合運びができるようになった。失点したことでヘタフェがアウェーゴールを奪おうと前がかりになる場面もあった。しかしテネリフェは中盤で危なげなく繋ぎ、ロサーノにボールを収め、アマトを走らせチャンスを作る。

「欲をいえばカウンターからもう1点ほしかった」とはマルティ監督の言葉だ。しかし失点しなかった事実も同じように大きな意味を持つはず。第二戦、アウェーゴールさえ奪えば、ヘタフェは3点取らなければならなくなる。テネリフェは心理面で優位な立場に立つことになった。

鹿島で経験してきた大一番の数々

緊迫した試合が中2日で続くプレーオフ。

肉体的疲労がないわけではない。後半終盤になるとついていけない部分も出てくると柴崎は認める。しかしそれを超える気持ちがある。

柴崎が心身両面で良好な状態にあることは最近のプレーを見ても明らかだ。

活きているのは、鹿島アントラーズで大舞台を戦ってきた経験だ。

「大一番は結構やり慣れているから、緊張はもちろんあるけど、いい緊張感を持ちながら試合に臨めている。リラックスしすぎないで、多少の不安も持ちながら、でもその不安がいい緊張感になって、いい体の状態に持っていけている」

鹿島で経験した負けられない試合の数々。半年前のJリーグチャンピオンシップも、スペイン行きのきっかけにもなったクラブワールドカップ決勝のレアルマドリード戦もそうだった。

考えているのは、とにかくピッチの上で自分のプレーに集中することだという。

「1部昇格とか、結果を求める、というよりは、試合の中で自分のプレーを最大限出すということ。結果は後でついてくると思う。CKと一緒ですけど、チームが勝つ確率をなんとか少しでも上げるために、いいプレーをする。勝てる時は勝てるし、負ける時は、一生懸命やっても負けるもの。でも、自分がいいプレーをするという、最低限のことはやりたい。それが結果につながればいいかなと思いますね。あとは運命というか、どこに導いてくれるかということなので」

決勝第二戦、後がないヘタフェは勢いよく攻めてくるだろう。準決勝で対戦したカディスも、ホームでは強さを見せテネリフェは押され続けた。

「ヘタフェはホームでは今日みたいに引かないだろうし、もっとノリノリになってくると思う。1−0で勝ったけど、まだわからない。いい結果が出るように頑張りたいです」

攻めてくれば当然スペースも空く。柴崎にとってはむしろ、カウンターからスペースへと走るFWロサーノやアマトを活かしやすい展開になるはずだ。

1部という未来を手繰り寄せることができるか。6月24日、ヘタフェの地で、今季最後にして最大の試合が柴崎を待っている。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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