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「俺は何の文句も言えない」ーハリルに呼ばれなかった男、乾貴士が語る決意。

豊福晋ライター
エイバルのゴール裏には毎試合、日本国旗が掲げられる(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

乾貴士に訊いてみたいことがあった。

先日ハリルホジッチ監督が発表した、日本代表についてだ。

指揮官は以前「所属クラブでプレー機会のない選手は代表に招集しない」と発言し、クラブでのプレー機会を重視する考えを打ち立てた。

拘束期間がほとんどない代表において、合流時点での選手の状態は非常に重要になってくる。

短い合宿ではコンディションを上げている時間などないし、クラブで定期的にプレーしていなければ試合勘や、体力面でも問題が出てくる。

選手をセレクトする立場として、プレー機会を招集の条件にすること自体は、代表監督の自由であり、ある意味では理にかなっている。

しかし、である。

今回発表された代表メンバーは、所属クラブで出場機会がない選手も含まれている。本田圭佑はミランで先発どころかプレー機会すらなく、ほとんど構想外に近い立ち位置だ。

無論、彼には過去の代表における多大な貢献がある。今回のワールドカップ予選2試合でも、ピッチに立てばそれなりのプレーは見せるかもしれない。

しかし気になったのは、欧州のクラブで先発としてプレーし、代表招集に価する活躍を見せているにもかかわらず、呼ばれなかった選手たちの思いだ。

努力してクラブで先発を勝ち取ったとしても、本来のハリルホジッチの選考基準から外れているはずの選手が代表のユニフォームを手にし、自らは外れる現状を、どう捉えるのか。

特に、スペインという、現在の欧州で最もレベルの高いリーグで先発の座をつかんでいる乾に、思いを聞いてみたかった。

問いかけると、その口からはシンプルな答えが返ってきた。

「もうそこは、監督の好みもあると思いますし、仕方ない部分なんです」

淡々としていた。どこかすっきりとした表情で語る乾を見ていると、招集されなかった事実を整理し、受け入れているようにさえ映る。

乾は続けた。

「チームというのはどこも、監督で決まるところがあるじゃないですか。自分自身、そこは切り替えてできています。それに、ここで結果を出せれば問題ないと思う。今季はエイバルでまだ結果を出していない以上、俺は何の文句も言えない。監督の招集基準についても、今は何とも思ってないですね。日本代表にはがんばってほしいですし、この2試合も勝ってほしい。今あるのはその思いだけです」

得点のみを「結果」とするのであれば、今季の乾は結果を出していない。未だ無得点にとどまっているからだ。

しかしパフォーマンスはいい。4−2−3−1の左サイドで多くのチャンスに絡んでおり、だからこそヨーロッパリーグ出場権を争うチームの中で、先発の座を勝ち取れている。

1月に少し落ちた体のキレも戻ってきた。オサスナ戦では惜しいシュートを放ち続け、18日のエスパニョール戦では左サイドからドリブルでエリア内に切れ込み、好機を演出した。

“乾が日本代表に呼ばれないなんて、日本ってのは相当に強いチームなんだな”

皮肉まじりにスペイン人記者に言われたことがある。スペインでも、日本でも「なぜ乾を呼ばないのか」という声は強まっている。

そんな周囲の期待を、乾は素直に喜んでいる。

「そういう声があって、そう思ってもらえるのは嬉しいことです。ただ、日本代表の左サイドにはたくさんいい選手もいます。監督が決めることなので、そこの辺は難しいですね。それが全てじゃないとも思いますし、また日本代表に呼ばれるように頑張って、呼ばれた時に結果を出せるようにしたい。まずはエイバルで結果を出さないとどこにいっても結果は出ないので、ここでしっかり頑張りたいです。ポジティブ?そうですね、そんなに気にしてないですよ」

選ばれなかった悔しさは胸の奥にはあるだろう。

しかし充実したシーズンを送る乾の言葉に見えたのは、それを超えた決意だ。実現しなかった代表招集への不満でもなく、リーガで先発の座を取ってもどうせ呼ばれない、というような諦めでもなかった。ハリルホジッチが無視できない、ゴールという目に見える結果を出し、いつか再び代表へー。秘めているのは、きっとそんな思いだ。

乾はブレていなかった。その目はエイバルでの現実をただ見つめながら、未だ肌寒いバスクのピッチを走っている。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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